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ドンドルマの食卓 メシマズ編

ドンドルマ短編集企画にアッシュドランカーさんから寄稿作品です。

電光石火の寄稿、ありがとうございました!
正式にHUNTERLOGUE避難所で短編集企画としてまとめてありますが、
掲載場所は多いほうが誰かに読んでもらえるかな、という個人的判断でこちらにも残しておきます。
削除要請はツイッタのほうへよろしくお願いします <(_ _)>




 ドンドルマの食卓 メシマズ編
アッシュドランカー著 


 玄関の木扉が控えめにノックされる。応対に出る前に、米袋が地面に降ろされたような音がした。嫌な予感がする。素早く玄関に駆けより扉に開けると、手紙が添えつけられた麻袋と、逃げるように離れていく見慣れた背中があった。
 せめて説明しろバカタレ、とあの背中に叫んでやりたい気持ちもあったが、とりあえず添えつけられた手紙に目を通した。
「ドドブランゴの肉です。腐りやすいから、早めに食べてね」
 ミミズのような文字で書き殴られたそれに、軽い目眩を覚えた。まぁ、貴重なタンパク質をタダでもらえたと考えれば、ね。
 5kgはあろうかという麻袋を厨房に運びこむ。袋の口からは、鼻を押さえたくなるような獣臭が渦巻いていた。やっぱりタダほど高い買い物は無いかもしれない。思い起こせば、前に奴から貰ったグラビモス肉の処理には苦労した。奴を死体遺棄で訴えたら勝てる自信はある。

 とにかく、調理台の上に肉をのせる。中には氷結晶も詰め込まれていたため、肉の量は実質4kg弱といったところだ。前回のグラビモス肉のような、内出血のさせ過ぎでどす黒く変色している様子がないのは救いだった。ただ、普通市場に出回るような竜肉獣肉とは違い、ずいぶんと赤黒い。献血の時に見る、静脈血みたいな色をしている。
 肉のまわりは分厚い脂肪に覆われており、いかにも寒冷地のモンスターといった風情だ。ただ、脂肪の色は雪のように真っ白な霜降りなのではなく、ところどころ黄色く変色していたり、鮮血のようなピンク色になっていた。人生初のドドブランゴ肉は、なんとも食欲が減衰する色彩を放っていた。
 たぶん――いや確実に、食肉用の処理とかしていないんだろうな、コレ。

 ケース1 ドドブラステーキ

 深く重いため息を出し尽くした後、いよいよ調理を開始することにした。肉には既に骨が取り除かれ、ある程度はブロック状に切り揃えられていた。汚染されていそうな脂肪の表面を切除し、初めは1cm厚のステーキにしてみることとした。まぁこれで肉の本来の味がわかるだろう。
 適当に塩コショウを振った後、猛牛バターをひいたフライパンの上に載せる。強火にかけると厚い脂肪が勢いよくはじけ始めた。よしよしと頷いたのも束の間、脂肪に火が燃え移る。慌てて火から離してみたが、火が消える気配なし。ワーオ。
 はい、上手に焦げましたー。今更ながら、ドドブランゴは火に弱いということを思い出す。肉質そのものも火に弱かったようだ。そういやグラビモス肉を煮込む時は苦労したもんなぁ。……ほんとに、苦労、したんだよなぁ。
 
 黒焦げになった部分を泣く泣く捨て、今度は弱火でじっくりと焼くこととした。レアのほうが上手いのかもしれないけれど、寄生虫とかがいたら怖いので、ウェルダン一択。今度は焦がすようなヘマをしなかったのだが、別の問題が出てきた。
 すごく臭い。控えめに言えば獣臭い。控えめに言わなければ、食事中には言ってはいけないアレを焼いているような臭いがする。焼きあがるころには、フライパンに臭いが染み付いてしまった。たわしで擦っても中々臭いがとれず、涙がちょちょぎれる。

 まぁ、皿に盛りつけられたドドブランゴステーキは、中々ジューシーで旨そうな佇まいであった。臭いも大方フライパンの方に移ったのか、食に耐えられる程度にはなっていた。適当にハーブでもまぶして誤魔化そう。
 さっそくナイフで切り分けて……、切り分けて……、切り……分け……てっ!
 鋸のほうが良いのではと思う程、肉が硬い。繊維も太く多く、素晴らしく鍛え上げられた筋肉だと感心させられる。額に汗がにじみはじめた頃に、ようやくステーキを全て一口大に切り分けることができた。さっそく口に運んでみる。口当たりはそれほど悪くないように思えたが、最初だけだった。
 噛み切れる気がしないうえに、噛めば噛むほどアルコール系の刺激臭と苦みが肉から溢れだしてくる。これは肉だ、ゴムじゃない。肉だ。言い聞かせる。無理でした。もはや無心で咀嚼する。
 3分ほどかけて、咀嚼完了。皿にはまだ1ポンド程の肉が残っており、思わず天井を仰いだ。

 神は我に七難八苦を与えたもうた。
 

 ケース2 ドド鍋ンゴ

 ドドブラステーキを食べきったことで、人として大切な何かを失った気がする。こうして世界はベジタリアンへと向かっていくと思うと感慨深い。この肉を食べきった暁には、奴にたっぷりとお礼参りしようと思う。
 ともあれ、ステーキはNGだったので、別の手段を模索することとした。手っ取り早く、ポッケ村から出稼ぎに来ているお隣さんに聞いてみた。
 お隣さんは、ブランゴ料理について嬉しそうに語ってくれた。話を聞いていると、先ほど自分が食べた肉はブランゴとは別の何かだと思えてくる。とりあえず一旦話を戻し、ドドブランゴ料理について聞いてみる。お隣さんの笑顔が翳った。肉を得た際の状況を聞いてくる。今朝ハンターから貰いました、状況はわからないと答える。お隣さんが察したような顔つきになった。細かく刻んで、強めに味付けして、とにかく煮込め、とアドバイスをくれたお隣さんは、足早に去ってしまった。去り際にぼそりと、駆除された奴の肉はねぇ、と言っていた。
 とりあえず、奴がくれた肉が危険物らしいことはわかった。お礼参りの内容が充実していくのを感じる。メモ帳にリストアップしておこう。
 家に帰り、調理に取り掛かる。調味棚から、ミソスパイスなるものを取り出してみる。この前お隣に引越してきたシキ国の方からの頂きものだ。味と匂いが独特なため中々使い道がなかったが、今回の調理にはぴったりだろう。
 強い味付けで、煮込むといえば鍋だろう。早速、肉を細かく切ることとした。
目標、親指の先端くらいのサイズ。肉に包丁を入れる。うまくカットできないので、2年ぶりぐらいに包丁を研いでみた。軽快に切れて気分が良いが、消耗も早かった。結局全ての肉をカットする頃には、研ぐ、切る、なまくらになる、を3ループぐらい繰り返した。明日は筋肉痛確定だろう(断じて、明後日以降ではない、断じて)。
 さらに、今回はカットした肉を下茹でしてみることとした。5分後、鬼のように灰汁がでてきた。すかさずボールに灰汁を移す。最終的には、灰汁だけで3品ぐらい作れるのでは?というほどの量となった。しかもこの灰汁、かなり臭い。お隣さんから苦情まで来た。灰汁は後で穴を掘って埋めておくことにした。
 下茹に手間をかけたおかげで、肉の匂いはかなりマシになっていた。ステーキに比べれば格段に柔らかい。ようやく鍋が作れる。秘伝のミソスパイスを多めに投入し、じっくりと煮込む。
 通常の3倍近い手間と時間をかけて、ようやくドド鍋ンゴ、完成です。
 汁を啜ると、体の芯までじんわりと暖かくなった。肉を頬張る。少々硬く獣臭いが、ステーキと比べれば随分とマシだ。季節は今、寒冷期。肌寒い日には鍋をつつくのが最高だ。今までの苦労を噛み締めながら、しわくて、硬くて、ちょっと臭いドドブランゴ肉を頬張る。そうして、鍋を食べきって一息ついたあと、しみじみと思った。

 やっぱり家畜は偉大だな、と。


 ケース3 ドドブランゴの塩ミルク煮込み

 ドドブランゴ肉を全て鍋に消費してしまうのも良いのだが、残り3kg全てを鍋、というのもさすがに飽きる。なので、さらなる情報収集のためドンドルマ町立図書館にやってきた。さっそく調理本コーナーに行く。さすがに狩猟都市だけあって、ジビエ、ブッシュミート、保存食コーナーはかなりのスペースがある。まずは安定のムッシュ・シエロ著の料理本を物色する。すると、そこには見慣れたアイル―が居た。奴の厨房の料理長だ。理不尽かも知れないが、皮肉の一つでも言ってやろうと思い近づいたのだが、思わずたじろいでしまった。奴のアイル―は、シエロ著のジビエ本を、修羅の形相で読んでいた。その目からは生気が失せつつある。彼(彼女?)の置かれている境遇も自分と同じなのだと気付くのに、時間はかからなかった。彼の肩にちょこんと手を置いてやると、泣き出してしまいそうなほど、申し訳なさそうな表情だった。どうやらこちらの事情も察してくれたらしい。我々は、仲間だ。
 とりあえず、下茹でしてはいけない、ミソスパイスとの相性は最悪、煮込み料理はNG、ステーキはわりといけた……などのアドバイスをした。生気を取り戻し、笑顔で別れた彼の背中に、邪悪な笑みを堪えることが出来なかった。

 アイル―がいなくなったあと、いくつか本を読みこむ。お勧めの香味野菜が紹介されていたので、メモを取る。さらに、ブランゴ肉に関する記事を発見。あのアイル―には見つからないよう1週間ほど借りておこう。
 ブランゴ肉についてだが、旬は温暖期で、性成熟したばかりのメスが一番おいしいらしい。鍋や唐揚げ、カレー,煮物もいけるらしい。ただ、個体ごとの、季節ごとの味の差が激しく、素人には難しいと書かれていた。特にいけないのは、繁殖期から寒冷期の成熟オスで、この時期はメス争いのために筋肉が硬質化し、脂肪にはフェロモンの匂いが染みついてアルコール系の刺激臭を帯びるらしい。畜生め。だが、全てのドドブランゴ肉が不味いわけではないと知ることができたのは、今日一番の収穫であった。
 その後もいくつかジビエ料理の本を読み、市場へと向かう。棍棒ネギに塩ミルク、生姜などを手に家へ戻った。ラストのレシピはミルク煮とすることとした。最終的にも肉の匂いと味を消す方向でしか調理できなかったのは心残りだったが、仕方あるまい。
 肉を細かくカットし、下茹でして灰汁を取り、沸騰したミルクの中にネギ、生姜を投入後、ブランゴ肉を入れる。湯気からはミルクの甘ったるい香りと生姜の風味が香り、胃袋が鳴った。味見してみる。ミルクの中に浮かぶ、ピリリと生姜の味が効いたドドブランゴ肉は、今まで最も美味であった。甘いようで、辛いようで、それでいて暖かい料理となった。
 ドンドンと玄関の木扉が叩かれる。応対すると、ゲッソリとやつれた奴が立っていた。足元には料理長のアイル―が、彫刻みたいな表情を作っている。大体の事情は察した。一人と一匹を家に招き入れ、ドドブランゴのミルク煮を振舞ってやることにした。
 まぁ、お礼参りはドドブランゴ肉を全て消費してからでも遅くはないだろう。それに、気心知れた者と卓を囲んだ方が料理は美味い。これで残りのドドブランゴ肉も楽しく消費できそうだ。

 ただ、ドドブランゴ肉を消費するまでにかかった手間と金銭は、同量の家畜の肉を買っても十分お釣りがくる程だったということは、注記しておく。

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