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モンスターハンター!1 4章

銀嶺の双剣士 4章です。


モンスターハンター! 銀嶺の双剣士


 4章 はじめてのクエスト

 村長に試されているとはつゆ知らず。
 ヒュー・パーシヴァルは、眼前に広がる風景に気持ち良く雄叫びを上げていた。
 通称《雪山》 。雪解け水の流れる谷底から万年雪をかぶる山頂まで、途中氷に覆われた深い洞穴を含めて、ハンターたちが開拓してきたフラヒヤ山脈の狩猟場である。他にも狩場はいくつもあるが、ヒューがやって来た場所はポッケ村付きのハンターが代々整備してきた所で、村御用達と言った感じがある。
 かすかな波の打ち寄せる川岸に立つと、ヒューは思い切り深呼吸した。
 ちょっとヒヤッとした空気に満ちる、若い緑の清々しい香り。真っ青な空には僅かな雲。陽の光がキラキラ反射する川面すれすれを、ふざけるように二羽の小鳥が掠めていく。
「水は澄んでるし空気はうまいっ。すっげー大自然って感じだなあ。なかなか気分の良い所じゃねえか」
「感じどころか、そのまんま大自然ニャ」
 オモチにしてみれば村の空気と大差ない。嫌味も聞こえなかったのか、「おっ、魚がいる。向こうのは野生のガウシカか!」などとはしゃぎまくっているヒューに、オモチはますますヤル気をなくした。
 ――あの分じゃ、肝心の依頼内容も忘れてるに違いニャア……。
 背中に背負った>紅い双剣だけは立派でも、防具はザクセンのお古(ハンターシリーズというやつらしい)である。応急薬や携帯食料などオモチが慌てて用意しなければ、ヒューは身一つで来ようとしたのだ。アホとしか言いようがない。
 ――あーかわいそうにゃオイラ。あんなおばかハンターのオトモなんかしてても、自分がハンターになる日は遠いニャ。遠すぎるニャ。
 オトモという仕事を生涯貫くアイルーもいる。だがオモチは、いつか自分が一人立ちのハンターになる夢を持っていた。身体は人間より小さくても、勇猛さでは決して負けない。実際ハンターとして活躍しているアイルーもおり、彼らは部族の誇りであった。
 まずは人間族のサポートをし、狩りのノウハウを身につけて独立する。計画の第一歩、オトモになるための努力が村長の目に留まり、いきなり上級付きになれると聞いた時までは上出来だった。つい、ハンターとなった自分の姿をうっとり思い浮かべたりもしたものだ……が。
「ィやっほーーーーーーい!!」
 期待を裏切って引き合わされたのが、川に向かってのん気に吠えているアレである。腐りたくもなる。
 ――あんにゃじゃ、ろくに双剣だって遣えニャいに決まってる……。
 雌雄二本の剣を両手に、強烈な連撃を繰り出すのが双剣士の戦い方だ。
 攻撃力は高くとも防御をほぼ捨てることになるので、そのぶん回避や戦術などに気を遣う必要があり、剣技の型にも色々あると聞く。要するに、武器はただ振り回せば何とかなると思っているような輩が扱えば、簡単に棺桶かモンスターの腹に収まることになる代物だ。
 だが、ひととおり満足したのか大またで戻ってきたヒューは、子供のようにむっちゃくちゃ笑顔であった。激しく先行き不安である。
「さーてと、んじゃ早速仕事を始めるとするかァ! なんだっけ、確か雪……雪山草とか言ったよな」
 かろうじて依頼内容は憶えていたらしい。しかし案の定、青年は蒼白になってピタリと動きを止めた。
「っと、待てよ。雪山草ってどんな草なんだ? 知らねーぞ俺!」
「あんたの脳みそ、ヨーグルトで出来てるに三百ゼニーニャ」
「なっ、ヨーグルトだァ!? せめて筋肉って言えよ!!」
 筋肉なら良いのか、ヒュー・パーシヴァル。
 はーっと盛大に嘆息しつつ、オモチがごそごそ取り出したのは一冊の本である。本というより手書きの冊子だ。パラパラめくってある一ページを指さすと、ヒューが覗きこんできた。
 特徴がよくわかるように描かれた植物。字だけはミミズがのたくったようでヒューには読めない。
「よく見るニャ、これが雪山草ニャ。背丈はあんたの手のひらくらい。先が三つに割れた葉っぱの高山植物だニャ。今の時期だとつぼみか花が付いてるかニャ……、花びらは二枚。青白いシンプルな花ニャ」
「そっか、助かったぜ。啖呵切って出てきちまった手前、また村まで戻るのもカッコ悪いし、どうしようかと思ったもんな! いやあ、焦った焦った」
「…………。雪山草は、夏でもいっぱい雪が残ってる場所にしか生えないニャ」
「んじゃあ、もっと上のほうに行かなきゃ駄目かあ」
 言ってヒューは背後にそびえる山を見上げた。川べりから、山は急峻にそそり立っている。なだらかな傾斜などはなく、ほとんど崖と言っていいくらいだ。
 持ってきた地図を見ると、内部の洞窟を通って大回りするルートと、岩棚に張られた鎖やロープを頼りに一気に山頂近くまで登り詰めるルート、大まかに言って二通りあるらしい。
 洞窟の中に草があるとも思えないし、日没まであまり時間の余裕もない。
 オモチはそう考えたが、ヒューは「歩き回るのも面倒だし、崖を登っちまおうぜ」と言った。まことに大雑把な男である。
「だけどすげえな。そのノート、お前が全部書いたのか?上手いもんだなぁ、絵」
 不意にヒューがそんな事を言ってきたので、オモチは半眼になって返事をした。
「情報誌や図鑑から写し取っただけニャ。ハンターとして最低限知っておいたほうが良いような野草とか虫とか、鉱物とか。初心者なら普通、このくらいの準備はしておくもんニャ」
 かなり馬鹿にした調子で言ったのだが、ヒューは本気で感心したようである。
 嬉しくもない。

 * * *

 ふもとの森や川沿いの閑地には草食獣が群れていたが、山はいたって静かだった。
 慣れない崖登りには苦労したものの、ランゴスタなどの巨大昆虫に襲われることもなかったし、流石にヒューは体力があった。一気に崖を登ってもそれほど息を乱していない。
「うっほー、こりゃまた良い眺めだなぁオイ! けど寒ィぞ!!」
 山頂付近には風があり、雲も出てきたのか時折り白いものが散らつく。
「……あのさオモチ。もしかしてお前、ホットドリンクなんて持ってたりする?」
「当たり前ニャ。必須アイテムだニャ。雪山狩りの基本中の基本ニャ!」
 たたみかけると、さすがの能天気男も「す、すまねえ」やや怯んだ。ただしぼそりと、「カーッ、辛ッ。苦ッ。やっぱこれ、あんまり好きじゃないわ」と呟いている。だったら飲むニャと言いたい。
 トウガラシ入りのホットドリンクがじゅうぶん身体を温めてくると、二人は早速採集を始めた。
 白い中に緑の草が生えているので見つけにくいことはない。しかもこの寒さの中で葉を出せるのも雪山草くらいということで、労せずたくさん発見することができた。
 ――しかし。
「ホラ、どうよ。こんだけ集めてきたぜ。お前のと合わせりゃ、もう軽く二十本以上行ってるんじゃねえかな」
「…………。オイラのは問題ないけど、あんたのは使い物にならないニャ」
「えっ、なんで? どう見たってお前のノートの絵にそっくりだろ、ちゃんと雪山草だぜ」
「根っこ」
「ねこ? バカ言え、俺は人間だ」
「バカはあんたニャ! 雪山草はあんたと違ってデリケートな植物ニャ。根っこから掘らないと村に着くまでにしなびるニャ!」
 そうだったのかと肩を落とすヒューの雪山草は、見事に茎でぶっちり切られている。
 初心者にありがちのミスだ。採集の仕方を教えなかったのがまずかったと言えばそうなのだが、オモチだって初心者なのである。それを思うと気にするニャとも言いがたい。
「んじゃあ、足りないのはあと五本か。このあたりは採り尽くしちまったし、もう少し奥へ行くしかないみたいだけど……。なあ、オモチ。雪山草って、ここより下には絶対生えてないのか?」
「生えてニャい。なんニャ、先へ踏み入む勇気がないのニャ? 口ほどにもないニャ」
「そうじゃないっつの! なんとなく嫌な感じがするんだよ。さっきから気になってたんだけどよ、ちょっと静かすぎねえか、この山。変に緊張感があるっていうか」
「そんなの知らないニャ。オイラだってこの狩場は初めてニャ。きっといつもこんなもんなんニャ。採集クエストに、モンスターなんかいないに限るニャ」
「そうかなぁ」
 まだヒューは納得しかねる顔をしていたが、腹を決めたらしく先へ立って歩き出した。
 北と東の二手の道のうち、選んだのは東。先は比較的開けた広場になっていて、洞窟への侵入ルートもある場所である。日差しの加減からすると確かに草がありそうだが、ヒューのことだ。選択に深い意味はないのだろう。
 広場にやってくると、やはりここにもモンスターの姿はなかった。
 再び採集に入る前のことである。何を思ったか、ヒューが集めた雪山草を全てオモチに預けてきた。それでオモチは本格的に、この初心者ハンターに腹を立てることになった。
 ――オトモを荷物持ちか何かと勘違いしてるニャ!
 だいたい野草の知識にしろ道具の知識にしろ、努力して得たのはこんな男の尻ぬぐいをするためではない。自分のためだ。デキる上級ハンターに付いて研鑽を積み、早々に自分がハンターとなるための……。
 ――ちょっと待つニャ。
 そこまで考えてオモチはふと思い出した。
 確か村長は、しばらくのあいだヒューに村付きハンターを任せると言った。仕事ができるようなら長く雇いたい、とも。ということは。
 ――失敗が続けばこいつは街に帰されて、かわりに上級ハンターが来るということニャ!
 予定通りなら、ヒューの兄が村付きになるはずだったらしい。この馬鹿ハンターの兄弟という点がいささか引っかかるが、まがりなりにも上級だ。初心者よりはマシだろう。
 ――あいつが失敗をすることニャ。
 今回のクエストは病人が関わるので失敗できない。でもそのうちに、何かのモンスターにヒューが軽くふっ飛ばされればいい。そのために自分は余計な手出しをしないことだ。
「おい、集まったぜ。……おいってば、オモチ! 何ぼーっとしてんだよ。大丈夫か?」
「ニャッ。にゃ、なんでもないニャ。良かったニャ。雪山草、見つかったのニャ」
「おう。これできっちり十五本だ」
 色々考えているうちに、ヒューがさくさく集めてきてしまったらしい。ニッと白い歯を見せて笑った顔を正面から見ることができず、思わずオモチは視線をそらした。
 異様なものが見えたのは、そのときである。
「ニャ……!?」
 オモチの緊張を察してヒューが振り返る。
「な、なんだあれ……!?」
 二人の視線の先。切り通しの向こうからやってきて、広場の入口で足を止めた者がいる。そいつはギラギラ底光りする赤い目玉でヒューとオモチを認めると、前脚で雪をかき、力を溜めるように身をかがめる。次の瞬間、耳をつんざく甲高い吠え声が雪山中を震わせた。

 ブギイイイイイイイイ!!

 鋭い牙に黒い蹄、茶色の巨躯。化け物のように巨大な一頭の猪がそこにはいた。

 * * *

 ドドドドドドドドド!!
「ぬあったああああああッ!?」
 吠えるやいなやの突進だった。
 間一髪で避けたヒューは転がりながら態勢を立て直す。猪は小回りが効かないのか向こうの氷壁まで突撃し、蹄から雪煙を上げてようやく止まった。オモチのそばまでなんとか逃げて、ヒューは猪から眼を離さずに背中の双剣を引き抜いた。
「でけえっ。なんだアレ、普通のブルファンゴの何倍もあるぞ!?」
「ドスファンゴだニャー!」
 ブルファンゴは森や沼地など様々な地域でよく見られる牙獣種だ。雄の気性がとにかく荒く、家畜には向かないとはいえ、手慣れたハンターにとってはたやすい獲物である。しかし目前の猪は高さが違った。ヒューの頭よりはるかに上に肩がある。
 まさしくオモチの言うとおり、ブルファンゴの親玉ともいえるドスファンゴだった。
 振り返った大猪は、よく見れば二本の牙が赤く濡れている。何の血か知らないが、このあたりの生き物を見境なしに突き殺してきたに違いない。血走った眼に輝く狂気の光。山にモンスターの影がなかったのは、こいつが暴れていたせいだったのか!
「やばい、また来るぞ! ……おいおいおいオモチッ、何してる!」
 再び正面からの突進。距離は避けるにはじゅうぶんだったのに、どうしたわけかオモチが動かない。動けないのか。とっさにヒューは双剣を放り、白ネコを抱えて大きく身を投げ出した。地響きを立てて、一陣の風が真横を通り過ぎてゆく。
「っぶねえなぁ……! 頼むぜオトモアイルー、しっかりしてくれよ」
「ニャ……」 返事はしたものの、どうも視線が定まっていない。
 そんなオモチを束の間見つめてから、軽く頷いてヒューは言った。白ネコの金色の瞳を覗きこむ。
「良いかオモチ、よく聞けよ。あれは俺が狩る。引きつけておくから、お前先に村へ帰れ」
「なんでニャ!? さっきはちょっとびっくりしただけニャ! オイラだって武器は持ってるし、戦えるニャ!」
「わーかってるって! だけどお前まで暴れ回って、雪山草を駄目にするわけにゃ行かねーだろ。洞窟に入っちまえば、あのでかい図体だ、あいつは追って来れねェ。いいな、隙を見て走れよ!」
 それだけ言うと、反論も聞かずにヒューは駆けだした。雪の上に突き立った紅い双剣。抜きざま身体を回転させてドスファンゴの突進をかわし、同時に一太刀浴びせていた。白い雪原に点々と血の花が咲く。
 肉を裂かれたドスファンゴは、更にいきり立ったようである。四つ足をふんばり、めちゃくちゃに牙を振って奇声を上げた――その正面にハンターは敢然と立っている。大猪はすでにヒューを第一に倒すべき相手と見定めたようだった。
 ――バカにしてるニャ!
 ハンターにしろ、ドスファンゴにしろ。
 確かに先ほどは不覚をとったが、先に逃げろとはどういうことだ。
 オモチは柄の先端に鋭い骨を取りつけた自分の武器を握りしめた。腰抜けでないことをヒューに証明しなければ。なのにどうして、自分の足がしっかりと大地を踏みしめている気がしないのだろう?
 大猪と対峙しているにも関わらず、オモチに参戦の気配があることに目敏くヒューが感づいた。しかし何か言いたげにかすかに振り向いたそのすきを、ドスファンゴが見逃すはずもない。
 雪を蹴立てて牙を突きだし、猛り狂った猪が突っ込んでくる。ヒューが紙一重でかわす。その度に雪の台地に一直線、赤い血の筋が増えていく。
 繰り広げられる競り合いを見ながら、オモチは相変わらず動かない自分の足に業を煮やした。気がつくと、背中の荷物入れから小型のタル爆弾を取り出していた。
 あんなにおばかで初心者のハンターが震えもせずにドスファンゴに立ち向かえて、どうして自分が出来ないのか? そんなはずはない。絶対に。
 ――それなのに。
 だったらどうして口の中はカラカラで、心臓はこんなにドキドキしているのだろう!
「お、オイラだって、オイラだって戦えるんニャー!」
 叫んだ相手は誰だったのか。わからないまま、オモチはドスファンゴに向かって力の限りにタル爆弾を投げつけた。がしかし、なんと着弾点にはヒューもいた。

 どっかん!!!

「ブキイイイイイイイイ!!」
「ふんぎゃああああああ!?」
「……ニャ」
 炸裂と同時に。綺麗な放物線を描いてヒューが吹っ飛ぶ。
 猪もダメージを食らったようだが、これはハンターの方が重傷だ。
 ぶすぶす煙を上げながらべしゃっと地面に墜落する。ぴくぴく痙攣しながら上げた顔は煤で真っ黒。前髪と、後ろでひっつめた銀髪の先が素敵なアフロに変わっていたが、とても笑える場面ではない。何気にこめかみに青筋を立て、半死半生のヒューが怒鳴った。
「バッカヤロー、このネコ! 死ぬかと思ったじゃねえかッ。自分の旦那まで一緒に吹っ飛ばすオトモが、どーこの世界にいるんだヨ!」
「あ、あんたがそんなところにいるから悪いのニャ!! 腕利きのハンターならオトモの支援を上手く活かすもんニャ、もっと反射神経を鍛えるべきニャー!」
「好き勝手言いやがる! いいから先に戻れっつってんだろォ!?」
「絶対嫌ニャー!!」
「お前なあ!!」
「ブギイイイイイイイイイイ!!」
 本当に、喧嘩なんかしている場合ではなかったのだ。
 ほとんど半狂乱になったドスファンゴが弾丸のように突っ込んできて、迎え撃とうとヒューがなんとか体を起こす。
 紅色の残像を流し、ヒューの双剣が猪の牙と馳せ違おうとした瞬間。
 あせったオモチの二撃目が、モンスターとハンターのあいだに見事なタイミングで着弾した。
 爆発の音をどこか遠くで聞きながら、ヒューは視界が真っ白になるのを感じていた。


(「5章 ぶっとばされて」へ続く)
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