スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

モンスターハンター!2 3章

荒天の弓使い 3章です。


モンスターハンター! 荒天の弓使い


 3章 セインと愉快な仲間たち

 パーシヴァル家には三人の兄弟がいる。
 長男はキース、次男がセイン。そして一番下がヒューである。
「開いてたから勝手にお邪魔してたよ。ここはお前にはもったいないくらいの良い家だね~。この村の専属ハンターの話、やっぱり譲るんじゃなかったかな」
 ぬけぬけと言った兄貴は勝手に上がり込んだだけでなく、勝手にお茶まで淹れて飲んでいた。片手には雑誌。まるで自分の家にいるかのごとき堂に入ったくつろぎっぷりであった。
「なぁんで兄貴がポッケ村にいるんだよ。まさか村付きハンター交代しろって!?」
「嘆かわしいなぁ、今頃それを蒸し返しに来るようなお兄さんだと思ってたのかい。そうじゃなくて、家宝を取り戻しに来たと言ったろう。人の話はよく聞きなさい」
「か、家宝?」
 玄関に突っ立ったまま、ザクセンとオモチがオウム返しに訊き返す。突如出現したヒューの兄とやらのマイペースな言動に誰もついて行けていない。
 そしてセインは飄々と、更に巨大な爆弾を落としてくだすった。なんのこっちゃという弟、その腕に抱えられている物をすいっと指さして言ったのだ。
「ああ、それだ。今お前が持ってる双剣――《双焔そうえん》のことさ」

 ――時は数十年も昔に遡る。
 歩くだけで大地の全てをなぎ倒し、吼えるだけで空を落とすと言われる伝説級の超大型モンスター、老山龍ラオシャンロン。山と見まごう巨大な古龍がドンドルマの街を襲撃したのは、兄弟の父・デューランが二十代の頃のことだ。
 リオレウスなどの肉食飛竜と異なって、老山龍はすすんで人を襲わない。しかしその巨大さが、彼ら以外の生物にはすでにして災害に等しい脅威である。龍には単なる歩みでも、進路となった人の街は立木も残らぬ廃墟と化した。
 当時ドンドルマは街中のハンターを動員し、なんとか砦前での撃退に成功した。その際、龍の鼻面に生えた塔のような角を叩き折り、大ダメージを与えたのが他ならぬデューランだったという。
 そして貴重な古龍の大角から削り出され、鍛え打たれた紅蓮の双刃こそ。
 龍殺しの秘刀、銘を《双焔》。うちの家宝だとセインは言った。
「そりゃ話には聞いてたけど、あれがその剣だったなんてさ。武器庫の隅でホコリまみれになってたんだぜ、気づくかって」
 村のハンター集会所にある酒場にて。
 テーブルに突っ伏しながらぼやくヒューは半分魂が抜けている。
 夕食時の酒場は大変な込みようだ。馬鹿騒ぎをするハンターたちの合間を縫って、こま鼠のように立ち働くウェイトレスやキッチンアイルー。常ならば彼らに負けない元気さで飯にがっつくヒューも、剣の不調、兄貴の襲来、愛剣の危機と続いては、さすがに憂鬱にならざるを得ない。
 しかもあのあと、積もる話もあるだろうと気を利かせたザクセンが帰ってしまい、ヒューは兄に請われるまま村中案内させられたのだ。どこまでも気ままな兄にへとへとになった頃、ポッケ村ツアーはようやく終わり、一休みしてここにいる。
「あーあ。けっこう気に入ってたんだけどな、あの剣。まぁ、持ってかれるのは剣だけで、村付きハンター代われって話じゃなくて良かったのかも知んねーけど」
「オイラも最初はそう思ったニャ。いきなり家宝って言うから、ビックリしたニャ」
「だろ? 昔からさ、何考えてんのかよくわかんねーやつなんだ、小兄って」
「ショウニイ?」
「小さいほうの兄貴ってことだよ。キースは大きい兄貴だから、大兄な」
 なるほど、兄が二人いると呼び方に苦労するらしい。
 オモチが変なところで感心していると、問題のセインが弟の背後からにゅっと顔を出した。手には七杯目のフラヒヤビール。それでも素面同然の兄貴に、化け物……とヒューが呻く。
「こらこら。わざわざ大陸の果てにまで心配して見に来たお兄さんに向って、その言い草はないだろう」
「るせえっ。本当は俺の双剣奪いに来たついでに、からかいに来ただけなんだろ!」
「おっと、それは違うな、ヒュー。僕はお前をからかいに来たついでに、家宝を取り戻しに来たんだね」
「くっ……! 小兄なんか、いつか奥歯ガタガタ言わせてやるっ」
「そりゃ楽しみだ。いつかって、いつだい?」
「いつかはいつかだ!!」
「ははははは」
 この通り、今日は万事が兄貴のペースなのだった。乗せられやすい弟も弟で、仲が良いのか悪いのかよくわからない兄弟である。
「それにしても、せっかく念願のハンターデビューを果たしたっていうのに、まだ酒が飲めないなんて。ああ情けない。お兄さんは悲しいぞ」
 わざとらしく嘆いたセインの前、どん!とポポ肉のステーキが運ばれて来た。
 じゅうじゅう音立てる厚い肉に、とろりとキノコと根菜のソースが絡む。キャベツの酢漬け添え。兄の品にも関わらず、意趣返しのつもりか弟がフォークを伸ばした。
「兄貴には関係ないだろ! 狩りにだって関係ねーじゃん、酒なんか」
 ガキン! セインのナイフが盗人を阻止。
「飲めてこそ一人前の狩人だろう。なべてハンターは狩猟のあとに一杯飲むこと、ていうギルド規定を知らないとは言わせない」
 ずりずりずり。今度はヒューに運ばれて来た、あつあつのガウシカ肉のポトフを兄の腕が引き寄せる。湯気に乗った香草のスパイシーな香り。
「嘘つけっ、んなもん聞いたことねーし。っていうか兄貴止めろって、これ俺の!」
「お前が先に手を出したんじゃないか。あ、そっちのシモフリトマトのマリネも美味しそうだなぁ。……うん、冷えてて美味い」
「ああっ、よくも食ったな!! こうなったら意地でもその肉貰ってやる」
「おいこら、一枚丸々持っていこうとするやつがあるか! 大体お前は昔から――」
「って言いながら人の料理ばくばく食ってんじゃねーよ! あのな小兄――」
「いい加減にするニャッ! どこまで行儀悪いニャ、あんたら!!」
 ぱちくり。
 唐突な怒号に、得物ナイフ得物フォークを噛み合わせた兄弟が揃ってフリーズする。
 泥だらけで野外を駆けるハンターに行儀もへったくれもないものだが、酒場の視線が二人に集中しているとなれば話は別だ。ついにブチ切れたオモチによって、食卓戦争はひとまず休戦となったのだった。
「さあ、それで本題だけど」
 しかし、ポポ肉を切り分けながらセインが言いだしたのは意外な提案であった。
「別に僕は血も涙もない借金取りとは違うからね。あの剣を何が何でもお持ち帰る、というつもりで来たんじゃないんだよ」
「へ? どういうことだよ?」
「お前があの剣にふさわしいハンターになってるようなら、僕も無理に返せとは言わないさ。お前には僕と一緒に狩りに行ってもらおうと思ってる。一種の試験みたいなものだね。それなりの結果を見せてくれたら、何も言わずに僕は帰ろう」
「ほんとか、小兄!」
「喜ぶのはまだ早い。伝説の名刀を持つに足りると僕が判断したらの話だ。そうでなければ剣は没収。身の丈に合う武器を自分でお作りなさい」
「お、鬼……!」
「心外だな。お兄さんの愛のムチでしょうに」
「いらねえよ! ……なぁ、小兄。もしかして大兄に言われて来たのか?」
 引っかかることがあってヒューは思いついた疑問をふと口にしたが、美味そうに肉をほおばるセインは何も答えない。
 反応がないのでそのままヒューはしばらく唸り、やがてわかったと頷いた。
「確認しないで持ち出した俺もまずかったわけだし。でもその試験とかの場所は雪山にしてくれよな。もうすぐ村の祭があるんだ。でかい祭だし、村付きの俺がいないとみんな困ると思うしさ。俺自身も楽しみにしてる」
「それは駄目だ」
 いきなり全否定。ヒューは眼をしばたいた。
「なんで」
「お前の得意なフィールドで得意な相手を狩ったって面白くな……いや、真の実力なんてわからないだろう? ハンターたるもの、不測の事態に対応できる臨機応変な判断力と行動力こそ肝要なんだ。別の狩場が良いね」
「……兄貴。今、面白くないって言いかけなかったか?」
「空耳だ。ともかく、セッティングは任せてもらうよ」
 慌てず騒がず。大宇宙の不変の真理のように、セインは臆面もなく言いきった。
 やっぱり本場のポポノタンは最高だね、などと後は食事に精を出し、問答無用の構えに入る。こうなるとセインは梃子でも動かないのだ。八つも齢の離れた兄に敵えた例がないヒューは、憮然としながらも頷くしかない。
「わかったよ。だけど俺たちがいない間の村付きを探さなきゃならねーし……」
「出発は明日。代理はもう頼んであるし、村長さんには許可を取ってある。それから、残念だけどオモチ君は今回はお留守番ね」
「んなっ、いつのまに!?」
「なんでオイラは行っちゃ駄目なんニャ!?」
「代替ハンターには村のことを心得てるオトモのサポートが必要だからさ。村長さんにもそういう約束で許可を貰ったから、悪いけど」
 呆れるやら感心するやら。そら恐ろしいほどの要領の良さであった。
 ――無鉄砲が特技の旦那さんとは、とっても兄弟とは思えないニャー…。
 ぐうの音も出ないでいるヒューにオモチはこっそり同情する。
 これからしばらく、破天荒な兄に振り回される旦那の姿が目に浮かぶ。こんな兄貴がいるからこそ、ヒューが磊落な性格になったのかもしれないが。それはともかく、《双焔》の行方も、この調子ではどうやら期待できそうにないようだ……。


 案の定、翌日未明。
「ほらほら愚弟! いつまで惰眠を貪ってるんだ、遅いことならポポでもするぞ!」
 二日酔い? 何それ食えるの?
 昨夜あれだけ飲んだと言うのに、フラヒヤの青空よりも晴れやかな兄貴に叩き起こされ、ヒューは引きずられるように家を出る。眠い眼をこすった先にはアイルー引きの大八車がスタンバイ。
「げっ、なんでもう猫車が呼んであるんだよ!」
「はっはっは、お兄さんの素晴らしさが改めて身に沁みただろう。忘れ物はないかな、ヒュー? 剣、鎧、頭。揃ってるね、じゃあ出発」
 指さし確認オーケー。弟を容赦なく荷台に蹴込み、セインは自身も軽やかに飛び乗ると、取り出したマタタビを惜しげもなくばらまいた。
「はいよー、アイルー!」
「ニャーーーーーーーーーーーー!!」
 意味のわからん掛け声一つ。大興奮のアイルーたちは猛烈に荷車を引く。土煙を上げて村を突っ切り、荷物ともども瞬く間にオモチの視界から消えて行った。
 それはセインの電撃訪問から、実に二十四時間経過しないうちの出来事であった。
「あ、嵐が、去ったニャ……」
 ――のちに、この出立を目撃した村人たちの証言によると。
「ああ、村長……。あの人はまた事後承諾でっ」
 騒ぎを聞きつけ、初めて事情を知ったザクセンが頭を抱え、
「旦那さぁぁん! やっぱり、やっぱりオイラも一緒に行きたかったニャーーー!」
 早朝のポッケ村には、置いて行かれた哀れなオトモの悲痛な叫びがいつまでも余韻を残していたという――。

 * * *

 フラヒヤ山脈から南西に下り、一週間ほど車に揺られた。
 平地に降りてから馬車に乗り替えたとはいえ、どこの道もお世辞にも良いとは言えない。きつい揺れにすっかり尻がおかしくなった頃、兄弟がようやく到着したのは、灰色に雨のそぼ降る森に囲まれた町だった。
 取り出した懐中時計を確かめ、セインは去りゆく馬車を見送っている弟の背中に声をかけた。
「どうやらちょっと早めのご到着だな。……こら、ヒュー。子供じゃないんだから、そろそろ機嫌を直しなさい」
「小兄こそ、ひねくれた根性なんとかしろよ。騙し撃ちみたいなことしやがって」
 雪山以外の狩場というので、出かけたとして二三日の麓あたりかとヒューは考えていたのだ。それがフタを開けてみれば、連れて来られたのは大陸中西部。
 しかし口を尖らせてはみたものの、久々に見る下界の景色に実はヒューは半分胸をときめかせている。
 猫車に乗っている最中はひどい車酔いで文句どころではなく、馬車では狭い幌の中で始終兄と顔を合わせていたのだ。いくら理不尽な仕打ちでも怒りを持続させておくのは難しい。もとより執着する性質でもない。
 祭までに村に戻すと約束してもらえれば、どちらかというとヒューは雪山以外で狩りができることが嬉しかった。
「山を降りれば暑いと思ってたけど、そうでもないんだな。けっこう涼しいや」
「雨だからね。これが鎧は重くなる体温は奪われるで、なかなか侮れないものだよ。湿地帯の狩りでは温暖期でも防寒対策が重要になる」
「沼地か……。ゲリョスとか居るんだろ」
「さぁて。とにかくまず宿を取ってギルドに行こう。適当な依頼を物色してるうちに、僕の仲間も着くだろう」
「ハンマー使いと太刀使いだったっけ。どんなやつら?」
「変なやつらさ」
 そりゃあ、小兄の仲間だもんな。
 それはあんまりな返答だったが、ヒューはなんとなく納得した。


 ドンドルマの真北に位置するウィバロウは、西の大都市リーヴェルとドンドルマを繋ぐ交易の中継地として発展した由来を持つ。中央通りは石畳で整備され、背の高い建造物も何軒か見受けられる中規模な町だ。
 大陸中部最大の湿地を渡るため、隊商はこの町で準備をし、護衛を雇い、渡り終えた旅人たちは初めて安全な休息を得る。護衛と言ったが、もちろん相手は盗賊や追剥ではない。人の踏みこめぬ野生の世界はそのままモンスターの天下である。狩人の仕事は事欠かず、従って町のハンターズギルドも立派だった。
「おっほほ、そうですか。あなたが噂のセインの弟君」
 待ち合わせの集会所に現れたセインの仲間、その一。
 エマニューラ・ハッジは、女だてらにハンマーを振り回す剛腕狩人であるらしい。料理人の家の出で、世界の珍しい食材を求めてハンター稼業をしているという、一風変わった人物である。もっともその小柄な身体でどんな槌を扱うのか、普段着の今からはヒューにはちょっと想像できない。
「なるほど、目や鼻筋なんかが似てますねぇ。骨相はちょっと違うようですが」
「それがしはクロウと申す。はばかりあって姓は明かせぬが、ご容赦めされい」
 やたらと古風なセインの仲間、その二。
 黒髪の太刀使いは、東洋人には珍しく背の高い男だった。容貌は若くても、落ち着いた物腰は老成している。兄より年上なのかもしれない。名乗れないのはどういうわけかと思っていると、兄貴がけろっと言い添えた。
「クロウとは僕らも一年ほどの付き合いでね。故郷で何かしでかして、国人に追われてるらしい。口の重い男だから詳しくは知らないけど、まぁハンターなんてそんなあぶれ者ばかりだっていうのは、お前もよく知る通りだ」
 気にするなということだ。兄貴が言うからには信頼できる人物なのだろう。
 よろしくと笑ってヒューが手を差し出すと、クロウはジーとその手を見つめ、うんと頷いてから握手した。無表情。確かに口数は少なそうだ。
「ま、そういうことで二週間ばかり、愚弟がパーティーに加わるよ。色々巨大な迷惑をかけると思うけど、遠慮せずガツガツしごいてやって」
「そういうことって、どういうことですよ。弟君と狩りに出るから手伝えと言われただけで、全然事情を聞かされていないんですけどねぇ、セイン?」
「諦めよ、エム。今に始まったことではあるまい。して、ヒュー殿。聞き及んだところ、貴殿は双剣使いであるとか」
「ヒューでいいよ。ああ、俺の武器は双剣だよ」
「ふむ、二刀流もよい。一度手合わせ願いたいものだ」
「へえ、珍しいな。初対面の人間にクロウが長文で話してるぞ」
「聞き流してくださいね、ヒュー君。剣士と見ると見境なく同じセリフ言うんですよ、この人。いわゆる太刀中毒って人類で」
「クロウだってエムには言われたくないだろう。飛竜のハムを焼いてる時にレウスに襲われて、ハムで応戦した話をしてやるといい。もう伝説だよ」
「あれは命からがらでしたぁ。突進してきた竜の口に肉突っ込んで、食べてる隙になんとか逃げて。思い出すと今でも悔しいっ、ウルトラ上手に焼けたのに!」
 あっという間に打ち解ける。細かいことは気にしない。
 狩り場で命を張る者同士という仲間意識から来るのだろうか、ハンターとは大概がこうしたさばけた連中だ。
 ――それにしても、やっぱ仲間がいるってのは良いよな。
 オトモアイルーがいたとはいえ、ヒューはパーティーで狩りに出たことはない。今は全員普段着だが、セインを含めた三人は上位ランクの狩人なのだ。かもし出す余裕の雰囲気が心強く、ヒューは少し憧れる。
「なぁ小兄、いつから狩りに出るんだ? 明日からでも良いんだよな?」
「それですよ。とりあえずセイン、どんな狩りを予定してるんです?」
「こいつは沼地は初めてだからね。採集や簡単な仕事を数件こなしてから、何か大きいのを狩りに行こうと考えてる」
「了解です。ただ心配なのは、今年は例年より豪雨が多いことですねぇ」
「うむ。先日イーオスを狩りに行ったが、ぬかるみがひどいものであった」
「狩りの最中に猛烈に降られて中断して戻ってきた、なんて話もよく聞きますよ。他の猟場にしたほうがいいんじゃないですか?」
「それはそれでいい勉強さ。新米ハンター君にはね」
 言ってセインはポンポンと隣の弟の銀髪を叩いた。
 迷惑とか、新米とか。その上いまだに子供扱い。さすがのヒューもムッとした。
 倒せば狩人として一人前という雄火竜リオレウスこそ狩ってはいないが、過酷な雪山でそれなりに場数は踏んできた。おまけに今回は愛剣の命運までかかっているのだ。ここは引くわけにはいかない。
「小兄、ガキ扱いはやめろって。言っとくけどな、俺ももう初心者ってほどじゃないんだぜ。採集クエストなんて必要ねェよ」
「おや、大きく出たな。なら、我が家の泣き虫末っ子君の武勇伝を伺おうか?」
「それ昔の話だろっ。イャンクックもソロで倒せたし、フルフルだって撃退したよ!」
「クック討伐! それこそルーキーの仕事じゃないか。撃退ということは、フルフルにも逃げられたってことだろう? 驕るなよ新米君。――でも、そうだな」
 おどけてセインは片眉を上げる。
 ニヤリと皮肉げに口を歪めると、また突拍子もないことを言いだした。
「そんなに自信があるなら、いきなり大物討伐でもしてみるかい? さっきちょうど良さそうな依頼を見つけたところだ。ヤル気があるなら構わないぞ」
「大物って」
「カニだ。ショウグンギザミ」
「あわわ。ちょっとちょっと、セイン」
 湿地帯初体験の双剣士に、相性の悪い甲殻種。ごつい相手である。
「ただでさえ条件が悪い所へ、ギザミですかぁ? 落ち着きましょうよ、二人とも」
「カニでいいのさ。聞いてのとおり末っ子君はバカだから、いっぺん身をもってノされたほうが本人のためだろう。僕らがいれば死ぬこともなし」
「うっはは。出ましたね、このドS……」
 エムのドクターストップも、兄弟喧嘩の前には焼け石に水だったようで。
「だから勝手に死ぬとか決めつけんなっ。いいぜ、カニでも何でもやってやるよ!」
「よく言った。その勇気に免じて骨くらいは拾ってあげよう」
 あれよあれよという間に話はまとまり、兄弟の視線に火花が散った。
「……うーん。弟とは喧嘩したことないって聞いてたんですけどー?」
「幼い頃の話であろう。長じてくれば衝突もある」
「ジジくさいですねぇ。妙に悟ったように言わないでくださいよ、クロウ。覚悟したほうがいいです。この喧嘩の始末を押し付けられるのは、きっと私たちですよ」
 なぜと首を傾げたクロウに「ああ、あなたは知りませんでしたか」とエムは困ったように囁いた。
「セインは十五のときに家出してハンターになったんです、親父さんと大喧嘩したあとにね! そういうわけであの人、身内には容赦ないんですよ。こりゃ本気でフォローしないと、ただの怪我じゃ済まないかもしれません」


(「4章 レッツ・パーティー・カニハント!」へ続く)
スポンサーサイト

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。