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モンスターハンター!1 3章

銀嶺の双剣士 3章です。


モンスターハンター! 銀嶺の双剣士


 3章 村の人々

 ポッケ村は、雪深い山あいに作られた小さな村だ。
 だから大地の起伏に合わせてまばらに、ときには寄り添って、小さくて頑丈な家が並んでいる。村の規模や住民の数からすると行商人は多かった。日用品の店以外にも武具工房、原材料屋、アイルー斡旋人など、ちょっとした町には負けないくらいの種類の豊富さがある。というのも、ポッケ村があるフラヒヤ山脈はハンターたちの有名な狩り場で、村は彼らの拠点とされることも多い。商人たちは絶えず訪れるハンターを目当てに集まるのだ。
「まァ、あれだね。ハンターはモンスターを狩りに来るけど、商人はハンターをハントしに来てるってことっす。これ、なかなか面白い言い方だと思うっしょ?」
自分で自分の冗談にウケているのは、家を出てすぐに出会ったコンスという青年である。村について色々教えてくれたのは彼で、ポッケ村生まれのポッケ村育ち。だが彼自身も行商をして、今まではあちこち渡り歩いていたらしい。
「でも村に新しいハンターが来るってんで、それも上級だっていうっしょ? どんなやつか興味あったし、こりゃあ商売しなきゃと思って帰って来たわけっすよ。それが……」 ぶふっ。
 遠慮なく噴き出した三日月まなこのコンスを、ヒューが苦い顔でにらむ。
「あのなあ、俺だって好きで間違って来たわけじゃねえんだっつの」
「ははっ、すんません。別に馬鹿にしてるんじゃないんすよ。どっちかっていうとさ、実力はあるけど威張り散らすような奴じゃなくて良かったと思ってるくらいで。年も近そうだしさ。初心者だけど」
「お前、絶対馬鹿にしてるだろ……」
「だからちーがーうって。まっ、そういうわけで今回はベテラン用の売り物しか持ってきてないからあんたに商売はできないけど、すぐに初心者用の道具をそろえてきてやるからさ。役に立つもん色々持ってくるから、楽しみにしてて欲しいね」
「いや、俺は上級用の道具だって構わないっていうか」
 と言いかけた、ヒューの上にふっと巨大な影が落ちた。
 ギョッとして振り返ると、そこにいたのは自分の体の何倍もあるバカでかいカバンを背負った老人だった。背丈はヒューの腰ほどもない。男か女かわからない。老人はしばらく無遠慮にヒューをじろじろ見ていたが、
「!?」
 急に顔を近づけるとフンフンとヒューのにおいを嗅いだ。
 ――な、なんだコイツ……!
 なぜ白日のもと衆目の中で、自分は謎の老人に匂いを嗅がれなければならないのだろう。これも初心者の試練だというのだろうか!? いや、絶対ちがう。
 硬直しているヒューに老人はようやく何かに頷くと、無表情に告げた。
「初心者じゃけぇ、まだまだだね。オメエにゃあ、うちのアイルーは任せられんのぉ。そこの白いの以外にオトモを持ちたけりゃ、もっと信用のあるハンターになってくれねばぁの。今のオメエじゃあ、それ以上のアイルーば扱えらはんでよ。初心者にゃ一匹でじゅうぶん、じゅうううううぶん」
 言うだけ言うと去って行った。なぜかカバンの上にしがみついていたアイルーが、横目でヒューを眺めてからフッと笑う。シッシッ、としっぽが揺れた。
 オモチ以上に白くなっているヒューの肩を、軽く叩いてコンスが励ました。
「ま、そうガックリしなさんなって、ハンターさん。今のはネコバァってアイルーの斡旋業者でさ。口合人は信用が命だけど、ネコバァの評価が超辛口なのは有名なんすよ。あんただって、そのうち認めてもらえるよ」
「コンス……」
「今度帰ってきたら、しばらくは俺も村にいるつもりなんだよね。これから色々サポートしてやれると思うし、村の事ならなんでも聞いてくれよ」
 じゃっ、気楽にな、ハンターさん。今度飲もうぜ!
 再びポンポン肩を叩いて、コンスは去って行った。早速仕入れにでも行くつもりらしい。背中を見送りつつ、オモチが呟いた。
「なんだか軽い男だニャー」
「ネコバァに比べりゃ、断然良いやつじゃねえか。初心者初心者って連呼しすぎだけどな」
「ほんとのことだニャ」
「お前もな!」
 ヒューにあてがわれた家は、村を一望できる高所に建っている。
 村の有事にすぐ駆け付けられるよう、ハンターの家として代々使われているのだ。そこからは村だけでなく、遥かフラヒヤ山脈の山裾も見えて眺めが良い。春も半ばとはいえ大陸の北の果て、まだ裾野にも残雪が白く光り、村の中でさえコートが欠かせない気温である。
 改めてあたりを見回してから、ヒューは村の中に降りていくことにした。
「この坂を下って右のほうに見えてるのが、武器防具屋さんと雑貨屋さんニャ。もっと先へ行くとハンター集会所があるニャ」
「集会所はともかく、雑貨屋にはすぐにでも世話になりそうだな。俺、今ほとんど何も持ってねえし」
「道具類は、買うより自分で作ったほうが安上がりニャ。あとで案内しようと思ってたんニャけど、家の反対側が崖になっててリフトで降りると村の農場があるニャ。薬草とかキノコとかも育てられるし、鉱物や魚も採れるニャー」
「へえ、そいつは良いや。俺も使わせてもらえるんだな?」
「場所は問題ないニャ。でも新しく施設を作ったり拡張したいなら、たぶんお金が掛かるニャ。初心者のあんたにそんな金銭的余裕があるとは思えないニャ」
「いッちいち突っかかるよな、お前は……」
 しかし経験ゼロハンター・ヒューに金がないのは事実である。つい寂しい懐を抑えたとき、左手側から声をかけられた。
「やあ、ヒュー。今、お前のところに行こうと思っていたところだ」
 前任ハンター・ザクセンが手を振ってやってきた。となりには筋骨隆々のいかつい男を連れている。
 ハンター初心者であることが判明してから、ザクセンはヒューをさりげなくファーストネームで呼ぶようになった。ヒュー自身、大仰なファミリーネームで呼ばれるより好きだったが、この場合なんだか格下げにあったようでやや情けない。
 ヒューの隣で気怠そうに鼻をほじっていたオモチに目を留めて、ザクセンが眉を上げた。
「ほお。そして君が我らがハンター殿の初めてのオトモというわけだ。綺麗な白ネコじゃないか、名前は?」
「オモチだニャ。どうでもいいんニャけど、綺麗と言われて喜ぶ男はいないニャ」
「ははは、もっともだ。悪かったなオモチ。しっかりしていて頼りになりそうな良いオトモじゃないか」
「オイラがしっかりしてても肝心のハンターがこれじゃ、どーにもならないニャ」
「ニャンだと!? お前だってオトモ初心者のくせに、言ったなこんニャろーッ!」
「ううむ、良いカップルだ!」
 え?
 地鳴りのように低い声で、横から言われたヒューとオモチの表情が飛んだ。
「おお、間違えた。良いパートナーだ、うむ。ドハハハハ!」
「……ああ、いや、彼はこの先にある訓練所の教官だ。その、少々言い間違いが多いのが欠点だが、本人に悪気はない」
 悪気はなくてもこんなマッチョな大男にあんなことを言われては、精神的ダメージはでかい。
「く、訓練所? こんな村にもハンター訓練所があんのか」
「こんな村とは失敬な! ポッケ村は雪山狩りの一拠点なのだぞ。ハンター集会所もあれば、訓練所もあってしかるべきであろうが。時に少年。貴様、年齢はいくつになる?」
「え、俺?」
 マッチョな上にせわしない教官である。突然の質問に、ヒューは首をひねった。
「あーっと、もうすぐ十八だったかな。もう少年ってトシでもねえよ……って、なななななにすんだオッサン!」
「ふうむ、歳の割にはしっかりした体つきだ。二十くらいかと思ったぞ。全身にバランスよく筋肉がついているな。なかなか良い鍛え方をしているではないか」
 腕を掴んだり、足をさすったり。遠慮なくべたべたとヒューの身体を検分しながら教官は勝手に感心した。ヒューは滝汗をかいているが、さすがに教官。鬼のように力が強いのでされるがままになっている。
「この筋肉の付き方。察するに、得物は片手剣か双剣、あるいは弓であろう。うむ、初心者だというので基礎トレから考えていたが、これなら実戦と組み合わせた中級過程からでも問題ないと見たぞ」
「は? ちょ、ちょっと待てよ、俺まだ訓練所に行くって決めたわけじゃ」
「なあに、遠慮は無用だ! 我輩も久々に、この村で初心者ハンターの訓練ができるというので張り切っているくらいなのだ! む、どうした? ああ、金のことなら心配無用。費用は村でまかなうことになっている。今日は私用で閉めているが、明日からは訓練所はいつでもオープンだ。待っているぞ少年!」
 ほがらかにまくしたてると、
「おお、いかん。時間が。では、我輩は集会所に所用があるので失礼する」
 ばっちん。
 それはそれは激しいウインクを残して、教官は去って行った。
 総毛立つヒューの横で、オモチは本当に全身毛を逆立てている。
「な、なんなんだ、あのオッサンは……」
「ははは……。何度も言うようだがね、悪気はないんだ。あの通り、少々性格が濃ゆいが教官としては経験豊富だから、お前も頼りにすると良い。ああ見えて、どんな種類の武器も扱える凄腕でな」
「ふうん。でも武器なら俺は双剣一筋って決めてるしよ」
「おいおい、村付きハンターがそれでは困るな。一つの武器にこだわる気持ちもわかる。しかしモンスターにも武器の相性があることは知っているだろう?」
「まあ、そりゃあ」
「近接、遠距離。どちらの武器も使いこなせないと、もしものときに村をじゅうぶん守れないぞ。これは前任者として言わせてもらうが、村付きハンターなら個人の思いより村の安全を優先すべきだろう」
「そうかもしれないけどな。でも俺は……、双剣士だからさ」
 似合わない口ごもり方をした。
 その瞬間だけ、お気楽だったヒューの顔がふっと引き締まる。
「双剣で守ってみせるよ、俺は」
 口を引き結ぶと、この銀髪の青年は意外に精悍な印象になる。
 自論を変える気はなかったし、ヒューはまだ若い初心者ハンターだ。しかしザクセンは、青年の鮮やかなブルーの瞳の奥に揺るぎないものを感じて、それ以上言うことをやめた。
「なにか双剣に思い入れがあるようだな。まあ、そこまで言うなら自慢の腕を見せてもらおうか。お前たち、挨拶回りの途中だったみたいだが、まずは村長のところへ行け。早速のお呼び出しだぞ」
「げっ、なんで? 別に俺まだなんもやってねーぞっ」
「馬鹿者、違う。お前、街のハンター訓練所でよほどの問題児だったらしいなあ」
「いやあ、それほどでも」
「言っとくけど、褒めてないニャ」
 照れて頭をかくヒューにオモチのツッコミが冴えた。
 この二人は案外良い組み合わせなのかもしれないと思いながら、ザクセンはニヤリと告げる。
「喜べ。お前に初仕事だそうだぞ」

 * * *

 例えて言うなら、半分つぶれたまんじゅうであった。
 それがモコモコと防寒具を着込み頭からミノをひっかぶって、うにゃうにゃと口を動かしている。村の象徴である巨大マカライト鉱石が鎮座する、村の入り口。焚き火に当たって居眠りしていた小さな老女こそ、竜人族にしてポッケ村の長・オババ様であった。
 ヒューとオモチ、ザクセンが連れだってやって来ると、村長はシワの一部にしか見えない目をヒューに向け、「よぃよ~い」としか聞こえない怪音を発した。
「……す、すまねえ婆さん。俺、竜人族の言葉は知らねえんだけど」
「ひょひょひょ、今のはただの挨拶よ。お前さんがヒュー・パーシヴァルだね」
 いきなり無礼をかましたヒューのすねを、隣のオモチが蹴っ飛ばす。
「村長さんに向かって婆さんとは何事ニャ。あんたに礼儀まで教えるのはオイラの仕事じゃないニャ。勘弁するニャ」
「こっ、お前こそもっと別の言い方できねえのかよ!」
「ひょひょひょひょ。まぁよい、まぁよい。そんなことより、ヒュー・パーシヴァル。ヌシはハンターとしては初心者だそうだね」
「うっ」 来た。ヒューは思わず直立不動の姿勢をとった。
 村長相手に説明しないわけにもいくまいと思っていたが、いざ聞かれると尻の穴が締まる。
「それがその、最初は俺の兄貴が来ることになってたんだけどさ。えーと、兄貴ってのが上級ハンターで」
「セイン・パーシヴァルだね。なぜヌシが来ることになったかは、兄上から連絡を受けておる。しばらくの間、ヌシにこの村のハンターを任せるのは了承済みのことよ。そうでなければ、オトモアイルーにわざわざ村の案内などさせぬ」
「えっ、なんだ。そうなのか」
「村長、私はそんなことは一言も」
「おや、オットー。ワシはヌシに言っておらなんだかの? ヒュー・パーシヴァルの働き次第では、長くこの村についていてもらおうと思っておるのだが」
「聞いておりませんよ」
 困りますなと苦笑してから、ザクセンは心配げな視線をヒューに投げた。
「わが村には、せっぱ詰まった事情があるではないですか。もしもヒューが優秀なハンターであるにしても、まさか初心者にヤツの相手をさせるわけには……」
「ヤツは去った。昨日山から戻ったハンターが、西へ飛び去るのを見たそうでの。しばらく山には来ぬよ」
「しかし、そうは言っても」
「ヤツの習性はヌシも知っておろう。山は確かにヤツの縄張りに入ったようだが、一つ所にじっとしておらぬのもまた習性。餌を食いつくさぬ知恵であろう。それにヤツは元来が温帯の生物じゃ。そもそも雪山なんぞには、長くはおられぬのよ」
「お、おい、村長さん。いったい何の話だよ。ヤツって何だ?」
 不穏なにおいを嗅ぎとって、ヒューは割って入った。せっぱ詰まったとか初心者に相手は無理とか、どうも穏やかでない言葉が多い。しかし村長は軽く頷いて、「それはおいおい話そうかの」とだけ答えた。
「今すぐ知らぬでもよい。それより緊急の仕事が一つあるぞ、ヒュー・パーシヴァル」
「緊急の?」
「四、五日前からシーラのとこの娘が熱を出しておってのう、一向に下がらぬ。子供では体力が持たぬし、どうやら肺炎になりかけてもおるようじゃ。雪山草という草が薬になるが、今、新鮮なものが村にない」
「わかった。俺はそのナントカって薬草を集めてくれば良いんだな?」
「よくお聞き、雪山草だよ。少なくとも十五本は必要かのう。それも萎びてしまっては意味がない。頼むぞ、新米ハンター殿」
「へん、初仕事にしちゃ物足りないくらいだぜ。ようし、薬草でもなんでも、この俺がササッと行ってドーンと採ってきてやろうじゃねえか!」
 ビシッと親指を天へ突きだすと、息巻いたヒューは本当にすぐに駆けだした。
 せっかちというよりは、クエストに出たくてうずうずしていたらしい。腕試しがしたいのと、早く自分の力を村に認めさせたいのと半々といったところだろうか。
 ヒューの背を大慌てでオモチが追っていった。
「ニャーッ、待つニャおばかハンター! 準備もしないで行くんじゃニャー!!」
「ひょひょひょ。若さがまぶしいのう」
「私は心配ですがね、村長」
 ザクセンは付いて行きたそうな顔をしている。
「黙っていれば、そこそこ頼りがいもありそうに見えますが。口を開くとこれがトンでもない馬鹿です」
「ひょひょひょ、そうかの。まぁ、万事気の付くオトモも付けたし、あやつはそう簡単にくたばるような玉でもないわ」
「……? まるでヒューを知っておられるような口ぶりですな」
「実力は知らぬ」
 追いついたオモチがヒューにカニ挟みを決めた。ひっくり返った青年は文句を言ったようだが、逆にオモチに説教を食らっている。
 その様子を遠目に見ながら、村長は老獪に笑った。
「だからのう、まずはお手なみ拝見といったところかの」


(「4章 はじめてのクエスト」へ続く)
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