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モンスターハンター!3 5章

熱砂の銃槍師 5章です。

ウスフールというのは、実はラクダの血統名だったりする。
熱砂は長いので、途中まとめを入れておきます。

熱砂の銃槍師 ~これまでのあらすじ~
毎年ポッケ村に近付きつつある竜を討伐するため、大陸南部の砂漠へと
単身おもむいた、ポッケ村専属ハンター、双剣士ヒュー・パーシヴァル。
旅の途中に知り合った銃槍師ルイと意気投合したヒューは、
ルイとパーティーを組み、砂漠の街ジャッダハを拠点に竜の出現を待つ。
しかし、砂漠でも悪名を轟かす飛竜はなかなか姿を見せず、
相棒のルイにもまた謎めいた暗い影が見え隠れする。
かすかな不安を感じながら、ヒューは砂漠での日々を過ごすのだった……


モンスターハンター! 熱砂の銃槍師


 5章 護衛任務

 玄関先から待ちかねた声が聞こえ、オモチは乾燥雪山草の手入れを中断した。
「ちわーッス、ごめんくだせーい! 郵便のお届けだよ~ん」
 キッチンから四足でぴょんぴょん飛びだすと、開いた扉の前に立っていたのは日頃世話になっているポッケ村の行商人。ニカッと調子のいい笑顔を浮かべたコンスタンだった。
「よっすよっす、オモッちゃん。さっき集会所に顔出したら手紙が来てるってんでさー、ついでに持ってきてやったよ」
「ありがとニャン! コンスさんも、今帰ってきたところニャ?」
「そうそう、近隣の集落一周してきてねー。夏場は湯治客も来るしハンターも多いしで、稼ぎ時だもんで」
 差しだされた薄い封筒は他の郵便物にだいぶ揉まれたらしく、盛大にしわがついている。だが受けとったオモチがぴんと広げると、宛名の筆跡は差出人の人柄を示してのびやかに闊達だ。封の隙間から、見知らぬ土地の砂の匂いがこぼれ落ちてくる。ポッケ村を発ってから一月半、セクメーア砂漠にいるヒューからの二通目の手紙だった。


『村長、ザクセン、オモチとポッケ村のみんなへ――。
 元気か? こっちはピンピンしてる。フライパンの上なみにクソ熱い砂漠にも慣れてきた。オモチは来なくて正解だったな。あいつの毛皮じゃ、丸刈りでもしなきゃ耐えられない気温だ。そのくせ夜は氷点下まで落ちる日もあるし、こういう土地に住んでるモンスターが手強いわけだと思った。
 村はそろそろ夏祭りが近いか。出られないのは残念だけど、ジャッダハじゃ毎週のバザールが祭りみたいに賑やかだから、まぁ寂しくはないかな。メシも美味いし。そういやサボテンって食えるんだぜ。あれってけっこう美味いのな。
 で、このあいだドスゲネポス(ドスギアノスのいとこみたいな竜?)狩猟が成功して、ジャッダハでも大型討伐を受けられるようになった。でも肝心の《十字傷》が砂漠に出なくて、まだ時間はかかるっぽいけど、必ず狩猟して帰るからみんな安心して待っててくれ。
 あと前の手紙にも書いたんだけど、俺と組むことになったルイってガンランサーはやっぱりすごく腕が立つ。あいつの竜撃砲をみんなに見せてやりたいよ。銃槍マジかっこいいな! ガシャーッて変形して使うのがなんか燃える。双剣にもああいうギミック付かないかな。
 じゃ、今回はこんなところで。また手紙書くよ。
 エイナは体を大事に。ガスによろしく!
――ヒュー・パーシヴァル 』


「……他に報告すべきことはないのか!」
 一同を代表し、村長の前で文面を読みあげたザクセンは終えると同時に頭を抱えた。
 オモチも大きな金の瞳を半眼にしていたが、村の入り口に座すマカライト巨岩に集った他の面々は「いかにもヒューらしい」と笑い声をあげた。
「半分以上がどうでもいい内容じゃないか。あのお調子者ときたら……」
「ひょひょひょ、何も問題は無いということよ。どうやら頼れる仲間も見つけたようだ」
「ガンランサーは確かに心強いですね」
 村長に頷いたのは、ヒューにかわってポッケの仕事を請け負う隣村のハンター、槍使いのガスである。
「あの轟竜が砂漠で何人も殺してると知ったときは、俺も危うく思いました。でも銃槍師の盾があるなら話は多少違ってくる。腰を据えた慎重な狩りができます」
「まぁ、そうだ。ソロの双剣は短期決戦に持ち込みがちだが、それは《十字傷》相手には至難だろう。以前、私もお前の盾に命を救われたのだったな」
「オイラは、とにかく旦那さんが他の人とパーティーを組んだだけでホッとしたニャ。あのおバカな旦那さんなら、単独狩猟も言い出しかねなかったニャ~」
 オモチが実に疲れたふうに耳としっぽとヒゲまで垂らしたので、ザクセンは苦笑した。一方その横で、むしろコンスタンが両こぶしを握り締めている。
「いやいや、でもッスよ。そのガンサーさんが本当に敏腕で、突撃双剣野郎なヒューさんのいい感じの重しになってくれたら、ひょっとしてあのティガレックスだって……」
「今年は冬の入りか、それとも終わりか――フラヒヤの民が案じ、思い悩まねばならぬのも、ヒューが終わりにしてくれるかの」
 静かな呟きは村長のものだった。
 我に返ったように一同は口を閉じ、しばし思い思いに沈黙する。
 砂漠からの便りには緊張感のカケラもないが、実際《十字傷》討伐は雪山の村々にとって急務である。そして轟竜は、それも記録上の最大サイズに近い個体となると、上位になったばかりの双剣士一人が相手をするには強大にすぎた。
「ルイという銃槍師、どんなハンターなのか……」
 あごひげをしごきながらザクセンが言い差したとき、
「こんにちは、みなさん!」
 坂の上から軽やかな挨拶が届いて、少々重苦しくなった場の空気を吹き払った。
 皆が視線を向けると、幸せそうな笑みを浮かべ、一人の女性と金髪の少女がゆっくりと歩いてくるところだった。少女が気遣うように手を添えているのは、連れがお腹の大きく膨らんだ妊婦だからだ。通りすぎる人々も彼女を見れば自然と表情がほころぶ。ポッケ村でもっとも若い夫婦、ヨックとエイナの子は久方ぶりに村に芽生えた新しい命だった。
「ヒューさんからお手紙が届いたと聞いて。あたしも先日、うちの人と一緒に手紙を送ったところだったんです。きっと行き違いになっちゃいましたね」
「やぁエイナ。我々はもう読み終わったから、持って行って皆に見せてやるといい。呆れるほど中身は無いがね。お腹の子はどうだい?」
「すごく元気。時どき痛いくらいにお腹を蹴るんです。だからヨックは男の子だって信じてる。ヒューさんが帰ってくる頃には産まれてるかしら」
「ヒューお兄ちゃんからのお手紙、わたしにも読ませて!」
 はちみつ色の髪をぴょこぴょこ跳ねさせて言ったのは、付き添ってきたセシリアだ。村の子では一番のおてんば娘で、ヒューによく懐いている。
「およ、シシィちゃん文字読めるんスか。小さいのにすごいんだなぁ」
「バカにしないで、文字くらい読めますぅ。わたしハンターになるためにいろいろ頑張ってるんだから。みんな無理だって笑うけど、絶対なってやる」
「し、シシィちゃん、まだそれ言ってるんスか……」
「なによ、当たり前でしょ。どうしてわたしが簡単にあきらめるって思うの? ハンターに必要なのは、ねばりづよさよ!」
 冷や汗を流すコンスタンをしり目に、小さなセシリアは両手を腰にあて、荒く鼻息など吐いている。「なんだか旦那さんに似てきたニャ……」オモチの唸りに一同が苦笑したあたりで、集まりはゆるやかに解散となった。
 若い母親は村長と並び、近い夏祭りに美々しく飾りたてられた中通りへ、のんびりと戻っていく。彼らを追って歩き出そうとしたザクセンだったが、背中にぼつりとガスの声を聞き、足を止めて振り返った。
「――ヒューはえらいですよ」
 マカライト岩の前に、隣村の専属ハンターは一人残っている。どこか複雑な眼差しで、よく晴れあがったフラヒヤの南へ連なる山なみを眺めていた。
「村人が安心して赤ん坊を産めるように……、子供たちが安心して暮らせるように、あの轟竜を狩ると言って本気で出て行っちまった。俺は怖じ気づいたのに」
「ヒューも、もともとは経験豊富な兄と共に狩るつもりだったんだ、ガス」
「兄貴が行けなくなっても、一人で村を出てったじゃないですか。最初は、街生まれのハンターなんかに雪山の専属が務まるかって思ってたんですよ、俺は。でもあいつは、なんか違うんだな」
「…………」
「ポッケで見かけるといつも双剣を鍛えてる。他のことを全部捨てて、なんであんなに狩りだけに邁進できるもんか。よくわからないが俺は羨ましいんです。真のハンターとはヒューのようなやつを言うんだと。自分は、とてもああはなれない……」
 そう言って口をつぐんだ青年の真面目な横顔を見つめ、ザクセンは少し微笑んだ。
 確かガスは、二十五を数えたかどうだったか。いずれにしろ年若い。
「まぁ、せいぜい悩むことだな」
「え……」
「狩人としての在り方など、決めつけるのが青さだな。生き方は一通りではない」
「そう、ですかね……」
「お前は今、お前だけの道を探していると思うことだ。迷うのは若者の特権だぞ。自分でいろいろとあがいて、苦しんでみるといい。そのうち何か掴めもするだろう」
「…………」
 ガスはしばらく言葉の意味を考えるようにうつむいていたが、やがて小さく数度頷くと、軽く会釈して集会所へと歩み去って行った。
 青年の後ろ姿を見送りながら、ザクセンは無意識に苦笑を浮かべる。腕を組んで首をひねり、先ほどガスが眺めていた南の空を遠く見やった。
「まったく、なにかと周囲を動かすやつだ。今頃は誰を巻きこんでいるやら……」

 * * *

「ほほォ、女からの便りかっ?」
「のぉあっ!?」
 読んでいた手紙を危うく引き裂くところだった。
 いきなり肩口から手元を覗きこまれ、ハンターとしてはやや残念なくらいびっくり仰天したヒューは、次の瞬間容赦ない肘鉄を犯人のあごに決めた。
「ぬぐおおお、痛いっ。ひ、ひゅー、お前さん今けっこう本気だったな!?」
「人の手紙勝手に覗きこむからだ! 趣味悪ィぞマディフ!」
「俺の気配くらい気付いとけっ、上位ハンターなら!」
「おっさんのバカでけー声と足音が聞こえてねーわけねーだろがっ。急にスキンヘッド突っ込んでくるほうがおかしいっての! まぶしいんだよ!!」
「がっはっはァ! お前だってあと二十年もすりゃハゲ始めるぞ、残念だったな青二才!!」
「ハァイ、猛獣さんたち。他のお客様のご迷惑になります、そこまでにしてね」
 お互い、ハゲ頭を押しあげ銀髪を抑えこみの仁義なき吠えあいを止めに入ったのは、ジャッダハギルドの美人受付嬢イヴリンである。
「あれ、変な組み合わせだな。デートか? なんだ、その大荷物」
「おお、おデートおデート。荷物持ちという名のカレシだよ」
「酒場で油を売ってたから、ギルドの買いだしを手伝ってもらったのよ。休憩しましょって、この店に入ったらあなたの姿が見えたから。それにしてもヒュー、ほんとにずいぶん嬉しそうな顔してたじゃない。誰からって聞いてもいい?」
 ああ、とヒューは明るく笑う。同じテーブルに落ち着いた二人へ、持っていた手紙を誇らしげに見せてやった。
「村からの手紙だ。俺の友だちの奥さんが臨月で、もうすぐ赤ちゃんが産まれるんだぜ」


 環状都市ジャフ・ナ・ダハはその中心に、池と呼ぶには大きく、湖と言うには小さなオアシスを備えている。
 乾燥地帯では貴重な水源の存在こそ、先住民の村が交易都市にまで発展した第一の理由だが、枯れることのない澄んだ水がどこから来るのか、泉中央の湧水口はあまりに深く確かめた者はいない。ただ、この水脈の遠くない位置に巨大な地底湖がありそうだというのは、ジャッダハの狩人なら誰もが信じているロマンだった。十年ほど昔、水竜ガノトトスの幼体が突然湖に姿を現したことがあったからだ。
 地下水脈から迷い込んだと思しき水竜は、岸辺で騒ぐ人間たちに腹を立て攻撃してきた。駆けつけたハンターたちの一斉射撃の前にほどなく倒れたものの、そこは凶暴な魚竜である。子供とはいえガノトトスの水ブレスは激烈だ。岸辺に並んでいた一軒の喫茶店など、文字どおり真っ二つに断ち割られた。幸い人死にはなく、豪放な店主は水流カッターの傷痕を残したまま営業を再開し、今では街の名所のひとつになっている。
 ジャッダハの人々の懐の深さを感じさせる逸話だが、以来その強運にあやかりたいハンターがよく訪れるようになったため、かつての瀟洒な喫茶店がすっかり酒場に様変わりしたというオチはついていた。
 知らずに入ったヒューに店の来歴を教えてくれたのは、カウンターで接客していた店主だ。直線状に天井に走る大迫力の亀裂を眺め、ヒューは感慨深げにコーヒーをすすった。
「ジャッダハの人たちって、みんな親切だよな。なーんかポッケ村思い出す」
「おおう。ホームシックか少年?」
 脂ぎったハゲ親爺のウィンク攻撃。ヒューは笑って首を切る真似で返した。
「違ェよ! ま、雪山の村と似てるってのも変な気がするけど。でも店に入るとこっちが何も言わなくたって水とか干しブドウを勧めてくれるし、ハンターもいろいろ教えてくれるだろ。竜の水場とか抜け道とか、砂漠で必要な物とか……」
「他の街のハンターなら秘密にしたがることをね」
「そうなんだ、イヴリン。ポッケ村もそんな感じでさ」
 ヒューが熱く同意すると、イヴリンはどこか嬉しげな様子で人差し指をくるくるさせた。
「竜がいなくても、道に迷うだけですぐに死んじゃう場所でしょ。砂漠も雪山も。お互い助け合うのが生き残る最善の道だって、みんな知ってるワケ」
「ただし、街ン中の露店はその限りじゃあないからな。注意しとけ……っとと、そういやお前さんは、じゅうううううぶん経験済みだったなぁ」
「うるへー。ラマラダ市場でもぼったくられそうになったかんな、このへんの商人の怖さは身に沁みてるよ」
「あら、見直しちゃう。今来てるラマラダ商人たちはセクメーアでも一番古い遊牧民よ。つまり一番手強い商売人。ギルドとも折り合いが悪いくらいなのに、よく逃げられたわねえ」
「ああ、ルイの知り合いだったから」
「ほほー、《狼吼》の……」
「…………」
 不意の沈黙は、ルイの名前が出たせいだった。
 イヴリンとマディフが何とも言えない表情でお互い目配せしたので、ヒューは口をへの字に曲げる。――またこれだ。
「お前さん、ヒューよ……。ガルファイドとは、まぁ上手くやってるみたいだなあ」
「おう。ルイは頼りになるぜ」
「そうかそうか。そいつぁ何より……」
 だがしかし――と本当はマディフは続けたいのだ。
 微妙な空気に、ついヒューは苦虫を噛み潰した顔になった。ルイを話題にするたび、それまで陽気に会話していたどのハンターも必ず口を閉じ、あるいは愛想笑いして含みのある沈黙を残す。その理由を意地でも聞くまいと思ってはいたものの、ずいぶん親しくなったマディフやイヴリンにまでこんな反応をされ続けるのにも、正直うんざりしてきていた。
 それで憮然とした表情を隠しもせず、ヒューは正面の二人をまっすぐ見つめた。
「なあ。言っとくけどルイは度胸もあるし腕は立つし、良いやつだぞ? あいつの名前出すたびに便秘みたいな顔すんの、やめてくれよ」
「いやなに、《狼吼》が悪いやつじゃあないってことは、よぉく知ってるがな……」
「じゃ一体何なんだよ」
「ちょっと心配なだけよ、ヒュー。あなたたち二人ともがね」
 困ったように微笑んだのはイヴリンだ。ヒューは目を剥いて問い返した。
「心配ィ? ヒヨッコならともかく、俺たち上位だぜ!?」
「そうなんだけど。うーん、ほら、ルイは単独ソロ専門みたいなところがあるし、お喋りなタイプでもないでしょ? 砂漠の危険をあなたに教えられるのかどうかとか……。だって、彼自身この街でハンターを始めて四年目くらいなのに」
「四年目? でもあいつ、ジャッダハに来る前もどっかでハンターやってたんだろ?」
「うんにゃ、ハンターじゃなかったのは確かだぞ。なにせ狩りの基本をあれこれ教えてやったのは、この俺だ」
「へえ、そうだったのか……」
 意外な話に、ヒューはちょっと口を閉じた。
 普段の冷静沈着さからして、熟練した狩猟経験をルイには予想していたからだ。四年というなら自分とも大差ない。――とはいえ、上位は上位である。
 初対面の時からして、どうもイヴリンには過小評価されているようだ。貫禄が足りないのか? ザクセンのように、あごひげでも生やすべきか……などと、頭を悩ませるヒューに関せず、過去を思い出しながらマディフが続けた。
「やつは、はじめ槍を使っていてなぁ、すぐ銃槍に持ち替えたんだ。ランスの扱いはもとから上手かったんで、前は傭兵か何かだろうと俺たちゃ見当つけてるんだが……。《狼吼》がどこから来たかなんてのは誰も知らねえんだよ、ヒュー」
「北のほうの街にいたって言ってたぞ。竜が少ない土地だって」
「それ、たしか? ルイに聞いたの?」
 ほとんど音がしそうな勢いで、イヴリンが大きく瞬きした。
 隣のマディフも急にしゃっきり背すじを伸ばし、ビールジョッキを卓に戻したので、妙に大げさな反応に呆れてヒューは首をひねった。
「そうだけど。んな驚くようなことか?」
「あのな、ガルファイドから身の上話を引っ張りだすなんざ、お前さんが初手柄なんだぞ。どうやら本当に馬が合ったらしいなぁ」
「竜が少ない土地っていったら、シュレイド地方の北辺かもしれないわね」
「え、じゃあ本気でそんなおとぎ話みたいな場所があるんだ」
「私も、ミナガルデのハンターのまた聞きですけどね。シュレイドの北にはあまり竜が棲んでいなくて、王都ヴェルドでは竜を見たこともない人が大勢いるそうよ」
「へー、やっぱり信じらんねー。ホントかなぁ」
「だったらよ、もっと《狼吼》の野郎に聞いてこい。やつの昔話には興味がある」
「自分で聞けよ」
「俺にゃ言わんだろ」
 無理無理と手を振る他力本願男に、ヒューは眉間にしわを寄せた。
「なんでそこまで皆が気にすんのかが、俺にはわかんねーけどな……」
 事実、好奇心丸出しであごを撫でさするマディフは、ゴシップ好きな隣家のおばちゃんそのものである。しかし辟易気味のヒューの視線にも、大男はまるで頓着しない気らしい。しゃあしゃあとひどい話を暴露した。
「今まであの一匹狼と長続きするやつはいなかったからなー。賭けてる連中もいる」
「マジかよ! それでか!」
「ちなみに俺は一週間で、早くも負けた。あーもっと大穴狙いにしておくべきだったぜ畜生」
「ペイント投げるぞ、おっさん! ――っと、やべ。ルイと次の仕事探す約束してたんだ」
 話がどうでもよくなってきた頃、壁時計を見たヒューが慌てて立ち上がった。
「俺もう集会所行くけど、二人はどうする?」
「そうね。私たちもちょっと休憩しすぎたかも。そろそろ戻らなきゃ」
 チップを残して直射日光の外へ出ると、午後の街は常のごとく賑やかだった。
 狭い街路は人や食べ物、さまざまな香と砂と熱気が入り混じる独特の匂いでむせかえっている。込んではいても、一般人から頭ひとつ抜け出たマディフが大荷物を背負って歩けば、それだけで人ごみが割れた。同じく荷物持ちとなったヒューも、三人の最後尾を歩いて集会所へ向かった。
「おっと、ごめんよ」
 ギルドまであとわずかの距離まで来たとき。近くの鍛冶工房から出てきたハンターと肩をぶつけ、ヒューは足を止めた。
 手入れでも頼んでいたのか、男は新品同様に磨きあげられたハンマーを機嫌良さげに背負い直している。その後ろ姿を見送り、ヒューはふと前を行くイヴリンに声をかけた。
「あのさ、イヴリン。ルイが武器を持ち替えたって話は本当なのか?」
「ええ、そうよ。最初にランサーとして彼を登録したのは私だし」
「槍が得意だったんなら、なんでガンスに替えたんだろうな」
「そうねえ、理由は書類に必要ないの。ガンランスには浪漫があるからじゃない? 男はみんな口を揃えて同じこと言うでしょ。……でも、それがどうかした?」
「別に、ちょっと聞いてみただけだ。気にしなくていいよ」
 不思議そうに振りむいたイヴリンに、ヒューは軽く首を振った。

 * * *

 集会所へ着くと、先に来ていたルイがカウンター近くで手を上げた。
 同じように片手で応えてから、ヒューは買い出しの荷を酒場奥の調理場へ運びこむ。戻ってくると普段着の銃槍師はいつものように黙って頷き、仕事を用意して待っていた。
「隊商の護衛任務?」
 ヒューが問うと、ルイはちょうどカウンターで依頼書をしたためている砂漠の民を視線で示す。憶えているか、と切りだした。
「何を?」
「ラマラダ市場の商人だ。あんたからぼったくろうとした爺さんがいただろう」
「ああ、もちろん憶えてるよ。あんときは焦ったけど、長衣はすげー役に立ってるし」
「彼はあの爺さんの隊商の一員なんだ。この街を出て、いくつか先のオアシスに着くまでのあいだ、護衛としてハンターを雇いたいらしい」
「ふーん。そういやお前、爺さんとは親しそうだったもんな。いつ出発?」
「……受けていいのか?」
 妙なことに、面食らったのは話を持ってきたルイ自身である。何言ってんだとヒューが眉を上げると、至極もっともな返答があった。
「しばらく街を空けることになる。その間、《十字傷》の情報をチェックできないぞ」
「あ、そっか。しばらくってどのくらい?」
「順調に行って片道四日。俺たちはそこで折り返すから、往復八日くらいか」
「じゃあ大したことねえよ、大丈夫だろ。行こうぜ」
「……爺さんはセクメーアの生き字引だ。今年の《十字傷》の動きについても、何か知ってるかもしれない」
「へえ、だったら尚更ぴったりの仕事じゃねーか! もうずっと待ちぼうけ喰らってるし、こっちから砂漠に乗り込んだほうがいい気もしてただろ」
「――と言って、あんたを説得しようと思ってた」
 目を向けるとルイが肩をすくめてみせたので「必要なかったな」ヒューは笑った。
 轟竜討伐の手助けを貸しとして、有無を言わさず承諾させることもルイにはできたはずだ。マディフやイヴリンが何を言おうと、こういう銃槍師の生真面目さをヒューは信頼していた。
 記入の終わった依頼書は求人用掲示板クエストボードに貼りだされることなく、依頼手数料・受注契約料ともにカウンターへ手渡されていく。くるりと振り返った依頼人は、小柄でもさすが過酷な砂漠を渡り歩く強者の一員だ。頭巾ターバンの下からのぞく眼はハンター同様に用心深い。値踏みするようにじろじろとヒューを眺め回すと、次にルイを睨んだ。
「こいつはお前の仲間か、ハンター。使えるのか」
「ああ、腕は俺が保証する」
「ならいい。水と食料は私らで用意する。帰りのラマラダも貸す。ハンターはハンターの用意をしてくればいい」
 出発は、と尋ねたルイに、男はすげない口調で告げた。
「日暮れ。西門の外」


 ルイの指示に従い、中型竜が狩れる程度の準備をしてヒューは西門へ向かった。
 しばらく前から、フルフル亜種の皮を用いた防具を愛用している。フルフルは寒冷地の生物なので高温地域では装備できないことも予想したが、案に反して着心地はひんやり冷たく、砂漠でも問題なく役立った。無駄な装飾を極力省き、分厚い甲殻なども使っていない。しかし竜皮の特殊な弾力性と各種鉱石の補強で防御力は申し分なく、機動性の高さが双剣士向きで、ヒューは気に入っていた。
 途中で合流したルイは、青く輝く竜鱗を編んだいつもの鎧を着ている。それがあの砂竜ガレオスの鱗だと聞いたときは、ヒューは耳を疑ったものだった。ガレオスの鱗はきれいに砂を洗い落とすと、魚竜の名にふさわしい本来の青色を取り戻すのだ。通気性は抜群で、まさしく砂漠狩猟に適した防具と言えた。
 途中で薬品などを買い足しつつ、西門近くに至る。外からは、出発を控えた隊商の慌ただしい気配が伝わってきた。さっそく門をくぐろうとすると、だしぬけにルイが言った。
「ヒュー。先に謝っておく」
「あん? 何を?」
「あんたは知らなかったと思うが、砂漠の民にはハンターを快く思ってない連中も多い。うるさく言われるかもしれないが、あまり気にしないでくれ。挨拶みたいなものなんだ」
「ああ、わかったけど……。でも依頼人は知り合いだろ?」
「まあな。しかし、あの爺さんなんかは最たる例だよ。先住民からすると、俺たちハンターは砂漠を荒らす厚かましい新参に見えるらしくてね」
 ふーんと話半分で聞き、反論する理由もないので頷いておく。が、五分と経たないうちに、ヒューはその忠告の正しさを思い知ることとなった。
 門を通り、縦列になって座るラマラダたちの脇を歩いて隊商のリーダーを探す。先頭まで行くと、忘れもしない、あの猛禽に似た老人が大きな一頭の手綱を握って立っていた。二人の狩人を目にするなり、開口一番ジジイは言った。
「わしは、ハンターは好かん」
「…………」
 もしかして、来る場所を間違えたんじゃないだろうか。
 思わずヒューがルイを見ると、銃槍師は真顔で首を振った。
「ヒューには前に会っているだろう、爺さん。今回は彼と二人で仕事をする。双剣は小回りがきくから、むしろ俺より役に立つと思うよ」
「ハンターの手など借りずとも、わしらはやっていける。砂漠の民は民ではない。戦士だ。観光気分で砂漠に出入りするハンターとは覚悟が違う。セクメーアでは長であるわしに従え」
「わかってるよ、何度も聞いた話だ。それより旅の詳しい行程を教えてくれ」
「ウスフールに聞け。わしは忙しい」
 愛想も何もあったものではなかった。
 ヒューは呆気にとられたが、彼らにはこれが日常らしい。ルイは素直に指示された人物を探しに行ってしまう。ヒューは少し迷い、その場に残ることにした。もちろん、観光客と一緒にされて黙っていられなかったのだ。
「ハンターが必要ないなら、なんで雇ったんだよ、爺さん。砂漠の民は飛竜も狩れるのか?」
 勇んで声をかけても、老人はこちらを見向きもしない。空に点々と滲む星をじっと睨みながら、独り言のように答えた。
「飛竜など狩らん。だが人手が足りん」
「俺たちはラマラダを引っ張るために来たわけじゃないぜ」
「馬鹿なことを言う。ハンターに大事なラマラダは任さん」
「ならいいけどさ。でも竜が出たら俺たちの指示に従ってくれよな。そこはハンターの専門だ」
「わしが長だと言ったぞ、異邦人。お前がセクメーアの何を知る」
「竜との戦い方だよ、爺さん」
「仕事は護衛だ、小僧」
 老人は、やっとヒューを振り向いた。
 以前と同じ、鷹に似た厳しい眼差しだ。その底に怒りはないが、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたハンターにも見る、反論を許さぬ強い圧力がある。負けじと睨み返しつつ、今更ながらヒューは銃槍師を問いただしたい気分になっていた。
 ――知り合いって、どういう知り合いだよ、ルイ……。
 雪山や森林での隊商護衛任務なら、ヒューも何度か経験がある。
 依頼人の命や荷をモンスターから守る仕事は、普通の狩猟とは別の難しさがある。まずモンスターに襲われない対策をし、襲撃された場合は防御と退避が優先される。連れているのは素人だ。パニックに陥り、予測不能の動きをする怖れも大きい。だから有事の際、ハンターに従う確約を依頼人にするのがこの仕事の鉄則なのだが、なかには初めからハンターを囮とすべく連れていく悪質な依頼人もないではなかった。報酬は支払うし、そもそも危険は承知の上だから問題ないというのである。
 ――俺は、そんなのはごめんだぜ。
 二束三文でこっちの命を盾にする義理はない、とは兄セインの言だったか。そこまでは言わずとも、これほどハンターへの嫌悪を露骨にされると楽天家のヒューでも警戒心が湧く。
 ルイを疑うのではないが、この爺さんと上手くやっていけるかどうかが不安だ。もう少し仕事内容を確認したい――と口を開きかけ、ヒューはふと注意を他へ移した。
 ――なんだ?
 一瞬、何が自分の琴線に触れたのかわからなかった。ヒューは視線を戻しかけ、だが再び周囲を見回した。
 ジャッダハの陽はすでに落ちていた。ぐるりと街を囲む隔壁の上や、門から溢れる灯りを背後に、前方には塗りこめたような岩石砂漠の闇が澱む。しかし本能的に息を殺し、じっと眼を凝らしていると、視界の端であるかなしかの光が動いた。
「仕留めろハンター、斥候だ」 老人が呟く前にヒューは駈け出している。
 今は消えた、二つの輝きが見えた場所。躊躇なく突っ込み、背中から抜きざま剣を前方へ斬り降ろす。ギャア、と恐れたような悲鳴。手ごたえは浅い。片足を引きずり、跳ねながら去っていく軽い足音。街灯のせいで闇が深すぎる。追えぬまま竜の気配は消えた。
「――駄目だ、逃がした。あの眼の高さはゲネポスだ」
 大口を叩いておいて、このざまか。さぞ嫌味を言われるだろう。
 なんとなく情けない感じでヒューは引き返してきたが、待っていた老人と集まってきた砂漠の民はただ視線を交わして頷きあった。
「いいだろう、ハンター。仕事をしろ。出発だ」
「え?」
「こちらの脅威を教えてやった。あれは用心深い。群れの今夜の襲撃はない」
 老人のひと声で、目覚めたように隊が出発準備に入る。ぽかんと口を開け、ヒューがラマラダたちの次々立ち上がるさまを眺めていると、最前の一頭に乗った老人が頭上から「邪魔だ、どけ」と言った。
「おっ、悪い……」
「お前は、言わねばうるさく聞いてきそうだ。だから教えてやる。聞け、ハンター」
「んあ?」
「このごろ砂漠が騒がしい。小竜どもが隊商路にやたらと顔を出す。こんな、街の近くにまで溢れるほどだ。いつもならハンターなど雇わんが、今の数は多すぎる。道に出る竜を散らすための人手が要るのだ」
 だから来い、働け。ラマラダには乗るな。歩け。
 目を丸くしているヒューへ、いきなりべらべら流暢に命令すると、最後にジジイはニヤリと笑んで青年を見降ろした。
「最初に感づいたのはラマラダだが、わしとは同時だったな、異邦人。吠える程度には、やる」
 不機嫌以外に初めて見せたにしては、凄みのありすぎる微笑であった。仲間たちにも珍しかったのか、隣にいた砂漠の民も横目でこっそりと老人を見上げている。
 前触れなくぞろぞろ動き出した隊商に合わせ、ヒューもとりあえず歩き出した。ぽんと肩を叩かれたので振り返ると、ルイだった。
「やっぱりすごいな、あんたは。一発で爺さんに認められたぞ」
「い、いや、俺は全然わけわかんねーんだけど」
 そんなことより、ルイと砂漠の民とはどういう関係なのだろう?
 ヒューが尋ねるより早く、銃槍師が口を開いた。
「爺さんに聞いたか? 交易路に出るゲネポスやガレオスの数が例年より多いらしい。まるで砂漠の深部から追われて、端に寄せてきてるみたいだという話だ。……来てるのかもしれないぞ」
「おい、それって」
 ルイが頷く。思い当たる名はひとつ。
「ティガレックス。《十字傷》――!」
「爺さんはセクメーアを知り尽くしてるから、危険な路は通らない。だが気は抜けないな」
「ああ!」
 巨人が大剣で切り通したような、迷路のような狭い岩場の路へと足を踏み入れる。
 角をいくつか曲がると、街の喧騒はもう遠かった。足元を照らすだけの小さな松明を掲げ、ラマラダの隊商は無言で進む。地上の光が薄まるにつれ、岩壁に区切られた狭い空にガラスを撒いたようにまたたく細かな星の数が増えた。
 この壁を抜けたずっと向こうには、白々と冴えた月明かりに銀砂の大波をうねらせる広大な砂沙漠が広がっている。そのどこかを、あの威嚇的な巨体を隠しもせず、血肉に餓えた凶竜が次の犠牲を求めてさまよっているに違いないのだ。
 ――絶対に見つけ出してやる。
 一瞬、強い緊張による震えが背中から足までを駆けおりていった。
 ヒューは前を向く。ラマラダたちは何の危険も感じず、ゆったりと歩を進めている。
 砂漠の月夜行は今、始まったばかりだ。しかしヒューの耳には夜のしじまを引き裂く轟竜《十字傷》の咆哮が、すぐにでも聞こえてきそうな気がした。
 鼻腔の奥がツンと痛くなるほど、胸に深く乾いた冷気を吸う。気を鎮め、狩人の五感を研ぎ澄ませると、ヒューは本来の任務である隊商全体の把握へと意識を切り替えた。


(「6章 砂嵐を呼ぶ者」へ続く)
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