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モンスターハンター!1 6章

銀嶺の双剣士 6章です。


モンスターハンター! 銀嶺の双剣士


 6章 セシリア

「ああっ、ずるいニャ旦那さん! その雪山草はオイラが先に見つけたのニャー!」
「なァんでお前が先だってわかるんだよっ。見つけたのは俺が先ぃ!」
 旗取り競争でもするがごとくヒューとオモチが殺到すると、次の瞬間ヒューの右手には高々と雪山草が掲げられていた。
「おっしゃあ、最後の雪山草ゲーット! ……ってオモチ。お前、もうちょっと悔しがるとかしたらどうだよ」
「アホらしいニャ。大陸中探しても、自分のオトモと全力で依頼品奪い合うハンターなんか旦那さんくらいのもんニャ」
「とかなんとか言ってるけど、さっきまではお前もノリノリだったじゃねーか」
「ニャッ……。だ、旦那さんのおバカ加減がうつってきたニャ……」
「っとに可愛くねえよな、お前はっ。うりゃうりゃうりゃうりゃ!」
 ヒューが両拳でオモチのこめかみをぐりぐりすると、オトモはニャアアと悲鳴を上げた。
 ドスファンゴにぶっ飛ばされてからすでに五日。とっくに全快したヒューは、昨日今日と立て続けに新たなクエストを受注していた。本日の仕事はポッケ村在住雑貨屋のおばさん依頼の品、薬草酒にするための雪山草5本の採集である。朝からかかれば昼には終わってしまう簡単な内容だった。
「昨日のガウシカの角集めの方が、まだやりがいあったよなぁ」
 山麓のベースキャンプにて。
 据え付けのベッドにどっかと腰をおろしながら、ヒューが言った。
「もっとこう、剣を使える仕事が欲しいぜ。モンスターの討伐依頼とかないのかな」
「それ、怒ったガウシカに追い回されてたハンターの台詞じゃないニャー」
「うっせ! でもお前だって張り合いないだろ? 集められる素材もタカが知れてるしよ。今日は何か良いもん見つかったか?」
 ニャアと小首を傾げて、オモチは肩にさげていた荷物入れを探った。クエストのついでに色々集めてはいるものの、ヒューの言うとおり大したものは拾えていない。
「石ころと薬草少し、ネンチャク草。役に立ちそうなのはアオキノコくらいニャ」
「生肉だけは、昨日の仕事のおかげで不自由してないけどな。村の依頼も今日はこれしかなかったし、午後は肉を燻製にする作業でもするか。あとは訓練所にでも行くかなぁ」
「集会所でギルドの依頼を調べてみたらどうニャ?」
 思いついてオモチが言うと、ヒューの顔がぱっと輝いた。
 ポッケ村には街のハンターズギルドの支部がある。村の依頼とは別に、集会所にはギルドを通して大陸中から集められた様々な依頼が提示されており、ハンターたちはその中から自分の好きな仕事を受注してくる。フリーのハンターは仕事の全てがその形だが、ヒューのように特定の村の専属ハンターであっても優先するべき村の仕事がない場合、ギルドの仕事を受けて悪いということはない。
 ハンターの危険を考慮して、ハンターズギルドは依頼を難易度順に整理してから振り分けている。駆け出しハンターには簡単な依頼しかないだろうが、それでも《採集クエスト・雪山草五本》よりはマシな仕事があるだろう。
「いい考えだな。帰ったら早速見てみようぜ!」
「肉の燻製が先ニャ」
 オモチの念押しにヒューの気合いが空振った。


 捌いたあと、塩とコショウ、数種の香草をすりこんでおいたガウシカの肉をひもで吊るし、一度塩を洗い流してから桜の木片で燻製を始めた。部屋の中でやるわけにはいかないのでどうしようかと思ったら、前任ハンター――つまりザクセンだ――が使っていた小さな燻製所が家の横に設けてあった。
 燻製肉の作り方などヒューがよく知らなくても、ちゃんと心得ていたオモチがてきぱきと準備をした。武器の扱いはまだまだとはいえ、道具の扱いや調合となるとオモチは並のハンターより博識である。
「このまま二時間くらい燻したら、一度様子を見るニャ。オイラは燻製を保存する袋を探してくるから、旦那さんは火加減を見てるニャ」
 あまり強火にしないこと、煙を上げすぎないよう注意すること。くどいくらいに念を押してオモチは家に入って行った。
 そのへんにあった切り株に座り、ナイフで継ぎ足し用のチップを折っていると、手元が不意に暗くなってヒューは顔をあげた。
「こんにちは」
「お、おう。こんちは」
 なんとなくヒューはぺこりと頭を下げてしまった。そこに立っていたのが、十歳にもならないくらいの小さな女の子だったからだ。
 ガウシカ革のマフモフ防寒具を着ているからには村の子だろう。耳までおおう帽子にも収まりきれなかったと見えて、金色の長い髪がこぼれて顔にかかっている。ちょっぴりそばかすの浮いた頬に笑くぼを作り、女の子は「あのね」と言った。
「お兄ちゃん、新しいハンターさん?」
「ああ、そうだよ」
「お兄ちゃんが、わたしのお薬をお山に採りに行ってくれたんでしょう? お母さんが言ってたの。ありがとうを言ってきなさいって」
「薬? ……あ! そうか、お前」 病気をしていた子だ、とヒューは気付いた。
 最初のクエスト、十五本の雪山草摘みを依頼した人物の娘である。聞いた限りでは相当具合が悪そうだったが、目の前の少女はすっかり顔色も良い。雪山草の薬効はかなりのものだったらしい。
「病気はもう良いのか?」
「うん! お薬苦かったけど、飲んだら苦しいのがなくなったの。お咳も出なくなったし……。お医者さんもね、今日からお外に出てもいいって」
「そっか。良かったな」
「うん、本当にありがとう! わたしセシリアっていうの。みんなはシシィって呼ぶわ。お兄ちゃんは?」
「俺はヒューだよ。ヒュー・パーシヴァル。んで今は家ん中にいるけど、俺のオトモアイルーはオモチってんだ。そいつも雪山草採りを手伝ってくれたんだぜ」
「おともアイルー? それ、なあに?」
「狩りの仲間で、友達さ」
 ふうんとひとつ頷くとシシィは何が嬉しいのかくすくす笑い、上着の裾をひるがえしてくるりと回った。
「本当に元気になったみたいだな」
「うん。……ヒューお兄ちゃん、今お仕事してるの? 忙しい?」
「仕事っつーか、まぁ仕事かなぁ。燻製が終わったら集会所にも顔出すつもりだし、暇じゃあねえな。なんで?」
 こんな子供がハンターに仕事の依頼か?
 首を傾げて見ていると、シシィはうつむいてもじもじした。唐突にヒューは気がついた。
「もしかして、遊びたいのか?」
 途端にニコッとシシィが頷いたので、ヒューは苦笑して頭を掻いた。どういうわけか懐かれてしまったようだ。
 ――ポッケ村は良い村である。
 のどかで物流もあり、温泉も湧いていて人々は親切だ。けれども初心者ハンターという事実と最初の負傷のせいで、いまだ村人たちはヒューに対して余所者という態度を崩さないようだった。毎日ぎこちない笑顔で挨拶され、ふと眼が合うと慌てて視線をそらされたりしていれば、いくら能天気なヒューでも気がつくというものだ。
 だからこの小さな女の子の好意は、ヒューには純粋に嬉しいものだった。子供とはいえ、村人から示された初めての信頼と言える。
 持っていたナイフをかたわらに置くと、ヒューはシシィと正面から向き合って笑いかけた。
「俺はあと二時間くらいここでじっとしてるだけで、あんまりすることないんだ。そのあいだだったら遊べるぞ。でも、女の子の遊びなんてよく知らねえけどな」
 困ったなあと思ったとき、折よくオモチが家から出てきた。ヒューは手を振る。オモチなら、何かちょうどいい遊びを知っているだろう。
 何事かと訝しげな顔をしてオモチはヒューとシシィを見比べた。

 * * *

「お母さん、ただいま!」
 帽子をとった金髪の上に黄色い花冠を乗せて、シシィは家の玄関を開けた。
 そろそろ夕方という時刻。厳寒の時期はとうに過ぎても、ここは北の大地である。日が沈むと急に気温が落ち込んでくるので、早めに戻るよう母親に言われていた。
 玄関先の鏡に映った自分の姿を見て、シシィはにこにこした。花冠のほかにも右の手首には赤い花の腕輪がある。きっちり作られた冠はオモチの作、多少ぶかっこうな腕輪がハンター作だ。難しい顔をして、オモチに色々言われながらも一生懸命作っていたヒューを思い出すと、また嬉しくて楽しくなった。
「見て見て、お母さん! ハンターのお兄ちゃんとオトモさんが作ってくれたの」
「あら、お帰りシシィちゃん。もうすっかり元気ね」
 居間へ飛びこむと、いたのが母親ではなかったのでシシィは少し驚いた。お隣のおばさん。母親と仲が良くて、お茶を飲みに互いの家を出入りしている間柄だ。シシィもよく遊んでもらう。
「こんにちは、おばさん」
「はい、こんにちは。新しいハンターさんのところへ行っていたの?」
「うん。お花の輪っかの作り方を教えてあげてきたの。そしたら、ほら見て。オトモさんは上手だけど、ヒューお兄ちゃんはへたっぴだったわ」
「お帰りなさい、シシィ。お外から戻ったら、ちゃんと手を洗ってうがいをしなきゃね。そのあと、あなたのぶんもハーブティーを入れてあげるわ。蜂蜜もたっぷりよ」
「はあい」
 母親と入れかわりにキッチンに走って水瓶を使う。冷たい水で手を洗っていると、居間から二人の話声が漏れてきた。
「ヒューっていうのね、新しいハンターは。ずいぶん若いみたいだけど。初心者って噂は本当なの? あなた先日仕事を依頼したんでしょ?」
「ええ。村長は上級ハンターを雇うつもりだったのに、間違いがあったとか……」
「雪山草を摘んでくるくらいはできたみたいねえ。でもドスファンゴにも歯が立たなかったってことですもの。ちょっと頼りないわ。これから本当に大丈夫なのかって、皆が言っているのよ」
「そうそう、聞きました? 今年もまた山にギアノスが集まり始めたんですって」
「あら本当。もうそんな季節ね。今年は群れが降りてこなけりゃ良いけど」
「やっぱりまだザクセンさんに、どうにか頑張ってもらったほうが良いんじゃないかしら。あのハンターさんじゃちょっと心もとないもの……」
「ちがうわ! ヒューお兄ちゃんは弱くなんかないもん!」
「シシィ」
 二人の会話に割りこんでシシィは叫んだ。頬を赤くしてすごい剣幕だったので、母親もおばさんもちょっと驚いたように口を閉じた。
「わたし知ってるのよ。山のお薬って、とっても高くてとっても危ないところにしか生えてないんだから! ハンターさんしか行けないところにしか、生えてないんだから! ヒューお兄ちゃんは、ちゃんとお薬採ってきてくれたわ!」
「ええ、そうよねシシィちゃん。おばさんもわかってるわ」
「わかってない! ヒューお兄ちゃん、シシィと一緒に遊んでくれたもん!」
「シシィ……、セシリア。あなたまだ病気が治ったばかりなんだから、お部屋でご本でも読んでなさい。お母さん、おばさんとまだお話があるから」
 お茶の入ったカップを渡されたが、いらないと突っぱねてシシィは寝室に駆けこんだ。乱暴にドアを閉じてベッドに飛び込む。風船がしぼんだみたいに、楽しかった気持ちがどこかへ消えてしまって悲しかった。
 ――どうしてあんなことを言うのだろう。お母さんもおばさんも、お兄ちゃんのことなんかぜんぜんわかっていないくせに!
 シシィが熱を出して寝込んでいたとき、大人たちは水を飲ませたり濡れた布で汗をぬぐうばかりで、どうすることもできないようだった。焼けつくような喉の痛みと息苦しさの中、医者が何度も「雪山草があれば」と言っていたのを憶えている。
 薬湯が届けられると、奇跡のように熱は下がり胸の喘鳴がとれた。喉の痛みもすっかりなくなった頃になって、シシィのために薬草を採取に行ったハンターが、恐ろしいモンスターに襲われて大怪我をしたらしいという話を枕元に聞いたのだ。
 子供心にも申し訳なく思うところがあって、訪ねてみたハンターはしかし、ピンピンしていた。怪我の面影など頬に貼られた白いテープに残る程度である。そして青年が屈託ない笑顔で一緒に遊んでくれたとき、シシィはこの新しいハンターを本当に好きになった。
「みんなわかってない。みんな知らないんだわ、お兄ちゃんのこと。今度はわたしが何かするのよ」
 突っ伏していた枕から顔を上げて、シシィは小さな拳を握りしめる。
「ヒューお兄ちゃんのために、きっと何かできるわ」
 そう呟いたときだ。窓の向こうの坂道を別れたばかりのハンターが下っていくのが、シシィの眼に入った。
 ――ヒューお兄ちゃん! オトモさんも一緒だわ……。集会所に行くのかな?
 もう夕暮だが、ハンターは夜に狩りを行うこともあるらしい。村を訪れるハンターたちも前任ハンターのザクセンも、まず集会所に寄ってから狩りに出かけて行くことを小さなシシィも知っていた。
 ――ようし。
 起き上がると、音を立てないようにそっと寝室の扉を開けて居間の様子を確認した。母親はまだおばさんと喋っている。
 シシィはこっそり自分の部屋へ入ると、リュックを取り出してコートを着こんだ。部屋に鍵をかけてから窓を開ける。誰か見ていないだろうか? いや、大丈夫。
 窓枠に足をかけてシシィはぴょんと身軽に外へ飛び降りた。

 ――不用意な噂話が。
 このとき少女を危険な行動に駆り立ててしまったことに、村人たちが気付く頃。すべてが後の祭りとなっていたのだった。


(「7章 急襲」へ続く)
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