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モンスターハンター!3  序章

『モンスターハンター!』シリーズ3作目、『熱砂の銃槍師』です。

主人公はこれまで同様、突撃双剣野郎ヒュー・パーシヴァル。
タイトルからわかるとおりに今回の準主役はガンランサー。舞台は砂漠。
初心者だったヒューもランクが上がり、相手になるモンスターも強く、ごつく。
灼熱の大地の冒険と仲間と狩猟と再生を、相変わらず泥臭いクエストクリアでお送りします。

以下の投稿サイトさんにも掲載させていただいてます。読み易いほうでどうぞ。
(↓ルビ機能が無いため、若干表現が修正してあります)

http://mhn.s504.xrea.com/mts.cgi?mode=profile&id=ginzeni


《あらすじ》
自身が専属ハンターを務める雪山の里・ポッケ村を脅かす飛竜を討伐すべく、
双剣士ヒューは大陸南西部に広がるセクメーア砂漠へと単身赴く。
旅の途中遭遇した砂竜狩猟で凄腕のガンランス使い・ルイと知り合ったヒューは、
ぜひパーティーを組み、飛竜討伐を手伝ってもらおうと考えるのだが、
男は筋金入りの単独狩猟者ソロハンターだった――。
『銀嶺の双剣士』『荒天の弓使い』に続くシリーズ三話目です。


モンスターハンター! 熱砂の銃槍師


 1章 予感

 扉を開けた途端、真上から音立てて雪の塊が落ちてきた。
「おっ」と短く声をあげ、今しも家から出るところだった男は身軽にそれを避ける。
 ぱらぱらと追いかけるように降りそそぐ細かな雪。気にせずに頭上を仰ぐと、空には雪雲が小さな塊に分かれて低く流れ、あいだからは白っぽく凍りついた遠い青色が見えた。
「おっと、すまないザクセンさん! 大丈夫だったかい?」
 軽い笑い声と共に、隣人の声が降ってきた。屋根を見上げた壮年の男――オットー・ザクセンは、初冬の鋭い陽光に手をかざし、そこに立つ人物に笑顔を向けた。
「ああ、幸い失神は免れたようだ。雪下ろし、ありがたい」
「なぁに、村の大事なハンターさんの家が潰れちゃ困るのは俺たちだからね! こんなことは自分ちのついでさ。これから狩りに行くのかい?」
「採掘だよ。この間、狩場の奥でひと抱えもある氷結晶を見つけたんだ。洞窟が雪で閉ざされる前に採ってくるつもりだったのさ。あの大きさは村の子供たちが驚くぞ」
「ひと抱え! そいつは子供でなくても村中が喜ぶよ。気をつけて!」
「ありがとう」
 手を振り、ザクセンは自宅前の階段を登って立ち止まる。そこは彼が専属ハンターを勤める雪山の里、ポッケ村全体を見渡せる高台だ。
 昨日は、この冬初めてのドカ雪だった。しかし今日はまずまずの好い天気となり、あちこちの屋根で働き者の男たちが朝から雪下ろしにひと汗かいている。
 集めた雪は、村の中央を流れる温泉川に投げこんでしまえばいい。傷病によく効くと評判の温泉だけでなく、この村には地熱という素敵な自然の贈り物がある。大陸の北の果て、フラヒヤ山脈という厳寒の地にありながら、寒冷期にも人々が生活を営めるのは、降った雪が積もることなく大地と川に融かされてしまうからだ。
 ――良い村だ。
 もう幾度となく感じたことをザクセンは改めて思い、村の中に降りていく。
 本格的に冬が深まる前。夏に比べれば寂しくなったが、村内にはまだ人通りがある。湯治客、行商人、遊牧や交易の寄り道、近在の村人――そしてハンターたち。
 人々の営みは小さく、その智慧はいまだ世界の多くを照らさない。
 むしろ自然に愛されたのは終わりなき原野を駆け抜け、森と洞窟の闇に息を殺し、大河や砂の海を泳ぎ、広大な空を悠然と舞うもの――人より遥かに強大な牙持つ獣と翼ある竜。荒ぶる自然の主たちから身を守り、また逆に利用しながら生きるため、人々が頼ったのがモンスターハンターと呼ばれる者たちだった。
 倒した竜の爪牙をまとい、野生の声に耳をそばだてる。地図の空白を乗り越えて、どんな危険があるともしれない戦いの大地へ赴いていく、命知らずの狩人である。
「まぁ、私も死なずによくもっているほうかな……」
 なんとなく呟いてみたザクセンも、その一人としてポッケ村を見守り続け、そろそろ二十年近くになるだろうか。多少の波風はあれど大きな災害は起こらず、村は平和とわずかながらの発展を維持してきた。
 ロッジ風の家々は雪が落ちやすい急傾斜の屋根を持ち、山腹の狭い平地に肩を寄せて並んでいる。農業用のポポが畑に引かれてゆく脇で、鍛冶屋では職人とハンターが大声で何かを交渉中だ。飯屋ではドジなアイルーがかまどの火を爆発させ、自分自身をウルトラこんがり料理した。
 のどかな真ん中通りを慣れた足取りで抜け、ザクセンは村の象徴――青く美しいマカライトの巨岩――の前までやってくる。焚き火に当たり船をこいでいた小さな老女こそ、村の長であるオババ様だった。
「おはようございます、村長」
「よいよ~い、ほりゃオットー。おはようさん」
 木の実のような目をしばたき、裏返った声で独特の挨拶を寄こす。
 オババ様は齢三百と噂され、ザクセンの腰ほどに背も縮まっている。しかしながら、人間族より遥かに古くから自然と調和して生きてきた少数民族、竜人族である老女は、驚くほどの知識と透徹した眼、深い懐を備えている人物だ。
「おやおや、山へ出るのかい? マフモフの防寒服とは、軽装のようだね」
「採掘だけのつもりなんですよ。昨日の雪で、最後のギアノスの群れも麓の森まで降りたでしょう。今日は村長でも、なかなかお目にかかったことのないような物を採ってくる予定ですよ。この怪岩には負けますがね」
「ひょひょひょ、それは楽しみだの。気をつけて行っておいで」
 村の出口を過ぎる前に、後ろから「ほーい!」声がかかった。
 ふりむくと、村の集会所の前で弓使いの少女がザクセンに手を振っている。隣には勇壮な突撃槍を背負った青年が。近隣の集落生まれで、この村にあるハンター訓練所の門をくぐり狩人になった齢若い同業者たち。
「ザクセンさん、ポッケの狩場? 何か狩るの?」
「いいや、採集に行くだけだよ」
「良かった! 雪山草が欲しいの。私たち二人も後から行って大丈夫?」
「もちろん、問題ないとも――ポポの群れを怒らせさえしなければな。とばっちりを食って、私まで追い回されるのは一度きりで充分だぞ」
 笑い声に手を振り、ザクセンは下る坂道を歩きだす。
 枝先に雪を乗せた針葉樹林のむこうには、鈍く光を反射する谷川と、見事な三角錐の頂きを挑むように天に突きだすフラヒヤの峻峰。村の狩場を有する山は山脈の一部でありながら他より鋭く突出し、ひときわ威容を放つようだ。山は雪雲を集めつつあったが、時折り覗く青空に白い稜線がくっきりと浮かびあがっていた。
 ――この風景だけは、永遠に見慣れることなく美しい。
「白銀に輝く、我らが孤独な霊峰よ……」
 ふと立ち止まり、ザクセンは歌うように低い祈りを口にした。
「今日も良き狩りを私に」
 いつのころからか習慣になった山への呼びかけは、しかしこの日、聞き届けられることはない。

 * * *

 どんどんと扉をノックする音に、ザクセンはうつむいていた顔をあげた。
「ザクセンさん、ヒューがそろそろ発つそうだよ!」
「ああ、わかった。今行く」
 そうか、もう準備が整ったか、と男は椅子から立ちあがりかけ、急にバランスを崩してテーブルに寄りかかった。思わず漏れるのは、溜め息。
 ――あれから、もう二年半になるか。
 見つめる先には、己を上手く支えられない歪んだ右足がある。
 束の間、過去に沈んでから思いを断ち切るように首を振り、ザクセンは足を引きずって玄関へと向かった。扉を開くと、微かな朝の光が薄暗い屋内に差し込んでくる。
「旅立ちには良い日和か……」
 村の入り口にはすでに人だかりがあるようだ。
 出発の最初から、悪い影を差すようなことはしたくない。厳しく固まっていた表情を穏やかな色へ取り替えて、ザクセンも見送りの場へと赴いた。


 日の出の気配に、フラヒヤの空は徐々に息を吹き返しつつある。
 一方で西の山の端には、消えかかる星の光が一つ二つ。早起きの小鳥たちはもっと前からさえずりはじめ、ポッケ村は今日も穏やかな晴天の兆しを見せていた。
 木々の若葉もようやく青み、風がどこからか運んでくる、よい花の香り。
 世界の屋根とも称されるフラヒヤ山脈に抱かれて、村は春の終わりの朝を迎えていた。そこに今、まさに旅立ちを迎えようとする一人のハンターの姿があった。
 簡素な木製アーチが飾る村の入り口。見送る人々の輪の中心に、なぜか座りこんでいる青年がいる。なめした赤い竜革の防具を身に着け、背には二本の紅蓮の剣。
 ゴミ漁りよろしく旅の革袋をゴソゴソ引っ繰り返している若者こそ、現ポッケ村専属ハンター、ヒュー・パーシヴァルである。とある狩りで足を故障し、村付きハンターを引退したオットー・ザクセンに交替した双剣士だ。
 後ろでひっつめた銀の髪。鮮やかなブルーアイズをいつも能天気に輝かせている彼なのだが、今はどういうわけかうんざりしたような半眼だった。
 さて、その理由はというと。
「なぁオモチ、いい加減にしてくれよ。荷物なら昨日さんざん確認しただろ?」
「駄目ニャ! まだ何か忘れてるかもしれないニャ。剣士の魂・砥石だって忘れたりする旦那さんのことニャ、最後まで油断なんかできないニャ!」
 キッと金の瞳を怒らせて反論するネコ族獣人、名はオモチ。
 旦那のそそっかしさを埋め合わせるように、どこまでも気のつく小姑気質には定評がある。
 まさしくヒューは出発する間際となって、狩りの相棒でもありオトモでもあるオモチから、しつこく荷物チェックを受けている最中なのであった。
「いや、でもあれは、あのとき一回だけだったしよ」
「その次は肉だニャ! 行き倒れ寸前になったのを忘れたとは言わせないニャ!」
「うっ。だけどそれだって、結局なんとかなったわけで……」
「まだあるニャ! 挙句の果てにはホットドリンクとクーラードリンクを取り違えたり、光蟲と雷光虫を間違えたり、雨の日に爆弾かついで行ったり……!」
「わ、わかったわかった、もう止めろって! きちんと確認すりゃいいんだろ!」
「そうニャ。人間素直が一番ニャ」
「くっ……」
 どうやら主張すればするだけ、赤っ恥を叩きだすハメになるらしい。
 くすくす笑う外野に赤面しつつ、黙って従うほかなさそうだと判断して、ヒューはしぶしぶ荷袋に腕を突っ込んだ。
「じゃあまず、ギルドカードは入ってるニャ?」
「あるある」
「お財布は?」
「持った持った」
「クーラードリンクは?」
「かさばるもんは現地調達」
「武器と防具は忘れてないニャ?」
「あのな、よく見ろ。今装備してるだろ」
「ハンカチは? ちり紙は? おやつにハチミツ持ったニャ!?」
「一度聞こうと思ってたんだけどよ! おまえ俺を何だと思ってんだよ!!」
「肉焼きセットは?」
「いけねっ、忘れた!」
 白毛のオモチの鋭いツッコミ。さすが、二年付き合っている間抜けな旦那のオチを読んでいる。
 ヒューは慌てて自宅へ取って返し、再び狩人の必携アイテム・肉焼きセットを抱えて戻ってきた。村人には茶化され子供にはじゃれつかれ、オモチに説教を喰らいながらもいたって楽しげな様子だが、実は青年はこれから重大な使命を帯びて、一人で長期遠征に出かけようとするところなのだ。
「じゃあな、ガス。俺がいないあいだ、オモチと一緒に村は頼んだぜ」
 ようやく落ちついたヒューが、見送りの中にいた同輩の肩を叩いた。
 ヒューの留守中ポッケ村の仕事を請け負う槍使いは、隣村のハンターである。雪焼けした顔に人好きのする笑みを浮かべ、明るい声で冗談を言った。
「なるべく早く帰ってきなよ、ヒュー。あんまりもたもたしてると、戻ってくる頃にはポッケの専属とお前さんのオトモは俺が譲り受けてるかもしれんよ」
「ふふん、残念だな! んなもんオモチが納得するかっての。なぁ、オモチ」
「どうかニャ~。手間のかかる旦那さんより、正直ガスのほうが頼りになるニャ~」
「んなっ、ニャンだと!? この裏切り者ぉ!!」
 ポッケの村付きとして狩人生活を送りはじめ、早二年。
 過酷な雪山で経験を積み、ときには街に降りて狩猟を重ね、ヒューはハンターとしてずいぶんな急成長を遂げてきた――が。
 ことほどさように言動がアホなため、尊敬されているというよりは、頼りにはできるが間の抜けたハンターとしてもっぱら村では親しまれている。
 ガスを皮切りに人々から掛けられた激励も、道を間違えるなとか拾い食いするなとか、ふまじめな内容がやたらと多い。とくに村の年配たちには息子のように思われているらしく、どつかれたり頭を掻きまわされたりでもう無茶苦茶であった。
 とはいえ、さすがに村長の前ではふやけた態度ではいられない。表情を引き締めると、銀髪の双剣士は村の守りを担う狩人の顔つきになっていた。
「さて、ヒュー・パーシヴァル」
 静かになった群衆の中に、オババ様の声が通る。
「言うべきことは、ワシからもオットーからも、昨夜じゅうにぶんに言っておいたからの。まぁ、気をつけて行っておいで」
「…………」
「…………」
「えっ、まさかそれだけ?」
「ふむ。それだけだよ」
 何かもっともらしく、くどくどと訓示でも聞かされると考えていたらしい。鳩が豆鉄砲を喰らった顔をしたヒューに、みんなが笑い声をあげた。
 ザクセンが苦笑して「村長もガスもいる。村のことは心配せず、仕事のことだけを考えろ」と補足する。そして青年の背を叩いて付け加えた。
「この村の誰もが、お前をポッケのハンターだと認めている。わかっていると思うが、とにかく無事に戻ってくるんだぞ」
 オモチと、そして駆け寄ってきた若い夫婦といくらか言葉を交わしてから、
「じゃあ、行ってくる!」
 訓練所教官の暑苦しいハグをかわし、やんちゃ坊主どものキックとパンチをかいくぐる。遥かな高さを取り戻したフラヒヤの空の下、ヒューは大きく手を振ってあっさりと村を出立していった。


「――大したやつです。いつも通り、気楽な顔で出て行きました」
 青く輝く村の象徴、マカライト巨岩の前にて。
 村人たちが解散したあとになって、もう見えない青年の背を探すかのようにザクセンが呟いた。隣では、村長が熾火をかき混ぜながらそれを聞いている。
「まだ三年にもならないのですよ、村長。村に来たばかりの頃はドスファンゴにすら後れをとった。それが瞬く間にイャンクックを倒し、フルフルを倒し」
 先の冬には、群れを率いて雪山に巣くい、近隣集落一帯の物流を止めた凶暴な牙獣、ドドブランゴすら狩ってしまった。
 ――昨日のように思い出す、とは言うが……。
 まさにそのとおりだとザクセンは思っていた。
 村へ赴任した当初は、勢いばかりのヒヨッコハンターだったヒュー。実際、裸で雪山に突っ込もうとするようなトンデモ新人だったのだ。
「天性もあるのだろうが、あいつは努力を惜しまない。――良いハンターなんです、村長。だが今度の相手はケタが違う」
 本当に行かせて良かったのかどうか。
 不安ですと呟くと、村長は相変わらずの裏声でひょひょひょと笑った。
「不安とな、オットーよ。ヌシ、これで昨日から四十八度目だの」
「村長。数えないでいただきたい」
「ワシも不安じゃ」
「…………」
 心配事など、滅多に口にしない村長だ。
 今度の遠征を最初に言いだしたのはヒュー自身。だが最終決定を下したのは村長である。ザクセンはオババ様の顔色を探ろうとしたが、しわ深い老女の表情はいつもどおり穏やかで、特に変わりがあるでもない。
 ただ村長は今年に入ってからというもの、何を考えているのか、村の狩り場のある雪山を独りでじっと眺めていることが多かった。
「一人で挑むなとは、よくよく言い含めてある。それに、なにもあれ自身がやつを仕留めなくてもよいのだ、ともね。それがヒューである必要はない。あの子もそれはわかっておるよ」
「だといいのですが。どうも暴れたそうな眼もしておりましたがね」
「敵わぬと判断したときには、他のハンターに任せること。必ず生きて戻ること。それはヌシからもワシからも告げたではないかね。ヒューも神妙に聞いておったわ」
「…………」
「意地もあろう、誇りもあろう。じゃがあれは心からこの村を愛しておるよ。だから、間違いは犯さぬだろう」
 少しずつ。だが、着実に。
 今、ポッケ村に忍び寄るモンスターの影があった。
 放置しておけば、遠くない将来それは必ずこの村を見つけるだろう。一度相まみえたザクセンにとって、そのときの惨状は想像するに難くない。
 ――結局、この右足のツケをヒューに払わせることになってしまったか。
 青年が意気揚々と発って行った路を見やり、ザクセンは目を細める。
 今や太陽は東の山から顔をのぞかせ、残雪の峰々を燦然と朱金色に染めあげていくところだった。それが不吉な未来の血の色なのか、狩人を鼓舞する自然の餞別なのか、ザクセンにはわからない。
「しかしの、なんとしてもあの竜は狩ってもらわねばならぬ……」
 気がつくと村長も同じような顔をして、静かに佇むフラヒヤの山並みの、どこか遠くを見つめていた。


(「2章 邂逅の荒野」に続く)

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