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MH掌編:補遺;氷結晶、その他

久しぶりに小品を書き、せっかくなので上げておきます。

MHの魅力のひとつは、植物や鉱石で、架空の自然物が多いところかな。
しかし話は氷結晶の薄暗い話になりました。
最初は花香石の良い香りについて書き散らすつもりだったのだが……。





補遺;氷結晶、その他

 まさしく氷結晶と陽光石がひとつの例だ。
 ある種の鉱物結晶についていうなら、母なる大地の堅固な岩盤から切り離されてはじめて、真の本質が固まるらしい。前述の二石は存在において表裏をなす。鉱脈はまったく同じ。驟雨にけぶり、緑したたる密林の古い断崖の割れ目から覗き、あるいは太古の溶岩にえぐり抜かれた、暗い地底洞窟の内壁を多頭の蛇のごとく這うガラス質の脈すじ。地層に埋めこまれているままのそれは、いまだ眠り、己を知らぬ無色の水晶にすぎない。しかし、ひとたび夜に掘り出せば星光に凍って氷の化石に、昼に掘り出せば金の陽光を集めて太陽の欠片と変ずる。
 消炎薬に、錬金に、料理や菓子のスパイスとして、はたまた鋼刃鍛造の触媒に――鉱石とも無機塩ともつかない、この不思議な石の用途は幅広く、驚くほど多岐にわたる。そのため需要も大きい一方、とくに氷結晶の供給は小さくなりがちだ。なぜなら採掘時間の厳密な制限に対して、夜の山野といえばまさに肉食竜の生活の舞台だから。身を守る技術を持たぬものにとり、道ゆきは悪夢以上のものである。野草摘みと同じ気分で竜の縄張りに踏み入れたが最後、命を狩られるとも限らないのだ。それで氷結晶はハンターたちの鱗のない獲物となる。
 鉱石掘り専門のハンターを、はたして狩人と呼べるかは不明だが、どこの集会所にも一定の割合で彼らはいて、それぞれ仲間うちで割り当てた自分の鉱脈を守り、掘っている。この大地はあまりに偉大だ。集落や町村が日々必要とするほどの採掘なら、鉱脈はめったに枯れはしない。もっとも、元来金属の素の薄い土地柄か、五世代も前から掘られている鉱窟なら話は別だし、または大陸に数少ない大都市からやってきた野心あふれる実業家が、大儲けと意気ごんで大量の人足と爆薬を持ちこんだというなら事情もちがう。
 後者のような罰当たりの噂は、ときどき熱を含んだ悪風のようにハンターたちの酒場に吹き流れる。しかし不思議なほどに長続きしないのは、公にはされぬものの、もちろん秩序と利権を守るギルドの介入があるためだろう。やがてよそ者の姿は狩場から消え、また元通りにむかしからの鉱石掘りたちが、日々の糧に必要なだけの氷結晶を袋に持ち帰ってくる。
 ただし、以下は酒毒に身を崩した老狩人の与太話として――そういう秘められた禍事のあとには、狩人たちの収穫品に、時折り見事な鮮血色の珍しい鉱石がまぎれこむという。それは血石に似ている。極北の鉱脈――わが友、地質学者の書士官いわく、何万年も以前、そこがはるかに温暖だったころ繁栄した生き物の遺骸が眠る凍土、長い長い時の作用を受け、その血肉が腐らぬまま鉱物化している寒冷地――で採掘される血石に、その奇妙な鉱石は兄弟じみてそっくりだという。だが、性質はあまり似ていない。雲母のようにもろく、輝く赤も次第にどす黒く変色し、なんの用途にも適さないため、価値もなく捨てられてしまう。おそらくは変成過程の失敗で、氷結晶にも陽光石にも性質を固定されえなかった、できそこないと判ぜられる、と。
 その血石まがい、、、、、の前身が、振り下ろされたピッケルの先端と出会って鈍い音を弾いたとき、熱い大地の胎内からえぐり出され、汚れた革手袋のなかに盗み奪われたとき――自然から切り離されて、人の社会に生まれ出たその瞬間に、いかなる歪んだ過程があったか。燦たる陽光も浴びず、静謐の星光も遠く、代わりに何がそれを深い昏みのある偽紅玉と染めあげたのか。
 知るものがいるのか否か、それすら、あえて尋ねるものもない。

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