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モンスターハンター!1 5章

銀嶺の双剣士 5章です。


モンスターハンター! 銀嶺の双剣士


 5章 ぶっとばされて

 ちちち、ちちちちち。
 ――……う。う、
「うるせい鳥っ! じゃねえ、剣剣剣! 俺の剣は!?」
 ガバッと飛び上がったヒューは瞬間、全身の痛みに悶絶した。
 どこもかしこもズキズキする。特に背中がひどいようだ。それでも必死に眼を開いて敵の姿を探したが、どこにもモンスターは見当たらなかった。
 というか、雪すらもない。そこは柔らかいベッドの上。見覚えのあるようなないような、小奇麗な部屋の中だった。
「落ち着け、ヒュー。お前の双剣はそこにある。ついでにここはお前の家で、山じゃない」
「ザクセン? お、おおっ、なんだこりゃ!? ミイラか俺は!」
 声を聞きつけたらしく、奥のキッチンから陽に焼けたひげ面が姿を見せた。ポッケ村付き先代ハンター・ザクセンである。ということは、確かにここはポッケ村だ。
 全身包帯グルグル巻きのヒューに、ザクセンは苦笑しながらコップを差し出した。綺麗な清水がなみなみと注がれている。
「まず、水を飲んで気を鎮めるのだな。……安心したまえ、見た目は散々でも怪我は大したことはない。せいぜい全身打撲と軽い火傷で、骨折がないのが不思議なくらいだ。感心するほど丈夫だぞ、お前」
「そ、そうか。ありがとな」
 頭や顔まで包帯やガーゼが押し当てられているので、どうもうまく喋れない。ぷんと青臭いのは、包帯の下に練ってペースト状にした薬草を塗っているからだろう。
 ほっとしながらヒューは喉を鳴らして水を飲んだ。
 そうしてみると、自分がいかに渇いていたかがわかる。三日くらい何も飲んでいなかったみたいに、水が身体に沁みとおった。
「まったくお前というやつは、運が良いのか悪いのか……。どうして毎回自分の足で村に入ることができないのだろうな」
「俺、何日寝てたんだ?」
「一晩だけだ」
「雪山草は?」
「お前のオトモがしっかり納品したようだな」
「よく死ななかったな、俺」
「そのあたりはオモチから詳しく聞くといい。昨日お前のオトモが血相変えて走ってきて、ドスファンゴに襲われたと聞いたときは駄目かと思ったもんだったが……」
「ふむ、やれほ! 目覚めたようだね、ヒュー・パーシヴァル。具合はいかが」
「村長」
 玄関を軽くノックしてオババ様がのそのそと入って来た。今日もやっぱり妙な挨拶で、頭には帽子とミノをひっかぶっている。
 ヒューがベッドから立とうとすると、村長は「よいよい」と手で制した。
「医者の話ではのう、頭を打っておると危険なので、このまま二、三日は安静にしとれということだね。身の回りはオトモに任せて、しばらくそこで大人しくしておれ。若者には辛かろうがの、ひょひょひょひょひょ!」
「怪我なんか大したことねーけどさ。村長さん、俺――」
「うむ、クエストご苦労だったね。ヌシのおかげでシーラの娘も容体が安定したようでの、まず安心ということになった。シーラも感謝しておったのう。これは村からの報酬金じゃ、取っておきなさい」
 ぽんと手渡された革袋。
 それが存外ずっしり重くて、ヒューはぽかんと口を開けた。
「ま、待ってくれよ村長さん。確かに頼まれた物は採って来たけど、それはオモチのおかげなんだ。俺はドスファンゴにぶっとばされて帰って来ただけだぜ?」
「オトモアイルーの給金は、別にハンターズギルドが支払う仕組みになっておる。だから依頼を受けたのがヌシなら、報酬はヌシのものだの」
「いやでも、そうじゃなくてさ、なんつーか」
 ドスファンゴを倒せなかったと責められることを、ヒューは覚悟していたのである。なのに村長には感謝されて、報酬まで貰ったのではあべこべだ。どうもしっくり来ない。
 複雑な表情をしていると、ザクセンが声を掛けてきた。
「受け取っておけ、ヒュー。装備や道具の調達も金がなければ出来ないだろう。それとも何か、お前は今回のクエストを失敗だったと思っているのか?」
「失敗だろ、完全に。仕事はドスファンゴの狩猟じゃなかったけど、俺は死んで戻ってもおかしくなかった。ハンターが生きてなかったら普通はクエスト失敗だ」
「だがその傷、ほとんどが火傷と軽い打ち身だろう。お前自身ではなく、オトモのサポートがまずかったと我々はオモチに聞いたぞ」
「げっ、あいつ~。そこまで言ったのかよ」
 頭を抱えてヒューは呻いた。一番バラされたくなかったところがバレている。
 ザクセンがどこか意外そうに眉を上げたのが見えて、しぶしぶ青年は口を開いた。
「俺が、まずかったんだ。双剣士は誰よりもモンスターに近付いて戦うぶん、周りの状況をいつも把握しとかなきゃならねえ。ほかの敵の接近に気付かなかったら命取りだし、仲間同士で傷つけあうこともじゅうぶんあり得ることだからな」
 それは一人で狩る場合も、仲間と狩る場合も変わらない。
 目前のモンスターだけに集中せず、敵の動向、仲間のサポート、ひいては地形や天候の変化にまで神経を配り、なおかつ敵の急所を斬る。それはそもそも全てのハンターに必要とされる要素とはいえ、全身凶器のごときモンスターに最接近するともなれば重要性は段違いだ。
「四方八方に耳目を持て、それが双剣士だ」
 かつて、そう教わった日のことをヒューはよく憶えている。そしてこれができずに見事に同志討ちとなったのが、昨日の狩りでもあったのだ。
 ――だから。
「俺のしくじりなんだよ。双剣士として、俺がまだまだ未熟だったってことなんだ。オモチのせいとか、そんな簡単なことじゃねえ」
 一息で言うと、はーっと似合わないため息など吐いてヒューは口をつぐんだ。
 ……情けないことを言わされてしまった。部屋の沈黙が重い。
 こりゃすぐにでも村を追い出されるかなと思い、おそるおそる視線を上げると、案外ザクセンはすこし驚いたような顔をしてヒューを見ているだけだった。
 村長の方は、目は糸のように細いし顔中シワだらけだしで、もともと笑っているのか泣いているのかも判別不能な表情である。
 沈黙に耐えきれなくなったヒューが、とうとう何か言いだす前に。
「とにかく、今は休んで傷を治すことだな。そうそう、オモチにはよく感謝してやれ。さっき私が来るまでは、あれはお前につきっきりだった」
 ザクセンがそれだけ言うと、村長とともに家を出て行った。残されたほうは何だか狐にでもつままれた感じである。手の中の革袋にヒューは眼を落とした。
 ちちちち、ちち。
 部屋が静かになったからか、いつの間にか小鳥が窓から覗きこんでいる。顔を上げて青年はしばらく鳥と無意味に見つめあったりしてみたが、ややあって。
「なっさけねえ!」
 一言叫び、背中から勢いよくベッドにダイブした。怪我の事は完全に忘れていた。
 ヒューの悲鳴とともに、鳥が窓から逃げ出して行った。

 * * *

「た、大変ニャ! 助けてニャ! ドスファンゴが……、オイラのせいで……!」
 日没までもう少し。ヒューの帰りを待っていた村長とザクセンのもとに、いつも慎重で沈着なオモチが矢のように飛んできたときは「やはり」と思ったものだった。
 どういうわけか村長はヒューを買っているようだったが、雪山狩りは甘くない。壊した右足を引きずってでも、勢いしかないようなあの新米ハンターに自分が付いて行くべきだったのだ、とザクセンは苦く後悔した。
 すぐにギルドのネコタク救助隊を派遣して、担ぎ込まれたヒューはなぜか半分コゲていた。
 動揺しているオトモから切れ切れに聞き出した事の顛末は、どうもモンスターにやられたというより、オトモの爆弾に巻き込まれた末の気絶らしい。医者は、みたところ傷は浅いので明日にも眼を覚ますだろうと告げた。
 初めてのクエストでドスファンゴに遭遇し、依頼品は押さえながら意識はなくとも軽傷で帰還。それをどう評価したものか、正直ザクセンは悩んだ。
 ――本人に話を聞いて、そのあと判断しようと思っていたのだが……。
 ハンターの家から下る、ゆるやかな坂道。
 天気のよい空の下を歩きながら、ザクセンは村長に語るともなく呟いた。
「ただの自信家というだけではなかったのですな、ヒューは。私はあいつを少々見くびっていたようです。狩猟の失敗をオトモのせいにするかと、てっきり思っていたのですが」
「ふむ……」
「素直なところがある。闘志も欠けていない。ああいう男は、伸びます」
 隣を歩くオババ様は、小さく含み笑いをしたようである。
「どうやらヌシはヒューを気に入ったようだの」
「バカには違いありませんがね。まぁしかし、私の個人的な好き嫌いはともかくとして、この村の村付きと認めるにはまだ問題がある」
「ほう、どこかの?」
「村長もお人が悪い。分かっておられるでしょう、剣の腕前ですよ。昨日の仕事では測りようがない。保留というところでしょうな、今回は」
 ドスファンゴ程度のモンスターなら、雪山には多くいる。実際、農場を漁りにドスファンゴが群れを率いて降りてくることも稀とはいえ確かにあるのだ。そのときやつらを追い払うこともできなければ、村付きハンターとして居てもらう資格はない。
 昨日の狩りでヒューが負傷した件については、大まかな内容が村中に知れ渡っている。村人からの不安や不満の声が、ちらほらと村長へも届いているはずだった。
「ヌシは、あやつの双剣を見たかの?」
 村長はどう考えているのか。聞きたかったのはそこなのに、まるで違う言葉が返ってきたので、ザクセンは面食らった。
「ああ、あの紅い一対ですか。初心者にしては、かなり良い素材を使ったもののようですな。工房のイェルゴに見せれば何の素材か分かるかも知れません」
 しかし今このとき、一体それが何だというのだ? オババ様は何も言わない。
 竜人族の村長は齢三百を越えているという噂である。
 使い古した包み紙よりしわくちゃとは言え、腐ってもレディ。面と向かって「おいくつですか」と尋ねる猛者は村にはいない。
 このオババ様のもと、ポッケ村は過酷な自然の中においても、開村以来平和を維持し続けてきた。モンスターや歴史への造詣も深く、村外の人々の尊敬をも集めている村長である。村にギルドの集会所を招聘できたのも、彼女の人脈のおかげなのだ。
 しかし。
 ――ヒューの件に関しては、どうも納得しかねることが多いな。まさか。
 とうとうボケたか……?
 うっかり黒い疑惑を胸に抱いたところだったので、当の本人にひょいと顔を覗きこまれたザクセンは咳払いで誤魔化した。
「刃こぼれは、なかったのう」
 天気の話でもしているような、のんびりとした口調だった。
 だがザクセンはハッと改まる。
「確かオトモの話では五合ほどはファンゴと渡り合ったとか。……血脂は?」
「なかったのう」
 救助されて家に担ぎ込まれた時、意識のない状態でもヒューは双剣を握りしめたままだった。あまりに堅く握っていたので、手から抜き取るのに苦労したほどだ。双剣はそのまま棚の中に収められ、オモチは手入れの仕方を知らない。
 通りかかる村人たちが二人に挨拶をしていった。歩む先には村の象徴・巨大マカライト鉱石の、澄んだ寒空のように深い青色が見えて来る。あの怪岩の下が村長の定位置なのだ。
「さて、剣が良いのか腕が良いのか」
 いつもの焚火の前に到着したとき。歌うように呟いた村長はどこか楽しげであった。
 ザクセンは思わず、丘の上にわずかに見えるハンターの家を振り返る。

 * * *

 オモチが帰ってこない。
 すでに陽は天に高く、村のどこから漂ってくるものか、先程から肉を焼く美味そうな匂いがヒューの鼻先をくすぐっていた。
 そのたびに部屋に響く、腹の底から切ない音。
 ぐう~きゅるるるる~。
 要するに、世はお昼ご飯の時間であった。
「くそ、拷問に近いぞこれ! 腹減ったなぁ……つっても俺、背中痛ェしよぉ」
 起きているには問題なくとも、身をかがめたりするとけっこう辛い。それでも痛みを押して昼食の準備をするハングリー精神、もとい根性は残っていたが、
「オモチがいねーのに勝手に食っちまうのもな」
 ザクセンの話では、オモチは寝ずに自分を看病してくれていたらしい。それを考えると、一人で先に済ませてしまうのもどうかとヒューは思う。
「しかしあいつも大げさだよ、これしきの怪我で死ぬかっての。そういや小言多いし狩りの準備は万端だったし、実はかなりの心配性か? ったく、母親じゃあるめーし。にしても本気でどこ行ったんだ、オモチのやつ」
 ぶつぶつ呟きながら立ちあがる。両の拳を腰に当て、ふん、と鼻から息を吐いた。
「しゃーねえ、ちょっくら探してくっか! ……い、いてて」


 日向ぼっこをしていたアイルーが、オモチの行先を教えてくれた。
 家の真向かいにあったリフトを使って崖を降りる。初めて訪れるポッケ農場は、崖と雪解け水の流れる川に挟まれた細長い土地に広がっていた。
 日当たりの良い真ん中には畑。農作業用のポポが居眠りをしている。日陰にキノコ栽培の木が並び、採掘用か、崖に穿たれた二つの横穴。もっと先には虫のいそうな青い茂みと大樹が見える。それより手前、川の上には釣り用の桟橋が設けてあった。
 そこに探していた小さな白い背中を見つけ、ヒューは「よう」と声をかけた。
「お、今日の昼飯は魚にすんのか? どっちかってーと俺は肉が良いんだけど」
「フギャッ!?」
 桟橋に座り、川面をぼんやり眺めていたオモチが、危うく川にダイブしそうになる。
「お、おい! そんなに驚くなよ。俺の足音聞こえただろ?」
「き、聞こえなかったニャー」
 慌ててつかんだ首根っこを離してやると、オモチはちらりとヒューを見上げ、また座ってしまった。心なしか耳と尻尾がたれている。
「あんた、ヒドイ格好してるニャ。ミイラ男みたいだニャ」
「おまけに青臭くて悪かったな! つーか、お前がそれを言うか!」
「…………」
「あん? どした?」
 もっと何か返ってくるかと思ったのに、オモチは黙って揺れる水面を見つめている。動く気配もないので、仕方なくヒューもそこに腰を下ろした。サンダルを履いた足をそのまま水に突っ込むと、熱を持った火傷や打ち身に気持ちが良かった。
「お前さ、ずっと俺の看病しててくれてたんだってな。ありがとな」
「ハンターの世話はオトモの仕事ニャ。当然ニャ」
「そういうもんか? それにしちゃ気合い入ってた気もするが……。お前のほうは怪我はなかったんだな。雪山草、しっかり運んでくれて感謝するぜ」
 突然、パッとオモチが顔を上げた。満月のように真ん丸の瞳で見つめてきたので、ヒューはビビってやや身を引いた。
「ど、どした? 今日はなんかヘンだぞ、お前」
「なんでお礼なんか言うニャ。オイラのせいであんたは死ぬとこだったんニャ。オイラの爆弾で吹っ飛んだあと、あんたはドスファンゴに蹴られて崖から落ちたんニャ」
「なんだ俺、また落ちたのか」
 ヒューはちょっとガックリした。なんだか最近よく落ちる。
 背中の痛みが強いのは、そこを蹴られたということだろう。胸や頭でなかったのは不幸中の幸いだ。それに崖から落ちていなかったら、追い打ちに牙で貫かれていたかもしれない。腹に大穴開けた自分の死体など、想像するだにテンションが下がる。
「昨日の失敗はお前のせいじゃねえよ。そりゃ、やばくなったのは爆弾がキッカケだったけど、結局は俺に周りを見る力が欠けてたってことだし……ってコレ、何度も言わせないでほしいぜ。不甲斐ないったらねえっ」
「ニャ? だってオイラのタル爆弾が」
「だああ、もう勘弁しろって。オトモのサポートを活かすのだってハンターの力量だ!って、お前が昨日んなこと言ってたんじゃねーか。クエストしくじったとしたら、そいつはオトモの技量じゃなくて全部ハンターの問題なの!……い、いててて」
 うっかり唾をとばす勢いで言ったら、打撲の傷がズキズキ痛んだ。
 だが、痛みは生きている証でもある。詳しく聞けばどうやら本当に危ないところだったようだし、今こうしてのんびり景色を眺め、鳥のさえずりなど聞いていると、ますます昨日の失態が思い出されてきた。
「今だから言うけどよ」 ヒューが真顔で呟いた。
「すっげー怖かったよなァ、あの猪」
「ニャッ?」
 オモチが心底驚いた顔になっているのにも気づかずに、青年は更にぼやく。
「何も真正面から突っ込んで来なくたっていいと思わねーか? うわ、思い出したら夢に出てきそう。おっかねーよぉ、尖端恐怖症になりそうだよ俺っ」
「…………。やっぱりあんた、あほニャ」
「ニャンだとう!?」
「オイラ、本当はハンターになりたいんだニャ」
「へ?」
 唐突な告白である。
 ヒューが目を白黒させていると、オモチがヒゲをしゅんとさせた。
「オイラ、偉いハンターに色々教わって、早く一人前のハンターになりたいとずっと思ってたんニャ。だから昨日あんたに会って、正直言うとすごくガッカリしたニャ」
「悪かったな、初心者で……」
「雪山草を摘みに行ったときも、ヤル気なんかなかったニャ。あんたがクエストを失敗すれば良いと思ったニャ。そうしたら、かわりに上級ハンターが村に来るかも知れニャいって」
「何ィ!? ま、まさかお前、あの小タル爆弾……!?」
「違うニャ! あれはわざとじゃないニャ! 本当だニャ、信じてニャ!」
「い、いや、それなら別にいいんだけどよ」
 ヒューはそれで納得してしまったらしく、あとは何も言わなかった。むしろ様子のおかしいオトモを扱いあぐねているようで、眉の下がった困った顔でポリポリと頬をかいている。
 ――何てことをしてくれた!と。
 怒鳴るなり責めるなりされたほうがマシだったとオモチは思った。
「あれだけあんたにバカバカ言って、本当にバカだったのはオイラだニャ。ハンターどころか、オトモの資格もオイラにはないニャ。オイラ、ドスファンゴを見たら怖くてぜんぜん動けなくなったニャ。頭も真っ白になって、あんたの足だけ引っ張って」
 なのにヒューは、怖いなんて言いながらもドスファンゴに一歩も退かずに立ち向かい、クエストで何が一番重要かを見極めてオモチに指示を出したのだ。
 立ちすくむことしかできず、それだけならまだしも変に反発してハンターを窮地に陥れてしまった自分。引き比べて、これはなんという大きな差だろうか。
 昨日あれだけ講釈を垂れておいて、本当の狩りを理解していなかったのは自分だった。身に沁みて情けなくて、なみだが出そうになった。
「で?」
 沈黙に、降ってきたのは短い言葉。
「ニャ?」
「どうすんだ。オトモ、やめんのか?」
「や、やめないニャ」
 ――とっさに言ってしまっていた。
「……やめたくないニャ。オイラやっぱり、ハンターになりたいニャ。どんなに厳しい場面も自分の手で切り開けて、あんたみたいに、自分よりでっかいモンスターにも自分の足で立ち向かえるような強いアイルーになりたいニャ。だから、また足手まといになるかもしれニャいけど……」
 躊躇いながらオモチは言った。視線の先には包帯だらけの勇敢な双剣士。
「オイラをあんたのオトモとして認めてほしいんニャ。まずは立派にあんたのオトモを務められるようになることが、オイラがやらなきゃいけないことの気がするニャ」
「はあ? 何言ってんだ、お前」
 やっぱり駄目なのだろうか?
 隠しきれないショックで耳もしっぽもヒゲも垂らしたオモチに向かって、なんでもないことのようにヒューは陽気に告げたのだった。
「昨日から、とっくにお前は俺のオトモをやってるだろが。今更、認めるもくそもないぜ」
「…………」
 ニッと笑ったヒューの顔が眩しくて、オモチはちょっと目をこすった。押さえつけるように大きな手がガシガシと乱暴に頭をかきまぜる。
「そんなこと言うなんてさ、オモチ。確かにお前もけっこうバカだぜ」
「そうかも知れないニャ。でもバカなオトモを雇ってても平気な旦那さんは、きっともっとおバカだニャ」
 声をあげてヒューが笑った。
「あーあ。俺たち二人とも、最初のクエストは見事に失敗だったってことかぁ」
「おバカが二人もそろってたんニャ。仕方ないニャ」
 オモチの毒舌が戻ってきた。天を見上げながらヒューは言う。
「とりあえずさ」
「ニャ?」
「めし、食おうぜ。腹減った……」
 腹の虫が空に響く。音を追いかけてオモチも一緒に天をあおいだ。
 嬉しいような、苦いような。二人で並んで眺めた空はどこまでも青かった。


(「6章 セシリア」へ続く)
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