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モンスターハンター!3 3章

熱砂の銃槍師 3章です。

公式の地図ではセクメーア砂漠より北方にデデ砂漠があるのですが
P2G(及びP2?)で下位から顔を出し、メインになっている
《砂漠》フィールド(セクメーア)を舞台に読み物を書きたいがため、
街や砂漠の位置を調整しております。
測量技術に発展の余地があるためギルド公式地図もいまだ未完成、
正確さにはやや疑問あり、というのが私の読み物での設定です。
大陸の南西部は、公式では砂漠しか判明してないけど、
ジャングルとかサバンナとか、あっても良いと思うんだよね。


モンスターハンター! 熱砂の銃槍師


 3章 砂塵の街

 ハンターズギルドに言わせると、世界地図はいまだ未完成であるという。
 とはいえ判明している限りでも、この大陸は一人の人間が歩くには充分広大だ。
 地図の上では太らせたUの字を天地逆に置いたような形で描かれ、寒帯から熱帯まで、地続きの陸中に実に幅広い環境を備えている。しかし、そのほぼ三分の一の面積は岩石砂漠などの乾燥地帯に占められており、メタぺ湿密林以南、大陸南西の一区画丸ごとが砂原や砂漠地帯だと考えられていた。
 それでも生き物はたくましい。生存に不可欠な水に乏しい極限環境でさえ、ガレオスをはじめとした多種多様の生命が乾燥に耐えうる能力を獲得し、暮らし抜いている。餌となる資源が少ないぶん、モンスターの気性は凶暴だ。だから彼らの生息地のただなかに街を興したというのなら、創始者である人間たちにもまた過酷な自然に屈しない強固な精神が宿っていたのだろう。
 ジャフ・ナ・ダハ、通称ジャッダハは乾燥地帯西よりに位置するオアシス都市だ。
 底の見えないほど深い泉を中心とし、取り巻くように乾燥レンガの建築が居並んでいる。高い外壁で囲まれた環状都市にまで発展したのは、この二十年のことだ。それは砂漠から希少資源を持ち帰るハンターと、彼らを統括するため整備されたハンターズギルドの功績にほかならない。街は現在、砂漠と世界各地をつなぐ交易の出発点として栄えていた。
 その片隅にある一件の安宿。薄暗く埃っぽい部屋の中で。
 建てつけの悪い窓の隙間からどやしつけるような人声が漏れ聞こえてきて、ヒューは泥のような眠りからようやく意識を浮上させた。
「……んあ? ここ、どこだ……」
 たっぷり十五秒ほど寝呆ける。
 ムフーという変な吐息にベッドから見降ろすと、どこから入ったのか、つぶらな瞳のブタと目があった。腹ばったまま腕だけ伸ばし、背中を撫でてやる。満足げに鼻を鳴らすブタを見ながら、ヒューは寝癖の銀髪をばりばり掻いてあくびをした。
 ――あー、ジャフ・ナ・ダハに着いたんだっけ……。よく寝たなぁ。
 なにしろモンスター襲撃の危険もなく、揺れない寝床は久々だった。起き上がってグッと伸びをする。
 裸足のまま歩き、勢いよく窓を開けるとすでに陽は中天だ。強く部屋に差しこむ光を浴びて眠気が吹き飛ぶ。身を乗り出せば下の街路に人通りは多く、露店の客寄せがにぎやかである。どうやらあの声で目が覚めたらしい。
「うっし。疲れも取れたし、さっそく今日から動くとすっか!」
 安宿らしくシャワーはぬるかったが気にしない。荷物からシャツを引っ張りだしてさっぱりと着換え、ヒューはしばらくぶりの人の街へ威勢よく飛び出した。
 ドスガレオスの解体を終え、ジャッダハに到着したのが昨日の夕暮れだ。
 勝手のわからない街なのでルイにくっついてギルド集会所に行き、剥ぎ取ったガレオス素材をすべて換金した。そのままルイを誘い、酒場で夕飯をとるつもりでいたヒューだったが、銃槍師は自分の狩猟報告を済ませるやいなや「じゃあ」と言って、酒も飲まずにさっさと雑踏に消えてしまった。せっかく信頼できそうなハンターと知り合えたと思ったのに、ヒューは残念だった。
 ――でも、あれだけのガンサーなんだ。集会所で聞けば誰だって知ってるだろ。
 露店で買った名も知らぬ酸っぱい果実をかじりながら、ヒューは大通りを南へ歩く。街壁には東西南北に大門があり、ハンター集会所の位置は南門に近い。ジャッダハの南方にはセクメーア砂漠が広がっていて、いわば南門は狩猟に出かけ帰ってくるハンターたちの通用門なのだった。
 街路の両側には、商店が軒をひしめかせている。道に面してぴかぴかの果実や野菜を並べる露台があれば、入口をふさぐ勢いで鮮やかな布を吊るす店もある。あやしげなビンや干物を積みあげる薄暗い店内から、ジーと通りをにらむ薬屋がおり、隣では恰幅のいい女主人が竜肉を切り売り中だ。女たちが騒いでいるのは、鉱石の細工物の店らしい。膨大な品物と色とりどりの日除けをまとう人波は、乾燥レンガの白っぽい建築に浮き立ち、ヒューの目を楽しませた。
 たどりついた集会所も、街の規模同様に重厚な五階層の建築だった。
 一階の半分は石柱が並ぶ間仕切りのない広場で、ギルドカウンターと酒場がにぎわっている。ちょうど狩猟から帰ってきた狩人たちに続いて入っていくと、横からきたウェイトレスと衝突しかけてヒューは足を止めた。
「ハーイ、ごめんなさいねお客さん。ここはハンター集会所よ。一般のひとがまぎれこむと、気の荒い狩人たちに食べられちゃうわよ!」
 からかい含みのウィンクひとつ。面白くない顔でヒューは抗議した。
「俺もハンターだぜ」
「あらっ、それはごめんなさい。とってもおしゃれなサングラスね」
「サングラス? 確かに装備はないけど、体つきでわかんねーか?」
 見よ、この上腕二等筋!とばかりにヒューが力こぶを作ってみせると、去りかけていたエスニックな美女は目を見開いて振り返る。ほがらかにけらけら笑うと、よく焼けた健康的な肌に白い歯がきれいだった。
「あなた自分が今どんな格好してるか、わかってる? 三百六十度どこから見ても、完全無欠におのぼりさんだわよ」
「へ? ……うっ」 言われてヒューは絶句した。
 興味のおもむくまま、あちらへ首を突っ込みこちらへ袖を引っ張られては、わけのわからない品物を押し売られたおぼえはある。しかしながらこの紫と黄色のしましまマント、魔よけの首飾りはどうだ。謎の大道芸人か。右手にはサボテンの鉢植え、左手にはヘビの黒焼き……。
「おおっ、なんだこのグラサン。いつから頭に乗ってやがった!?」
「ぎゃっはっは、こりゃまた有望な新顔が来たぞ! 俺はサーカスは大好きだ!」
「ジャッダハへようこそ、兄弟! 得物は太鼓か? いや、ラッパだな?」
 騒ぎを眺めていた酒場中のハンターが爆笑する始末である。
 やけくそ気味にヒューはヘビにかぶりつき、首飾りとマントを脱ぎ捨てると、カウンターに大またに歩み寄った。ドン! 鉢植えを乗せる。
「あらま。くれるの、新人さん?」
「新人じゃねえっつの! 俺、ポッケ村登録のハンターなんだけど、しばらく砂漠で狩る許可が欲しいんだ。ジャッダハのハンター登録、昼間ならやってるんだろ?」
「オーケー、登録申請ね。ギルドカードは持ってるかしら」
「あるけど、手続きってウェイトレスでもできんの? 受付かギルドマスターは?」
「おいおい、新米」
 わけ知り顔で声をかけてきたのは、ヒューの一歩先に集会所へ入った大剣使いだ。砂にまみれた鋼鉄の兜を脱ぐと、見事に剃りあげた頭が威圧的にギラリとテカった。
「仮にもハンターになろうってやつが、そんな眼力で大丈夫か? お前さんの目の前にいるのがジャッダハギルドの看板受付、イヴリンさ。ウェイトレスなんてトンでもねェぜ」
「おほほほ、マディフ。あなた今、故意に看板むすめって言葉を避けませんでしたかしら?」
「そ、そいつぁ聞き間違いさぁ! な、そうだろ新米。今、看板娘って言ったよなっ」
「だから俺は新米じゃねえって」
 田舎出身者や新人が都市でからかわれるのはよくあるが、それにしたってヒューはもう初心者ではない。
 やっぱり防具を着てくりゃよかったか……などと若干トホホな気分になりつつ、ともかくヒューはハンターの身分証であるギルドカードを取り出すと、ウェイトレス――と思っていた受付嬢イヴリンに手渡した。
 カードは先日、雪山に棲むギアノスという白い竜の皮から、ワンランク上の青いマカライト鉱石製に変わったばかりだ。それを横からひょいと覗きこむ大剣使い。まだ混ぜ返すつもりらしい。
「ほー、本当に新人じゃあなかったか。お前さん、どこから来たよ? ポッケ村なんて聞いたことねぇがなぁ。まっ、すごいド田舎なんだろうが」
「ポッケはフラヒヤ山脈にある村さ。田舎だけどいい村だぜ」
「フラヒヤぁ!? またえらく遠くから来たもんだな……、なんだってドンドルマまで越えちまったのよ? 寒すぎる所に嫌気がさして、暑すぎる所へ来たわけかい」
「お前な、勝手に話作るんじゃねえっ。こっちにも事情があるんだっての」
「ほほー、どんな事情だ。わかった、女がらみだな!? ちょっと人生の先輩に打ち明けてみろ、力になるぞぉ。なにしろ俺はこの街じゃ知られた色男で」
「だああ、聞けよ人の話っ。俺は砂漠に竜を探しに来てんだよ!」
「竜ゥ?」
 うんざりしたヒューが唾をとばして言うと、やっとマディフが口をつぐんだ。
 が、結局ヒューが何か言いだすより早く男はぐわははっと豪快に笑い、遠慮会釈もない力でヒューの背中をばしばし叩いた。
「そりゃお前、ハンターってなァみんな竜を追っかけてる馬鹿野郎どもさ。お前さんもあれだろ、モノブロスだな? 焦るな焦れるな、今は小さくたっていつか狩れるようになる! 男の夢と女の胸はでかいほうがいい」
「てめぇの好みなんか聞いてねーぞ、マディフ! そのへんにしておいてやれ、新米がびびってるじゃねえか、可哀想に」
「誰がびびってるってんだ!」
 笑いに収まる気配はなし。酔っ払った連中からもヤジがとんできた。
 ハンターなんてところ変われど馬鹿で陽気な人種なのは違いないが、砂漠の狩人の明るさは底抜けらしい。それにしても、何やら面倒なハンターに絡まれたようである。典型的な大剣使いの大男に肩まで組まれ、いい加減にしやがれとヒューが手を払いかけたときだった。羽根ペンを走らせていたイヴリンが、小さく驚きの声をあげた。
「んまあ、すごい。二十歳前で、もう上位ランクじゃない」
 瞬間、背後の爆笑がピタリと止んだ。

 * * *

「いやあ、悪い悪い。まさか上位とは思わなくてよ」
 輝く禿頭をぺしぺし叩きながら笑うマディフへ、草食竜テールの焙り焼きにがぶりと食いつきながらヒューはふがふが応じた。
「別にいいって。上位にあがったの、このあいだだし。それも兄貴と一緒に狩ってるから早ェんだしな」
「それよ! 《天弓》パーシヴァルの話を聞きてえ、くわしく!」
「俺がメシ食ってから!」
 周り中のハンターがぐぐっと身を乗り出すのを背で押し返し、ヒューはマッシュポテトをめいっぱい口に詰めこんだ。集会所酒場の一席である。
 カード発行まで昼食をとろうとテーブルにつくと、あっという間に暇な狩人たちに囲まれた。次兄セインの強弓ぶりが、この街にまで伝わっていたせいだ。マディフは旧知の友のごとく隣でホピ酒を食らっているし、ヒューが焼きたてのパンをスープにひたして食うあいだ、周囲は真っ昼間から宴会モードへ移行している。
 とはいえハンターなべて祭好き。例に漏れないヒューも、一人きりの食事より断然歓迎するところではある。
「なぁ、マディフ」
 パンをもぐもぐやって冷たい水で流しこみ、ヒューはやっとひと心地ついた。さすが、セクメーア随一の集会所とあって料理の味は上々だ。アプケロスという草食竜の肉も食べたのは初めてだったが、脂が乗っていてうまかった。
「カードの手続きって、けっこう時間かかるんだな」
「おお。ギルドたって名前は同じでも、街が違えばぜんぜん別の組織だからなー。書類のつき合わせとか、いろいろあるんだろうよ」
「イヴリンが、ミナガルデのハンターなら早く済むとか言ってた」
「そりゃ、セクメーアにゃあミナガルデの連中がよく下ってくるからさぁ。ドンドルマハンターは、たいてい東のレクサーラで止まるだろ。珍しいんだよ」
 集会所の壁には、立派な世界地図が飾られている。
 ミナガルデは大陸西部に名高いハンターの街。ジャッダハ北西に位置し、なるほど海路陸路ともにドンドルマより便利そうだ。感心してヒューが地図を眺めていると、マディフが皿から熱帯イチゴをかっさらっていった。
「ぬあっ、俺それ楽しみにしてたのに!」
「わはは、上位のくせにやっぱりガキだな。心配しなさんな、イチゴなんぞ砂漠に行けばその辺にいくらでも生えてる」
「あーら、さっそくマディフにやられてるね。そいつは卵泥棒だから気をつけな」
「卵泥棒?」
 向かいの席から、にやにや笑ってレザー装備の女狩人が口を挟んできた。聞き返すと、また別のハンターが茶々を入れた。
「安全で高収入な卵採集専門ハンター。こんな図体で、ケツの穴の小せえ野郎だよ。ただのチキンってな噂もあるなぁ」
「やかましい、てめぇらに五人の子持ちの辛さがわかるか! それに卵運びをなめるんじゃねえ。あの仕事にはな、砂漠の地底湖より奥深ぁいもんがあるんだよ」
「五人! そんなに子供いたのかよ、おっさん」
「しゃかりきに働かなきゃならんわけさ。そのぶん竜の通り道なんかに詳しいんで、俺らも重宝してるんだが。狩場を知りたいならこのハゲだぜ、ヒュー」
「ふーん。だったらマディフ、砂漠の飛竜にも詳しかったりすんの?」
「おお、ひねもす酒呑んでるこいつらよりゃよっぽどな。何でも聞けい」
 胸を叩いて、大剣使いは見得を切った。
 はじめに絡まれたときは堂々たる体躯と禿頭に気圧されたが、話してみると案外世話好きな中年男らしい。助かる、という顔でヒューは気軽に尋ねた。
「んじゃさ、頭に傷のあるティガレックスを知らねーかな?」
「――そりゃ、《十字傷》のことか? 額に十字の傷痕がある……」
「そいつだ! よし、やっぱりセクメーアにいるんだな。はるばる砂漠まで来た甲斐があったぜ。……なんだ?」
 ふと、ヒューは周囲を見回した。
 一瞬、酒場が静まりかえったようだった。騒いでいた連中が急に黙りこんでいる。騒ぎに無関心だった隅の客までが声を落とし、聞き耳を立てている気配があった。調子のよかったマディフまで緩んだ表情を引っ込めたので、怪訝に思いながら、つられてヒューも声をひそめた。
「なんだよ。俺、何か変なこと言ったか?」
「変というか、な……。そういやお前さん、砂漠へ竜を狩りに来たと言ったな。それは《十字傷》のことだったのか?」
「あだ名は知らないけど、額に十字なら多分そいつだ」
「悪いことは言わねえよ。やめておきな」
「やめろって、なんで」
 ヒューが首をひねると、マディフは小さく手招きする。何か憚るかのように周囲をうかがってから、真剣な顔で青年の目を覗きこんだ。
「どこで噂を聞きこんできたのかは知らんがよ、ヒュー。よく聞け。セクメーアには、触っちゃいけねえ飛竜が何頭かいる。《十字傷》は、その一頭だ」

 * * *

 砂漠の集落を巡り歩く隊商が襲われた。
 その竜の存在をギルドが初めて認識した、五年前の事故である。
 ギルド所属のハンターも増えたとはいえ、モンスターの脅威はいまだ大きい。資源に乏しい砂漠では村や家畜への襲撃も珍しくなく、時として人と竜のあいだには壮絶な争闘が生じた。しかし、その一件は現場の凄惨さにおいて、他よりも数段際立つものがあったという。
 喰い散らかす、という表現が一番だったと見た者は言った。
 人と荷の残骸は、まるで奇妙な置物のように、黒く乾いた血の海に転がっていた。一撃で噛み千切られた胴の傷痕は、それが巨大で強力なあごを持つ肉食竜のしわざであることを物語った。砂漠に生息する危険動物は数多い。だが獲物のはらわたを狙い、腕や脚を散らして去る汚い食事をする生物など歴史の浅いジャッダハギルドには報告例がなく、襲撃者の正体はしばらく不明のままだった。
 同じ年、今度は砂漠探査に赴いたハンター四人が似た状況で発見された。ジャッダハの街は震えあがった。ギルドは力を入れて調査に取り組んだが、どうしてか襲撃者の気配はその後ぱったり途絶え、砂漠はいっとき不気味な静寂に沈んだのだ。
「あのときのことは、よく覚えてるぜ」
 言葉を切り、マディフは額にしわを刻んで手を組んだ。
 聞いていたハンターたちも暗い目でうつむいている。ヒューが黙って続きを待っていると、マディフはひと口酒を含み、憂鬱げに口を開いた。
「三度目は、次の年の繁殖期の末だ。十六人やられた」
 ――十六人。
 音にせずヒューは呟く。
 青年の双眸にそのとき一瞬の精悍な光がよぎったが、マディフは気づかずに数年前を回想していた。しかし三度目の襲撃で、ついに竜の正体が知れたのだ。
「轟竜、ティガレックス」
 それは原始の飛竜の姿かたちと凶暴な気質を受け継ぐもの。
 決まった縄張りを持たず、動くものにはなんでも喰らいつく。危険さゆえに詳細な調査もままならない、生態の多くを謎に包まれた飛竜の名だ。
「誰も狩りに行かなかったのか?」
「そんなわけないだろう」
 ヒューが問うと一人のハンターがむっつり答え、マディフが顔をしかめて笑った。
「ジャッダハギルドにもメンツがある。やつが現れるたび、何人もの腕利きが狩猟に挑んださ。轟竜討伐経験のあるハンターも来たが、結局帰ってきたのは怪我人と死体よ」
「でも、ドンドルマやミナガルデにも依頼は出したんだろ?」
「何度かな。しかし《十字傷》は定住しねえ。出たと思ってもすぐ消えやがる。依頼もやりにくくてよ。およその時期だけは決まってて、砂漠の奥まで入らなきゃ被害は抑えられるってんで、今は俺たちも無理に狩ろうとはしてねえんだ」
「……あいつは悪魔だ」
 ふいに呪うように絞られた声があって、ヒューは視線を上げた。
「特別でかくて、狂ったように暴れるんだ。誰も手出しできるか。やつは化け物だ」
 ギルド職員だろうか。
 服装はそうだが、男には左肘から先がない。《十字傷》に挑み、かろうじて生還したハンターか。見当をつけていると案の定マディフが囁いてきた。
「あいつは仲間を二人殺されてる」
 馴染みなのだろう、大剣使いは彼の陰惨な表情から顔をそむける。しかしヒューはそうかと頷くと、男にまっすぐ視線を向けていた。
「化け物なんかじゃねェさ。確かにやばいやつだけど、竜だ」
「お……、おいおい、ヒュー」 こいつは話を聞いていたのか?
 ぎょっとしてマディフが首を伸ばす。鼻白んだのはジャッダハのハンターたちだった。
「ハッ、これは驚いた。自分なら狩れるとでも言うわけかい。大した自信家だぜ」
「お前は上位ランクらしいがな、やつにはうちの上位だって何人もやられてるんだ。よそ者が知ったようなことを抜かすんじゃねえ」
「じゃあ、この街には《十字傷》を狩ろうってハンターはもういないのか?」
「…………」
「そうか。なら、やっぱ自分で狩るしかないみたいだな」
「――おい」
 がたりと椅子を蹴倒し、剣士が一人立ちあがった。マディフが押しとどめるかたちで両手をあげたが、冷えた怒気をはらんだ空気はすでに重い。
「俺たちを腰抜けだと思ってるのか」
「なんで? んなこと思わねえよ」
「だったらどうしてそこまで《十字傷》にこだわる。この街のハンターを嗤いに来たのか、てめえは!」
「違うって、そんなことしにわざわざフラヒヤから砂漠に来るか。俺は村を守るために、あいつを狩らなきゃならねーんだ」
「村?」
「ああ。俺が専属やってるポッケってとこ。少し前から山をあいつがうろつくようになってさ。村が見つかる前に手を打たねェと、そろそろ危ない気がしてるんだ」
「…………」 フラヒヤ山脈に《十字傷》?
 思いもよらぬ理由に、居合わせたもの全員が唖然としてヒューを見た。
 砂漠と雪山では距離がある。それ以前に、同種の竜が生息するには環境が違いすぎるのだ。わかっていたので、何をバカなと言われる前にヒューは加えて言った。
「頭に十字の傷痕がある最大サイズのティガレックスなんて、そうはいないだろ。雪山に出る時期と砂漠に出る時期もだいたい合ってるし、絶対《十字傷》だ」
「それでお前、追いかけてきたってか。なんでそっちで狩らねえんだい?」
「雪崩の多い季節なんだ。轟竜相手には足場が悪すぎる」
「それならあなたには残念なお知らせだわ、ヒュー。他のギルドから来たハンターは、登録後すぐは採集クエストしか受けられないから、注意してね」
「イヴリン」
 人垣をほがらかに割って入ってきたのは、ジャッダハギルドの女神だった。
 ようやく手続きが終わったらしい。ギルド紋章を追加刻印したカードを、きれいな挙措でヒューの手前に置く。マディフに素早くウィンクを寄こしたのは、声をかけるタイミングを計っていたようだった。それにしても、
「採集クエストだけって、なんで?」
 驚いてヒューが聞くと、彼女は腰に両手を当てる。にこやかに残酷な説明をした。
「ジャッダハギルドの決まりがあるの。他のギルドから来たひとは、上下の階級位は維持されるけど細かいランクは白紙に戻るわ。あなたの場合で言うと、上位の初級依頼からやり直しね」
「んじゃ、もし今《十字傷》討伐依頼がきても俺は受けられねーってこと!?」
「ええ、そう。私たちも、砂漠を知らない狩人にいきなり竜狩猟を任せることは避けたいのね。ハンターだけじゃなく、依頼人にとってもリスクが大きいから」
「だ、だけどさぁ」
「駄目よ、ヒュー。飛竜討伐がしたいなら地道に依頼をこなして、ギルドの信頼を勝ち取ってちょうだい。実力で訴えていくのがこの街の掟」
「うぐ、マジか……」
 唸ってはみたものの、左右もわからず砂漠に入ってもくたばるだけなのは確かだ。それにまだ砂漠に《十字傷》は現れていない。
「うーん、仕方ねーか」 ヒューが折れると、
「物わかりがよろしくて、たいへんけっこう」 女神は満足げに微笑んだ。
 イヴリンの登場と怒涛の解説に、いつのまか場の緊張は和らいでいたようである。声を掛けてきたのは、先ほどヒューに食ってかかった狩猟笛使いだった。
「なぁ、おい。やっぱり狩るつもりなのか?」
「狩るよ。放っとけば、次は俺の村が襲われるかもしれないからな」
「一人でもやるって言うのか」
「や……、いや! 悔しいけど《十字傷》はまだ俺一人じゃ手に余る、よなぁ……」
 勢いで「やる」と滑らせかけ、ヒューは慌てて口を閉じた。気負いすぎて突っ走り気味になるのは相変わらずだが、相手との力量を冷静に比較できる程度にはヒューも経験を積んでいる。村を出る前、村長とザクセンに散々注意されたことでもあった。
 ――だからここでパーティー組んでくれる仲間を探そうと思ってたんだけど……。
 話の流れからして、色よい返事を持つハンターを見つけるのは難しそうだ。しかし単独狩猟も覚悟するかと考えたとき、ヒューの脳裏に閃いた顔があった。
「そうだ、ルイってやつ知らねえ?」
「ルイ? 誰だ?」
「あれ、ここのハンターだって言ってたけどな。なんかちょっと根暗なやつで……」
「ルイ・ガルファイド?」
 イヴリンの言葉に、ヒューは「そうそう!」顔を輝かせる。
「すげー度胸のあるガンランサー。あいつはどうかな。どこにいるか知らねえ?」
「まさかお前、《狼吼ろうこう》を仲間にするって言うのか? やつなら昼前にラマラダ市場のほうに行くのを見たが……、西門の外だよ」
「そっか、サンキュー。俺ちょっと行ってみるわ!」
「ま、待てよおい、お前!」
 思い立ったが吉日!を、地で行くヒューである。さっそく集会所から飛びだすところを狩猟笛使いに呼び止められ、ぎりぎりで踏みとどまった。
「あのなぁ、ええと。さっきは妙な絡み方して悪かったな」
「いいって。俺のほうが突然この街に乗り込んできてんだ。気にすんな」
「うぉい、ヒュー!」
「ぬぁんだよ、今度はマディフかよっ」
「や、ガルファイドな、野郎はたぶん誰とも組まないと思うぞ? 砂漠に出たくなったら俺に声かけろ、体が空いてりゃ付き合ってやる。ただし採集クエ一択だ!」
「おう、ありがとな! この街のハンターはみんな良いやつだ!」
 大きく手を振って言い残すと、呆気にとられるハンターたちを残し、ヒューは再びジャッダハの街の中へと駆け出していった。



(「4章 《狼吼》ガルファイド」 に続く)

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