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モンスターハンター!2 2章

荒天の弓使い 2章です。


モンスターハンター! 荒天の弓使い


 2章 兄貴襲来

 フラヒヤ山脈にも短い夏が訪れていた。
 大陸の北の果て、世界の屋根と称される峰々も万年雪をかぶる頭だけを白く残し、広い裾野は濃い緑におおわれている。
 そのふところ深くに抱かれた小さな集落、ポッケ村。
 人が住むには北方に過ぎる寒村にも、例外なく夏は訪れる。
 あちこちで可憐な高山植物が花を咲かせ、今ぞ盛りと忙しげに飛びかう虫たち。春に生まれた家畜の仔らは見違えるほど立派になり、農場の作物も太ってきた。川では海から遡上する魚の漁がそろそろ始まる頃だろう。
 自然の中の生命という生命が、もっとも華やかに栄える季節。けれど、村に活気が溢れているのはそのせいばかりではなかった。
 冬場には考えられないほど、この時期のポッケ村は様々な人でごった返す。歩きやすくなった峠を越えて、商人や湯治客、そしてハンターが集まるのだ。おまけに今、村は夏の大祭を一月後に控えている。近隣の村落との打ち合わせや準備で、人々の動きは慌ただしくも楽しげだ。
 ――そんな賑わいの中。
 行きかう人々の頭一つ上を、乾いた木の打ち合う音が断続的に響いていた。
 音源を辿ってみる。村の中央を流れる温泉川。それとハンターズギルドの集会所に挟まれた、うっかりすると見逃しそうな脇道の奥から音は聞こえているようだ。
 薄暗い道はすぐに行き止まり、古びた木製のアーチ扉に突き当たる。潜った先は円形の広場。村の裏側のちょっと秘密基地めいた場所が、この辺りではポッケ村に唯一存在するハンター訓練所だった。
 今、中央付近で二人の男が対峙している。
 片方は中腰で盾を構えた偉丈夫、片方は木刀二本を両手に持った青年だ。
 すでに何度も打ち合っていると見えて、インナー姿の青年は全身汗だくだった。が、相手を見据えるブルーの眼差しは揺るぎもしない。
 強く緊張する空気。青年のあごの先から一滴の汗がしたたり落ちた。
 転瞬、青年の影が地に踊った。
 光の露を飛ばして、しなやかに腕が伸びる。左脇、下段に構えていた右刃が逆袈裟に跳ね上がり、追いかけて左刃が斬り上げた。風を切るほどの身の回転が勢いを乗せた両手突きに続く。更に竜巻のような逆回転、引き抜いた左の横薙ぎ一閃。盾と正対するやいなや両剣は同時に天にある。
 ――ガ、カンッ!!
 真っ向からの斬り下ろしがフィニッシュ。
「――よし! 今日はこんなところか」
 水を打ったように静まり返った広場に、太いダミ声が響いた。
 油断なく後ろに退いた青年を確認し、ガツリと盾を地に突き立てた男。歳は四十前後。短く黒髪をかり上げた濃い眉毛の怒り肩が、訓練所の教官その人である。
「うむ、やはり双剣に関しては我輩が教えられることはもう少ないな。恐ろしいものだな、ヒュー。貴様の剣はどこから突き出されてくるのか眼に見えんぞ」
「それはさ、構え方だよ」
 そして腰に手を当て、ちょっぴり自慢げに笑った青年剣士。
 後ろでひっつめた銀髪と陽気に輝くブルーの瞳の持ち主は、この春からポッケ村専属ハンターに着任したヒュー・パーシヴァルだ。
「手の内をなるべく見せないようにとか、切っ先を真っ直ぐ敵に向けるようにとかさ。いろいろ工夫してるんだぜ」
「ほほう、ナルホド! それはやっぱり父上直伝か?」
「親父は、俺がホントにガキの頃に行方不明になっちまったからなぁ。いつも剣を振ってるのは見てたけど、正確に憶えてるわけじゃねえし。半分は自己流だよ」
「ほほう。とはいえ、頭のどこかに父上の体さばきや何ぞの記憶が焼き付いていると見えたな。でなければその歳でここまでの遣い手にはなれまい。しかしな」
 感心するようだった声が急に低められる。鬼教官の顔。
「最後の斬り下ろしは良くなかったぞ。貴様、剣のどこで斬っているつもりなのだ。切っ先じゃなくて物打ちでズバッと斬れ、物打ちでズバーッ」
「うぐっ。わかってるけど、だってこの木刀、俺の剣より短かいだろ。しかも相手がモンスターじゃなくて的も小さいし、間合いがよくわかんねんだよ」
「ごちゃごちゃ言い訳するな、けしからんっ。そんなことを抜かしおって、例えば相手がチャチャブーだったらどうするつもりだ!?」
「ちゃちゃぶう? なんだっけそれ、美味いやつ? あ、思い出した。豚だな!?」
「かあッ、貴様! それはモスだ、チャチャブーくらい知っておけ!!」
 教官が気を吐いた。
 G級ハンターの双剣士を父に持つヒューは、自身も優れた双剣の腕を持っている。
 春頃に赴任するやいなや、村の子供をさらったドスギアノスを群れごと壊滅させてしまった事件などは記憶に新しく、教官も内心舌を巻いたものだった――が。
 なんとこの青年、狩人生活を始めて半年にも満たない初心者なのである。
 街の訓練所で修練を積んではいたものの、正式な仕事は村に来てからが初めてらしい。当然こんな辺境よりも街のほうが依頼は多いはずで、ヒューほどの腕を持ちながら狩人として駆け出しというのは、ちょっと妙な話だった。
 ――しかしまあ、思い当たらん節が無いでもない。
 何しろ、チャチャブーとモスを勘違いするほどのアホである。
 そのくせ持ち前の度胸と剣の腕だけで、彼にとっては未知の山中にずんどこ分け入ったりしてしまうので、村の前任ハンターであるザクセンなどは随分と気を揉んでいるようだ。
 ――そんな周囲の心配も知らぬは本人ばかりなり、だな。まったく。
「旦那さぁん、迎えにきたニャ!」
 教官が胸中呟いた時、演習場のぼろい扉をギシギシ言わせて白いアイルーが入って来た。ネコ族獣人のオモチ。いつもヒューとタッグを組む、頼れる狩りの相棒である。
 だがオモチは鍛錬にいそしむ偉い主人を迎えにきたという風情ではなく、どちらかというと不満そうだ。苛立たしげに三角の耳をぴくつかせているのを見て、ヒューがしまったという顔をした。
「悪い、オモチ。ちょっと訓練に熱が入った」
「遅いニャ旦那さん。ザクセンさんも工房の大将も、みんな待ってるんニャ。オイラに謝っても意味ないニャ、とにかく急げってんニャー!」
 そういえば訓練の前、鍛冶屋に用があるとヒューは言っていたようである。メンテナンスを頼んでいた剣のことで重大な話があるとかなんとか?
「初心者演習ありがとうございましたーッ!」
 片付けなどを終え、ビシッと元気よく挨拶すると、ポッケ村の若き村付きハンターはそそくさと訓練所を出て行った。
 ――あれで初心者か。
「どうも実力と経験が釣り合っていないのだな。うぬう、困ったもんだ」
 青年が去った後で呟いたとて、ヒューに教官の言葉が届くはずもなく――。
「んニャッ、汗くさいニャー。水ぶっかけたいニャー。しかも夏だからってインナー一枚で村の中を出歩かないで欲しいニャア!」
 訓練所を出た途端、ヒューはオモチの説教を喰らっていた。
「しょーがねーだろ、俺さっきまで訓練してたんだから。誰も気にしないって」
「今は村外の人も多いんニャ。村付きハンターのあんたがそんなショボイ格好してたら、ポッケ村の沽券に関わるんニャ。いいかげん自覚するニャー!」
「しょ、しょぼいィ!? お前、毎日精進怠らない旦那に向かってそう来るかっ」
「事実ニャ!!」
 白ネコ・オモチ。小姑のように口うるさいのがたまに傷である。
 いつものようにカッと説教をかますと、オモチは不意に身をひるがえし電光のように駆け去った。そしてすぐにまたスッ飛んで来る。その手に掲げるタオルと着換え一式。
 ――おおっ、しかもあのタオル、水で硬く絞ってねーか……!?
 なんという心配り。
「ウニャーッ、とっとと着換えるニャー!」
 べしっと顔面にシャツを叩きつけられ、たじたじとなったヒューが慌てて身支度すると、有能なオトモはようやく満足げにヒゲをそよがせた。
「それでこそ、ちゃんとしたハンターってもんニャ」
「いつも思ってるんだけどよ。なんちゅーか、お前って……すごいよな」
「あんたが適当すぎるんニャ」
 そりゃあ自分の旦那には、できるだけ立派でいて欲しいものである。
 オモチのキモチになど微塵も気づかず、のん気なハンターはこれまたいつものように本気で感心するのだった。

 * * *

 ポッケ村の鍛冶工房は、構えは小さいが腕は良い。
 店を営むのは竜人族の親子二人、店番兼手伝いのアイルーが一匹。ただし後者はよくカウンターの日溜まりで寝こけていて、役に立っているのか謎である。
 村の真ん中通りに面した、その鍛冶屋の前にザクセンは立っていた。
 オットー・ザクセン。前任のポッケ村付きハンターだ。
 壊れた右足のために狩人稼業を引退して早数ヶ月。骨を埋める覚悟で村から離れず、後任のヒューにとっては狩りの師匠のような存在になっている。
 そのヒューが自分のオトモを連れ、道の向こうから走って来たのを目に留めて、ザクセンは軽く手を挙げた。
「来たか、ヒュー」
「すまねえ、ザクセン。遅くなった」
「いや、それはいいが。……お前、その上着はどうした? なかなか似合うな」
「ああ、これ? シシィのおふくろさんが祭り用にってさ」
 嬉しそうに笑うヒューは、村の伝統紋様が刺繍された民族衣装を身に着けている。どこから見ても立派にポッケ村の住民の仕上がりだ。
 こうしているとまるきり普通の好青年にしか見えないヒューだが、腰には一般人が持つには大ぶりのナイフをバックルで留めている。そして半袖のシャツから伸びる麻縄のように締まった腕に、幾筋も走ったミミズ腫れ。少し前に雪山の洞穴に出たフルフルという飛竜を撃退した痕だった。
 村に来た当初、初心者らしい右往左往ぶりでザクセンを心配させたヒューも、最近はイャンクックやフルフルといった飛竜の狩りを経験し、多少は腰が落ち着いてきたように見える。
 ――相変わらずアホな言動も多いがな……。まあ、そのへんを含めて村人には親しまれているようだ。
 一流ハンターにはまだまだ遠いが、焦ることはない。うん。
 むしろ自分に言い聞かせるように頷いたザクセンに、ヒューが能天気に訊いた。
「何一人で納得してんだ、ザクセン? それで俺の剣はどうなったって?」
「ああ、それがなぁ……おおい、大将! ヒューが来たので出てきてくれないか」
「――おう!」
 と返事があって、店の奥から上半身裸の男がぬうっと姿を現した。
 職人のイェルゴは見上げるような大男だ。毎日槌をふるっているだけあり、現役ハンターのヒューよりも厚い胸板を誇っている。あまりに立派な押し出しをしているので、村では“大将”のあだ名で通っていた。
「こりゃまいど、ハンターさん」
 ヒューを目にするなりイェルゴは苦い顔になった。
「あんたの双剣なんだがなぁ。一応、俺っちができる修理はしといたが、あの剣本来の切れ味を取り戻すにはうちの技術じゃちっと無理みたいだぜ」
「剣本来の切れ味? でも、刀身の歪みは直ったんだよな?」
「ま、な。目釘穴が広がってたからよ、新しく打ち直して、ついでに緩んだ鯉口も巻き直しちゃあおいたんだが……。研ぐのは出来ねえな」
「出来ないってどういうことだよ、大将。鍛冶屋だろ?」
 そこでイェルゴは四角い顔をよりいっそうしかめた。怒っているのかと思いきや、どうやら悔しがっている。
「あのなハンターさん。あんたは知らんで使ってたようだが、あいつァかなりの業物だぜ。俺っちに東方刀鍛冶の技術はねえ。しかも何の素材かわからねえとあっちゃあ、研ぎまでは恐ろしくて手が出せねえよ」
「竜の角とか、牙ではあるようなんだけどねぇ」
 ひょろ高く枯れた声がして、奥からイェルゴの母親がちょこちょこ出てきた。子供より小さな老婆だが、息子に鍛冶の技を叩き込んだ張本人である。工房では炉に火が入っているらしく、のれんを上げたとき店先にまでムッとした熱気が流れてきた。鉄の焼ける匂いがする。
 丸顔の老婆は汗をふきふき「よっこらしょ」台に昇ると、齢に似合わぬ素早い手つきで二振りの剣をカウンターに乗せた。
 きちんと揃えて置かれた双剣。オモチの他の、もう一つのヒューの相棒だ。
 細身の刀身にはやや反りがあり、切先だけが両刃造り。微妙な不透明さを持つ美しい剣の腹には、よくよく見ると樹木の年輪に似た模様が浮いている。峯はその名の通り、紅蓮に燃え盛る火山のような荒々しい造りになっていた。
「知っての通り、失敗すると取り返しがつかないのが研磨でねぇ。素材を解明して、東方伝来の技を持った研ぎ師に頼むかするのが、この剣にとっては一番じゃわ」
「東方技術の刀匠か。そんなやつ、街にもいたかなぁ」
「少なくとも、これをこしらえたお前の父は職人を知っていたのだろうがな……」
 ザクセンが口を挟んだ。
「それから、大将。例の黒い雷についてもヒューに話してやってくれ」
「おう、そうだった」
 先日の狩りでの出来事である。フルフルという不気味な飛竜と戦ったおり、切りつけた剣先から不思議な稲妻がほとばしった。初めて見る現象だったのでヒューは驚いたのである。
「それなんだがよ。龍属性ってやつじゃねえかと俺っちは思ってる」
「りゅう……属性? なんだそれ」
「オイラ聞いたことあるニャ。古い伝承なんかに残ってる龍殺しの力のことニャ」
「さすがにオモチはよく知っている。龍殺しの力を属性として武器に持たせたものらしい。それこそ古シュレイド王国全盛期の大昔に、対龍戦によく用いられたとか」
「俺っちも、仲間内の噂話で小耳に挟んだことがあるだけだがよ」
 ザクセンの言葉を引き継いで、イェルゴ。
「龍殺しの力っつのは、龍の血と反応して毒になるようなもんだそうだ。だからそいつを刃に吹き込むと強力な武器になるんだな。ま、それが黒い雷かどうかまでは俺っちも知らねえよ? なにせお目にかかったことがねえ」
「へえー。じゃあもしかして、この剣ってすげー貴重品だったのかな? 家の倉庫で普通に放置されてたから、持ってきちまったんだけど」
「放置……」
 イェルゴが渋面になったのにも気づかず、ヒューはカウンターで静かに陽光を反射する紅色の双剣を見つめた。
 確かに、実家に眠っていた親父の双剣コレクションから選び出したのは、剣士としてどこか惹かれる所があったからだ。でもそんないわく付きの一品だったとは。
「貴重は貴重なのだろう。しかし龍殺しの力は特に実戦向きではないらしいからなぁ。作ったはいいが、あまり使われなかったというところじゃないかね」
「え、なんで? だって竜に効くんだろ……って、そういやフルフルは、あの稲妻に触ったからって屁でもないような顔してたっけ」
「龍属性が有効なモンスターは多くないという話だ。飛竜とは極めて性質の異なる、古龍と呼ばれる特殊な龍に対してくらいのようだな。今回は刃が欠けた拍子か何かでたまたま効果が出たのじゃないか?」
「いや、何度か連続して出たってこたァ、中身の機構は死んでねえ可能性が高い。効く効かねえはともかく、研いで本来の切れ味を取り戻せば、また属性能力は蘇るはずだぜ。要するにこの剣は――」
 イェルゴはいかにも刀剣を愛する職人らしく、眼を吊り上げてヒューを睨んだ。
「ハナから切れ味が鈍ってたってこったな。G級だかなんだか知らねえが、こんな傑物手入れもせずに置いとくなんざ正気じゃねえよ。とにかく早ェとこメンテしてやんな。それまでは、ハンターさん、こいつにあんまし無理させんじゃねーぞ」

 * * *

 イェルゴに怒られてから、返された剣と新しくあつらえた防具を抱え、ヒューとオモチは自宅に戻ることにした。
 龍属性についての資料が、ハンターの家のどこかにしまってあることを思い出したザクセンも一緒である。坂の上にある家は代々村付きハンターが所有する決まりで、ヒューの前はザクセンが住んでいたのだ。
「月刊誌『狩りに生きる』の……、あれはいつの号だったかな? 捨てていなければどこぞにまとめて保存してあるはずなんだが、はて」
 ザクセンがぶつぶつ呟く一方で、ヒューは通りかかる村人と挨拶を交わしたり、華やかに飾り付けられた家々の様子に目を奪われている。
 ヒューがフラヒヤへ来て珍しがったものの一つに、集落が独自に持つ伝統的な幾何学紋様があった。民族衣装や家の壁などにあしらわれ、模様を見ればどの村の住人か一目でわかるということだが、差が微妙なので慣れない者には難しい。
 更に言うと、村内では各家系に代々伝わる模様というのもあるらしい。衣服の刺繍やセーターの編み込みに用いられ、ヒューの上着もこちらのようだ。今、家の壁や窓をその模様で飾りつけているのは、祭の日に美しさを競いあう行事があるからだと聞いている。
「なあ、オモチ。楽しみだよな、祭」
 きょろきょろ辺りを眺めながら浮かれたヒューがオモチをつつくと、オトモは馬鹿にしくさった顔で旦那を見上げ、あまつさえ肩をすくめた。溜め息ひとつ。
「旦那さん、剣のことも大将に怒られたことも、も~う忘却の彼方だニャ。あんたの人生、ほんとに気楽で羨ましいニャ~」
「お、お前ってやつぁ……」
 ついいつもの喧嘩に発展しかけて、ヒューは珍しく思いついたことがある。まるでどこかの悪ガキみたいに、にやらーっと笑ってみせた。
「んなこと言ってるけどさ、オモチ。ハンターってのは、だいたいみんな祭好きって相場が決まってんだぜ。そういやお前、ハンターになるのが夢だったっけ?」
「ニャッ……。ニャア」
「だーったらお前も祭りを楽しまなくちゃ、ハンターになんかなれねーな! ほら、もっとわくわくしろよ」
「ニャー…。わ、わかったニャ。オイラも頑張ってわくわくするニャ!」
「おう! ……ん? いや、頑張るって?」
 祭楽しむのに努力が必要なのか、このネコ。ヒューは首をひねった。
 後ろの二人がおバカなやり取りをしている間にも、ザクセンはさっさとハンターの家に到着していたようである。
 田舎の村では、遠出でもしないかぎり基本的に鍵を掛けたりしない。だから勝手にドアノブをひねり、扉を開けたそのときだ。中から聞き覚えのない声がした。
「やあ。お帰りっ、ブラザー!」
 ばたん!!
「…………」 一度開けた扉を音速で閉めなおすザクセン。
「何やってんだ、ザクセン?」
「う、うむ。今何か、妙な幻聴を聞いたような……?」
 がちゃり。
「うぉわ!?」
 内側から、いきなり扉が自動で開いた。年甲斐もなく驚いたザクセンに突き飛ばされ、ヒューとオモチが折り重なってスッ転んでいる。
 半開きのドアからひょこりと突きだされてきたのは、見事な赤毛の頭であった。
 ザクセンと眼をあわせる、二十代半ばと思われる男。ここらではついぞ見かけない垢抜けた端正な顔立ち。前髪を揺らしながら涼しげに笑った。
「すみません。専属ハンターの家はここだと聞いたんですが、どうやら人違い……」
「あああああ!」
 突拍子もなく声が響く。大地にひっくり返ったヒューが、酸欠の金魚のごとく口をぱくぱくさせながら謎の男を指さしていた。
「あ!」
「あ?」
「あ、あ――兄貴!!」
「……ええ?」
 ヒューに兄貴と呼ばれた赤毛の男は満面に笑みを浮かべる。
 完全にドアを開いて全身を現すと、すちゃっと片手で挨拶した。
「や! 久しぶりだね、弟よ。相変わらず無駄に元気そうで何よりだ。早速だけど、お前はうちの家宝を一体どこへやったのかな?」
 すらりと立つ突然の訪問者はまぎれもない。
 パーシヴァル家の次男にしてヒューの次兄。密林のリオレイアを鮮やかな手並みで捕獲していた、あの弓使いのセインであった。


(「3章 セインと愉快な仲間たち」へ続く)

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