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モンスターハンター!1 9章

銀嶺の双剣士 9章です。


モンスターハンター! 銀嶺の双剣士


 9章 狩人よ、前へ

 横っ飛びに転がってから膝を起こすと、背後でグルグルと不吉に濁った音がした。
「――っ!?」
「ギョワアアッ」
 本能で更に転がり、悲鳴を上げたギアノスを見ればなんと身体半分ほどが真っ白に氷りついている。ドスギアノスが巨大な氷液を吐いたのだ。あんなものを喰らったら、一発で動きを封じられてしまう! けれど驚くいとまもなく、右手にギアノスの奇声を聞くやいなやヒューは慌てて地を蹴った。
 ――へっ、さすが雪山。平地のモンスターとは一味違うってか!
 果たしてリーダーを得たギアノスの群れは、ただ小物が集まっていた時より格段に集団の統率が取れていた。個々の連携が半端ではなく、あちらへ逃げれば一匹が噛みつこうとし、こちらへ退けば別の一匹が待ち構えている。上手く回避して輪を抜けたと思っても、ドスギアノスのひとっ跳びで包囲の中心へ戻らざるを得なくなるのだ。
 遭遇した最初、威圧されて剣を抜き合わせる機会を逸したのが痛かった。完全に防戦一方になっていた。シャアアア、ゲロゲロゲロゲロ」
「ギョッギョッギョッギョッ」
 ギアノス四頭、ドスギアノス一頭。
 胸の悪くなるような哭き声を交わしながら円陣を組み、ジリジリとヒューを追いつめている。ハンターもちょこまかとよく回避するが、どういうわけかドスギアノスも決定的な一打を放たなかった。山中に晒された子分たちの屍体が頭にあって、ヒューを警戒しているのだろうか。
「ぐあっ!」
 どん、と重い衝撃が背中を襲い、顔面から雪の大地に突き込んでいた。
 ――しまった、後ろに……!
 ギアノスのジャンプキックを喰らったのか、と気づいたときには脇腹に別の痛撃。呻いてなすすべもなくごろごろと雪原を転がった。そして仰向けに目を開いた真上。ドスギアノスの巨体があった。
 ――やられる……!
 ガツッ! 鋭い痛み。側頭からどろりと熱い血が流れ出すのがわかる。
 だが、それきりだった。
「……!?」
 一瞬で自分を取り戻し、ヒューはなんとか立ち上がる。見渡せば再び円の中だ。ドスギアノスも悠然とそこに立っている。
 あの鉤爪が頭の皮膚をかすっただけで、踏み潰すことにも切り裂くことにも失敗したと言うのだろうか。倒れた無防備な獲物相手に?
 ――そんなかわいいヘマをするヤツかよ、こいつが?
 状況は再び戻っている。弱ってきたハンターを囲み、交互に執拗な攻撃を繰り返す竜たち。爪や牙が身体をかすり、蛇のような長い尾がしなってあちこち打ち据える。増えていくのは致命傷には至らないわずかな出血の浅い傷。
 もう一度転がされたころには、ヒューも悟っていた。
 ――野郎……、俺をいたぶってやがるのか!
 背筋が冷えた。
 ゆっくりと緩慢になぶり殺しにするつもりなのだ、このドスギアノスは。
 復讐なのか遊びなのか、竜の思考など読めるはずもない。確かなのは体力も尽きかけ、使える道具も誰からのサポートも無いというこの状況が、ただひたすら絶望的だということだけだった。
 死は、白い姿をしてそこに立っている。
 他の誰のものでもない、それは間違いなくヒュー自身の死だった。
 ――先に……。
 オモチとシシィを逃がしておいて、正解だった。
 ぼんやり思ったとき、再び背中に強い打撃があった。流れ下る血で右目が塞がり、死角からの攻撃に対応できなかった。息を詰まらせ、無様に倒れて全身を打つ。その瞬間、口内を切ったらしく、寒さで麻痺した嗅覚にざらりと血の味がにおった。
 不意に。死んでたまるか、と思った。
 ――だらしねえ。
 拳を握る。咳きこみながら立ち上がり、白い雪上に赤い唾を吐き出した。
 ――ギアノスごときにくれてやるほど、俺の生命は安かないね。
 ことり、音立ててハンターの中で目覚めたものがある。宴のさなかにあるようなモンスターたちは、そのことには気付かないまま。
「ギシャアア、ギャアア!」
 二度、三度、いいように遊ばれながらも、爪と牙と氷液をヒューはすんでで避け続けた。血は流れても倒れはしない。囲まれた当初から諦めてなどいなかったのだ。目指していた場所がある。そこまで、もう少しでたどり着く――!
 そして何度目かの苦しい攻防のあと、ついにチャンスは訪れた。背後からのドスギアノスの大ジャンプ。空気の動きに振り返り、むしろ足元に滑り込むような回転回避。ヒューはついに群れの輪から跳びだしていた。
 すぐに一頭のギアノスがハンターを跳び越す形で円陣に戻そうとする――だが、それは叶わない。着地と同時に紅色の双剣が、獲物を狙う鷹の正確さでモンスターの心臓を突き通したのだ。
 ゲッゲッ、と怒りとも悲鳴ともつかないわめきを、ギアノスたちが初めて上げた。
 剣を抜く時を与えてしまったのは、これまでと違って素早くハンターの左右に回り込むことができなかったから。ヒューが立っていたのは狭い切通しの道。もはや囲むことは不可能。
 鋭い刃風を立てて無造作に血を振りはらい、ようやく双剣を構えたヒューがかすかに笑んだ。
「この道……」
 実は、縁のある道だ。
 ポッケ村へ来た最初、この道を通ったあとに崖から落ち、この道を通ってきたドスファンゴにぶっとばされた。三度目の正直。今度は俺がここでお前らを倒してやる。
 はやって跳びかかって来た一頭を、敵の勢いを利用して馳せ違うように斬り裂いた。落ちるギアノスの重さに引きずられ、耐え切れずにヒューは二三歩たたらを踏む。
 肩で息をしている。何度もどつかれて雪まみれだ。スタミナ切れも近い気がする。鎧はあちこち裂けて破れ、頭の流血は止まらない――だから、どうした。
 巡る血液が沸騰したとでもいうのか、全身から蒸気が噴き上がるように熱い。邪魔な兜を脱ぎ捨てて、流れる血をぐいとぬぐった。両目が開く。
 ドスギアノスの背後に広がる大空に、オーロラが音もなく燃えあがっていた。
 目は、見えている。耳も聞こえている。
 鉛のように重くとも腕や足は動いており、両手の双剣は折れてはいない。
「ギョロロロロ……」
 ドスギアノスの態度に初めて躊躇が表れる。子分はすでに二頭に減った。下手に手出しできないと悟ったのか、残りは後退りに頭領の影に隠れている。
「これでようやく――」
 人を相手にするように、ヒューはモンスターに語りかけた。
 青炎の燃えるような双眸で真っ直ぐ魔物を見据えながら。
「俺とお前の一騎打ちだ。来いよ、鳥野郎。この山から二度と外へ出られねえように、今ここでギタギタにしてやる――!」

 * * *

「なんなんだ、これは」
 山道に累々と横たわるギアノスの屍に、ザクセンも村人たちも唖然としながら脇を走り抜けた。
 胸を裂かれ、脚を切断されて血沼の中で息絶えているもの、首の血脈を跳ね飛ばされて即死したと思われるもの。中にはまだあがいているものもいたが、ほとんど虫の息だった。
 刀傷は一種類。よく切れる細身の刃でつけられている。独特の平行な傷跡は間違いなく双剣によるものだ。
 ――ヒューがやったというのか。これだけの数を、一人で? しかも恐ろしく正確に急所を突いている。
 信じがたい思いは、同時に希望と不安のないまぜに変わる。これなら、ヒューはまだ大丈夫かもしれない。けれども、道々ドスギアノスの死体は見なかった。
 村人の一人に肩を貸してもらいながら、ザクセンはほのかに明るい洞窟の出口を目指した。
 内部にヒューはいなかった。そして群れを壊滅させられて、ドスギアノスが黙っているはずがない。ならば勝手知ったる狩猟場だ。ドスギアノスがこの時期に山のどこを通るのか、ザクセンには見当が付いている。
 白い鱗のギアノスは雪の色に紛れて狩りをする。縄張りの巡回も峰伝いだ。もしもやつらが手強い獲物を追い込もうとするのなら。
 ――おそらく、集団で襲いやすい開けた雪原にするはずだ……!
 外の山道へ、出た。
「皆、用心しろ。この先はどこからドスギアノスが出て来るか私にもわからん」
「ザクセンさん! オモチが」
 はっと指さす方へ視線をやると、本来の四足でずっと先行していたオモチが手を振っているのが見えた。振っているというよりは、腕を回して方向を指し示しているようである。こちらが気付いたことを確認すると、パッと身をひるがえして駆けて行く。
「ヒューがいるのか……!? よし、我々もオモチに続こう!」


 ――追いかけた先に見たものは。
 紅蓮、緑碧、黄金。妖しいまでに色彩を変えて天空に爆発するオーロラと、静かに冷えわたる白銀の大地との狭間で、互いに血を流しながら激しい死闘を演じ続けるハンターとドスギアノスの姿だった。
「ヒュー!」
 すでに満身創痍だ。
 兜を脱いだ頭半分、銀髪も顔も血濡れている。鎧の布地は破け、金属当てまで所どころ壊れて剥がれている。その凄絶な姿でなお、ヒューはモンスターに果敢でいた。
 せまい通路に陣取って、足元に二頭のギアノスが転がっている。視線と剣先をぴたりとドスギアノスに張り付かせ、隙を見せれば裂帛の気合を込めて流星のように斬り込んだ。
 竜の攻撃にも大げさな回避はしない。ほとんど半歩で身体をひねり、かわすと同時に肉薄して猛然と斬撃を叩き込む。逆上したドスギアノスが反撃態勢を取った頃にはスッと通路に退くのだから、周囲をうろつくギアノスも付け入る隙を見出せない。
 餓狼に似た闘気すらまとっているように見えた。比べれば二倍も背丈に差があるというのに、むしろドスギアノスがヒュー一人に圧倒されていやしないか。
 ――あれが、双剣士か。
 攻撃こそを最大の防御とし、大胆に敵の懐へ突っ込んで斬り合いの中に活路を見出す。恐るべき闘争心と胆力の持ち主でなければ扱えぬ武器、それが双剣デュアルソードだ。
 これまで幾人もの双剣士を見てきたザクセンでも、初めて抱く感慨だった。それほどまでに凄まじい。
「旦那さん!」
 けれど、オモチの悲鳴が高く響いた。一瞬ヒューがふらついて、ドスギアノスの噛みつきを正面から受けそうになったのだ。おまけに親分の影に控えていた二頭のギアノスが、ここぞとばかりに駆けよる気配を見せていた。
「雑魚ども、こっちだ!!」
 ザクセンは声を張り上げた。オモチも勇敢にギアノスの間近へ駆けよって行き、鼻先を挑発してうまくこちらへ誘導してくる。
「引退したからといって、なめるな!」
 横薙ぎ一閃。近付くギアノスを容赦なく大剣で弾き飛ばして、ザクセンは叫んだ。
 壊れた足では、素早いドスギアノスの動きについていくことはできない。せいぜい下っ端どもを引きつけておくのが精いっぱいだ。ヒューがギリギリの状態なのは痛いほどわかっている。が、今は任せるしかなかった。
 ――すまん。
 視線が交差した刹那。
 ザクセンはそう思ったが、驚いたことに青年は笑ったようだった。
 ――やるじゃねえか、オッサン!
 不遜に上げた口の端から、そんな言葉が漏れてくるような眼の光。
 そして邪魔な子分が消えた広場へ双剣士は疾駆する。追って跳躍してきたドスギアノスをザクセン含む村人たちが武器を掲げて取り囲み、ここに立場は逆転した。
 狩るものが狩られるものになったのだ。


「ギャアア、グワアアッ」
 それからの攻撃は一方的なものだった。
 逃げようにも逃げられないドスギアノスが円陣の中で戸惑い喚き、人々の支援を得たハンターがモンスターの弱点である側面を突く。
 疲弊しているとはいえ、ドスギアノスは体力も皮の硬さもギアノスとはケタが違った。攻撃を当てやすいのは胴だが、パワーのある大剣や太刀、ハンマーならともかく双剣では致命傷を与えるまで手数がかかる。ヒューが狙ったのは脚だった。
 できれば両足。片足だけでも、竜の動きは極端に遅くなる。時にはジャンプするドスギアノスの下を通り抜けざまヒューは斬撃を繰り出した。わずかな血、だが深い傷。正確に魔物の筋と靱を傷つけていた。そしてたまらず倒れた時にこそ、体重を掛けた痛撃を急所に深々と撃ちこんでいく。
 動き回る余裕を得て、ヒューの剣さばきは踊るような流麗な動きになった。それほど複雑そうには見えないのに、身体の動きが眼で追えない。緩急自在の攻撃で、しかもあまりに無駄がないせいだ。
 時折、キラリキラリと双つの刃にオーロラの色が反射する。舞い散る血しぶきにも関わらず、何か不思議な儀式でも見ているかのようだった。
「デューランの末っ子が、なかなか立派に育っているようじゃないかね」
「村長?」
 シシィ発見の知らせを受けて、遅れてきた一団が合流したのには気付いていたが、その中から予想外の声がした。ザクセンが驚いて振り向くと、のっそりしたミノ姿はまぎれもなくオババ様である。
「セシリアのことなら心配ないよ。ワシもヒューが気になっての。急いで来たのだけれども、なんとか乗り切ったようだね」
「危険なところでしたが、もう大丈夫。そろそろ終わるでしょう。……しかし、村長。ヒューの父親を知っているのですか?」
「ふむ、ワシの友での。おそらくヌシも知っておろうよ。デューラン・パーシヴァルの名を聞いたことはないかい?」
「デューラン?」
 確かにどこかで聞いた名だ、と記憶を手繰って閃いたものがある。いたずらっ子のような目で見上げる村長をまじまじと見返した。
「まさか。G級ハンターの双剣士デューラン? 何年も前に行方不明になった?」
「いかにも。あれは《双閃鬼そうせんき》デューラン・パーシヴァルのせがれじゃ。三兄弟の一番下よ」
 村長が言ったとき、わっと歓声が上がった。同時に、どう、と重い音。
 ドスギアノスを、とうとうヒューが仕留めたのだ。

 * * *

「もーーーダメ、もーーーーー死ぬ。もーーーーーーへえぇぇえぇ」
「もーーへーー…って……、何ニャら……」
 断末魔の悲鳴を上げて倒れたモンスターの横に、双剣を放りだしたヒューも一緒にひっくり返った。今晩は山を何往復もして、懸命に走り回ったオモチも並んで倒れこむ。二人とも、使いきったボロ雑巾のようにすっかり汚れてずたぼろだ。特にヒューなどは、頭半分真っ赤なのだから壮絶である。
 まったくひどい有様だ。
 互いにちらりと眼を走らせると、どちらともなくニヤッと笑った。大の字に転がったままパシリと手と手を打ち合わせる。言葉は必要なかった。
 功を讃えて、笑顔になった村人たちが半身を起こした二人をねぎらった。ザクセンも近寄ると、膝を落としてヒューの頭の傷を覗きこむ。
「お前のヘルムだ、そこに落ちていた。……薄皮一枚引っ掛けられただけか」
「ああ、サンキュ。出血は派手だったけど、もう止まったし平気さ。ただ、どうも肋骨が一本イッてるらしくてちょっと苦しい。他はまぁ、半端なく疲れただけかなぁ」
 ナハハと笑ったヒューは、唐突に軽く頬を打たれてきょとんとした顔になった。
「馬鹿者が。身のほどを知れ」
「へ?」
「我々が来るのがあと少し遅ければ、シシィもお前たちもどうなっていたか。お前たちだけでシシィを助け出そうとするのが自殺行為だと解っていたのか!?」
 見たこともない険しい表情で、ザクセンが怒っていた。
 突然のことにびっくりしたのはヒューだけではなかったようで、村人たちも戸惑ったように村長を見る。けれどもオババ様も黙っているので、猟筒を担いだ一人が取りなすように声を掛けた。
「まぁ良いじゃないか、ザクセンさん。シシィも無事に救い出してくれたことだし、ドスギアノスまで一緒に片づけちまったんだ。さっきの双剣遣いときたら、私らから見ても見事だったと思うよ」
「だからだ。なまじ腕が立つぶん、今言っておかないとこいつは自覚無しで自分の寿命を縮めるだろう。断言してもいい。遅かれ早かれ、その辺の狩場で簡単に死ぬぞ」
 そう言われては、村人たちに口を挟む余地はない。
 きっぱり言い切られてしまったヒューも身に覚えはあるらしく、反駁もしなかった。棒でも飲んだような顔つきで何度か瞬きしているだけだ。
「なるほどお前の双剣はなかなかのものらしい。だが自分がハンターとしてはヒヨッコで、頼りにすべき経験もないことをしっかり頭に刻みこんでおくことだ。慣れない狩場で、よく知りもしないモンスターと不用意に戦うことがどれほど危険か、今回のことでよくわかったろう。二度とするな!」
 しん、と静まり返ってしまうほどの迫力だった。
 ちょっとの間をおいて、ようやくヒューが頷く。
「あ、ああ。すまなかったよ……」
 ――なにげに、背筋が伸びていた。完全に叱られた子供の態勢に入っている。
 それを見て苦笑したザクセンが、こう言って手を差し出してきたとき、だからヒューはまたもやぽかんと眼の前の前任ハンターを見上げることになった。
「ポッケ村の村人としてお前に礼を言おう。シシィを救ってくれて心から感謝する」
 ありがとう、と。
 ザクセンだけでなく、その場にいた全員が口々にヒューに言葉をかけていった。
 何が何だかという顔でぼけっとしている腕をオモチにつつかれ、我に返ったヒューが慌てて手を握る。立ち上がり、改めて堅く握手をした。
「オットーよ。ヌシに先にそれを言われては、ワシはちと困るの。見よ、皆にも先を越されてしまったではないか。村長としての立場がないわ」
 村長の言葉に皆が笑った。オババ様はちょこちょことヒューの前まで来ると、杖を身体の正面に姿勢を正した。
「我らは、新しい村付きハンターとしてヌシを歓迎するよ、ヒュー・パーシヴァル。さあ、報酬を剥ぎ取るが良い。それはヌシとドスギアノスの生命と力の証だよ」
 示された先には、おのれが倒したモンスターの巨体が横たわっている。
 腰にさげていた剥ぎ取り用のナイフを抜くと、ドスギアノスの牙と爪、そして鱗を剥ぎ取った。滑らかに輝く美しい鱗を、ヒューはすこし掲げるようにする。本気で命を削って得た初めての報酬だ。狩られた者はいずれ大地に還ってゆくが、今日のこの狩りのことを自分は決して忘れないだろうとヒューは思った。
「さて」 とオババ様が手を打った。
「血の匂いを嗅ぎつけて大型飛竜が来る前に、村へ帰るとしようかね。自分の足で歩けるかい、我らがポッケ村のモンスターハンター殿?」
 オババ様の問いかけに、大きく笑ってヒューは応える。
「ああ、もちろんだ!」
 ――そうは言っても緊張のとけたヒューは実際へろへろで、オモチや村人たちに支えられてやっと歩ける有様だった。けれど、もう慌てる必要はない。傷だらけのハンターに合わせてゆっくりと、人々は山を降りていく。
 空では幕が引いていくように、オーロラが静かに輝きを弱めていた。
 夜明けまでは、まだすこし時があるようだった。


(「10章 エピローグ」へ続く)
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