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モンスターハンター!2 10章

荒天の弓使い 終章です。


 モンスターハンター! 荒天の弓使い


 10章 エピローグ

 荒天は去り――。
 頭に矢を突き通したまま、フルフルの死体はギルドに引き取られていった。竜の腹には密猟者の遺体が入っており、その確認のためということだった。
 数日後、パーティーに返却された狩猟素材はフルフル丸一頭分。普通ならギルドへ納入する分まで報酬とされた裏には、口止め料の意味もあるのではないかとはセインの説だ。特にギルドの連絡は無いので、真偽のほどは定かではない。
 騒動の始末については、ヒューを驚かせたことがもう一つあった。
「ヒュー・パーシヴァル君」
 重症のセインを竜車に乗せたあと、ヒューはギルドナイトに声をかけられた。
 警戒しながら向き合うと、女は黙って帽子のつばを持ち上げた。のぞいた顔は怜悧な美女。グレイの瞳が猫のように輝いている。
 しかしこの光、どこかで見たことがあるような?
 既視感に眉を寄せたとき。妖艶な笑みを浮かべた女が、親指であごをさっと撫でた。
「ああっ、お前!」 思わずヒューは指さした。
 魅惑の唇の下に現れたのは見覚えあるほくろである。そこにいたのは紛れもなく、雨の町の武具工房で出会ったミレイだったのだ。
「密猟者を探していたのだけど、あの時点では情報が少なかったのよ。とりあえず、あなたの肩に刺青があるかどうかだけ確認したかったの」
 鋭いアルトの声色をガラッと変えて、いたずらっぽくナイトは言った。怖がらせてごめんなさいねと笑み、自然な動作でヒューに顔を寄せた。
 頬に軽く触れるくらいのキス。唇は、淡雪のようには冷たくなかった。
「おっやぁヒュー君、鼻の下伸ばしちゃって。どーゆーことですっ?」
 どこで見ていたのか。したり顔ですすすと寄って来たエムに事情を告げると、ミレイを知っている彼女も驚いた。
「ははぁ。じゃあヒュー君、あれは貞操じゃなく正しく命の危機だったと」
「道理で殺気を感じたわけだよ……」
 去っていくギルドナイトは、歩き方までミレイとは別人なのだ。エムとぼそぼそ囁きあいながら見送っていると、クロウに変な顔で見られていた。
 ヒューがミレイに襲われた件に関しては、エムも黙っていてくれている。クロウはともかく、あの兄に知れたが最後、一生笑いの種にされ続ける気がするヒューである。しかしエムは「セインはそこまで鬼じゃありませんよぉ」笑顔で請け負った。
「からかわれるとしても、せいぜい三年くらいでしょう」
 三年。じゅうぶん長い。
 ――セインは、背中全体に渡って深い熱傷を負っていた。
 心拍や呼吸などもたまに不規則になるらしく、一日寝て全快したヒューとは違い、ウィバロウの医療施設に入院することになったのだ……が。
「うつ伏せが辛いとか、背中がかゆいとか、食事が不味いとか。文句しか言わねんだもんな。ったく、どこが重傷患者だよ!」
 ここぞとばかりに弟をパシらせ、著しい回復力を見せた挙句、勝手に起き上がって看護婦と楽しくお喋りなどしていたので、あまり心配されなかった。しまいには酒をヒューに調達させたのがエムにばれ、兄弟二人して正座で怒られていた。
 退屈したセインが医者を押し切って退院し、パーティーを引き連れてフラヒヤ山脈へ向かったのは、沼地の生還からたった六日後のことである。

 * * *

 北国の夏は夜の訪れが遅く、夕暮がずっと長い。
 夏祭りも三日目。白夜のポッケ村は華やかな盛りあがりを見せていた。
 あちこちに立てられた篝火と歌い騒ぐ人々の群れで、むしろ昼間よりも明るいくらいだ。村人も客も、大人も子供も竜人もアイルーも、みんな入り混じって祭りの夜を楽しんでいる。
 赤や黄色、オレンジ、青。緑や紫まで、篝火にとりどりのバリエーションがあるのは、さまざまなモンスター素材から作った燃料による色らしい。村の鍛冶屋が考案したもので、街でも見かけない幻想的な美しさにはクロウも感心した。
「盛大なものだ。最終日には間に合って、良かったのう」
「本当ですよぉ。セインの怪我が落ち着くまで帰らないなんて、泣かせる話じゃないですかぁ。初日が大事でしょうに、ヒュー君てば、来年の楽しみになるからいいんだとか言っちゃうんですよぉ。ああ~セインにも見習ってほしい~」
 クロウの隣に腰掛けて、がばがばとワインを干しながらエムが言った。
 彼女はとっくに出来上がっていて、いつにも増して喋りが冗長だ。だが侮るなかれ、この女はここからが長い。下戸のクロウには知る由もないが、何杯飲んでも顔色の変わらないセインよりも強いらしい。真の底無しはエムであった。
「そうは言うが。元気そうに見えて、あれで完治しておらぬ。最低二週間入院と言うのを五日で出てきたのだ」
「バカですね」
「……エム。眼が据わっておるぞ」
「一月くらい大人しく入院してろって言うんですよ」
 クロウは苦笑する。かく言うエムが一番心配していたのだ。
 兄弟と再会したとき、エムはセインに抱きついて男を青い顔で呻かせた。傷に触ってしまったのだ。ヒューまで慌てたのを思い出し、クロウは一人で笑った。
 向こうの焚き火から、わあっと歓声が上がる。
 響いたのはフィドルとギター。テンポの速い陽気なリールに手拍子が湧き、人々が踊りだす。息の合ったセッションを奏でているのは、実はセインとヒューである。
 ――エムの話によると。
 パーシヴァル家の三男坊は、父親代わりの長兄キースになかなかハンターとして認めてもらえなかったという。父親に似て、ヒューには少し思い切りのよすぎる無謀さがある。キースにしては、二度と、という思いがあったのかもしれない。父親が行方不明になった仕事に長男だけは同行していたのだ。
「とっとと自立させればいいんだ。もうガキじゃあるまいし、あの大馬鹿三太郎には双剣しか特技がないんだから、街に押し込めてたって何の意味もない。飛ばない飛竜はただのトカゲだ!」
 セインが酔ったとき、よく口にしていた愚痴である。
 ――ヒュー殿は飛竜か。
 何だかんだと言いつつ、セインはヒューの兄だった。
「セイン。おぬし、この村の専属狩人の話をもとから弟御に譲るつもりであったな?」
 数曲弾き終え、フィドルを担いで戻ってきたセインは、急に何だ?と眉を上げた。
「寝言だなぁ、クロウ。こんな良い条件、僕が愚弟なんかにタダでやるわけないだろう。君たちとの友情を秤にかけて泣く泣く諦めたのさ。恩に着ろよ」
「ははん、何とでも言ってればいいんです」
「……エム。眼が据わってるよ」
「ギルドはすっかりあなたの話題でもちきりでしたよ」
「いい男だって? わかりきったことを」
 セインの戯言などまるで無視して、意地悪そうにエムは続けた。
「頭蓋を矢で貫かれた飛竜の死体なんて初めて見たって、皆さん驚いてました。なんですか、今まで力を出し惜しみしてたんですか。あんな芸当ができるなら、これからもゼヒお願いしたいです。前線の私たちも格段に楽になりますよ」
「……やろうと思ってやったわけじゃない。あんなデタラメな力技、そうそうできてたまるか」
 所在無げに立ったまま、横を向いてセインはボソリと呟いた。この男の本音は珍しい。据わっていたエムの眼が瞬時に三日月型になった。
「おっほほ、一皮むけましたねぇセイン。これもヒュー君のおかげですか。確かに彼の双剣遣いは、見てるとこちらまで血湧き肉躍ると言いますか……ぐぼばぁ! ちょ、セインやめっ、あんた照れ方まで鬼畜なん、げべ!」
「ん? なんだって聞こえないなぁ。エマニューラ、酒好きだろ? 酒に溺れて死ぬなら本望だよなぁ。特別に今夜は僕のおごりだ。ほぉら、もっと飲んでいいよ」
「げへげへっ、鼻に入ったぁ! 婦女暴行、婦女暴行っ」
 ほとんど顔にぶっかける勢いで、セインはグラスをエムに押し当てる。やってきたヒューはハジケた兄貴に眼を丸くした。
「な、なぁ。何やってんだよ、小兄。……クロウ」
「心配無用。この程度は日常茶飯事だ」
 重々しく頷いたクロウは、変わらぬ鉄面皮で茶などすすっている。
「ふーん、仲良いんだな。パーティーハントってやっぱ楽しいよな」
「この状況を見て、その結論かい?」
 半眼の兄貴に酔っぱらったエム、しみじみ茶をすするクロウ。何やらくだけたパーティーの面々を見渡すと、ヒューは笑って親指で後ろを指し示す。
「これからオババのマカライト岩のところで、祭り締めくくる唄うたうんだってさ。みんな行こうぜ」

「――夏を讃え、夏を送ろう。冬を崇め、冬を迎えよう」
 薪の爆ぜる音だけが響く村に、祭司・村長のしわがれた声が序詞を語る。
「鎮まりまたまえ白き雪神、護りたまえ父祖の霊。生命ある者は皆歌え、海はきらやかに延べ広がる。金の太陽と銀の月、星々の輝きが常に我らの天にありますよう」
 珍しく厳かな気分になって、セインは続く村人たちの合唱を聞いていた。
 篝火は太陽の神の象徴。雪山の夏祭りは光と熱の力を強め、唄を捧げてフラヒヤの霊峰に宿る猛き雪神を鎮めるためのものだという。
 唄が終わると、囲んだ焚き火に鍛冶屋の青年が何かを放り込んだ。どおん、轟音を立てて黄金の火柱が空を突き、人々の拍手喝采が夜闇に弾ける。
「ま、それなりに上手くやってるようじゃないか……」
 ヒューはフラヒヤの民族衣装を着て、村人に囲まれながら無邪気に喜んでいた。片腕にオモチをぶらさげ、反対側にはシシィという村の子をまとわりつかせて。
 祭が終わり、三々五々散っていく村人たち。彼らと肩を叩きあい、談笑しながら家路につく弟を見て、セインはゆったり息を吐いた。

 * * *

「本当によいのか、セイン。挨拶もなしに」
「村長さんにはしただろう。何の問題もないね」
「ヒュー君ですよ。起きたらみんな帰ってたなんて、ちょっとひどくありません?」
「大丈夫さ、あいつは物憶えが悪い。次に会うときは今日のことを忘れてる」
「うむ。またいずれは、ヒュー殿とパーティーを組むことになるか」
「おいおい、なんでそうなるのかな」
 左手に険峻な岩肌、右手には遥かな森と川の眺望。
 旅仕度を整えて門に集い、下界へと続く坂道を臨んでいる。再度念を押した仲間たちへ、リーダーは肩をすくめて振り返った。
「ヒューとの狩りなんか二度とごめんだ。心臓がいくつあっても足りやしない。グラビモスとだってタイマン張りそうなやつだぞ? 勝手にどこにでも行って、勝手にのたれ死ねばいいさ。僕の知ったことじゃないね」
 口の端を持ちあげて流暢に喋るのは、大嘘を吐く顔だ。
 ――いやはや、どこまで素直じゃない男なのだろう。我らがリーダー殿は?
 エムとクロウは顔を見合わせて、互いに処置無しといった風情で首を振る。
「セインがここまで天邪鬼とは思わなかったですよ。結局、例の家宝も持ち帰らないことにしたんでしょ? 最後に一言くらいねぎらってあげればいいのに」
「うん? なんだい、家宝って?」
「ありゃ? 確かあなた、もともとヒュー君の《双焔》を取り戻しに行くっていうことでフラヒヤまで出向いたんじゃ……。ま、まさか」
「なんじゃおぬし。剣の話は、作り話だったのか」
 クロウが鼻にしわを寄せ、エムが脱力した。
 ああ!とポンと手を打って思い出したセインは、はっはっはと無駄に爽やかに笑い反省する様子もない。
「《双焔》の由来は本当さ。あれをヒューが勝手に使おうが壊そうが、気にする人間はうちにはいないけどね」
「セイン。仲間にまで適当な嘘をつくのは止めて欲しいって、言いましたよね?」
「つける薬もない。弟御の様子を見たかったと、そう言えばよいではないか」
「いやぁ、ゴメンゴメン。実はポッケ村の村長さんからお願いがあったのさ。我が村の狩人殿に、冷帯以外に棲むモンスターの狩猟も経験させてやってくれってね」
「報酬は」
 クロウの問いかけに、セインは片眉を上げただけで答えない。
「その様子じゃ無償ですね。兄が弟の心配して何が恥ずかしいってんですよ、もう! あんたの照れ方は事態をむやみにこじれさせるっ」
「でも君らはもう慣れたろ?」
「そらまぁ、付き合い長いですし……」
「だからこれからも是非よろしく頼む」
 殊勝な言葉に、エムとクロウが眼をむいた。ニヤッと笑ってセインは付け足す。
「僕のばらまくトラブルの後始末をね」
「あんたが自分でなんとかしろ!!」
 祭の熱気が過ぎた朝は、少し寂しいくらいに澄みきった空気だ。早くも夏の終わりを感じさせてフラヒヤの空は高く遠く、道に降りそそぐ光は涼しい。
 呆れた仲間たちが先に立って歩きだした。足音は心に力強い。
 ――別れの言葉が必要か?
 セインはかすかに振り返りかけ、微笑して前に向きなおる。
 狩人たちは蒼穹の色を瞳に宿して、それぞれがそれぞれに、新しく一歩を踏み出すだろう。
 しなやかに純粋に、自分の道を進めばいいのだ。精一杯、自分の力で生きればいい。僕もお前も、昂然と顔を上げて走れよ、ヒュー。次会うときは互いに一段高い場所に立っている。
「セイン、置いて行きますよ!」
 呼ぶ声に応えてセインも足を踏み出した。世界は光鮮やかだ。


(おわり)
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