スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

MH3 tri- 欠片文

久々にモガの海に潜ってきたらやっぱり面白くて、無駄に文章かいてみた。


 MH3tri- 欠片文

 島の西寄りに走る水路をとおり、南の入り江へと抜ける路が、カナロアは好きだった。
 小さな滝の落ちるアプトノスたちの水場から、水路は始まっている。浅く広がっていた淡水の水たまりは、南へ下るにつれて、海からの塩水と混じる。汽水域にはジャギィたちがよく群れている。路はその先で急激に狭くなり、両脇を崖に挟まれて、南へくねくねと続いていく。そこは竜たちもおらず、静かで不思議な場所だ。
 黒っぽい岩壁は、よく見ると大昔の遺跡らしい。人が住んでいた住居か神殿のようで、あちこちに窓と思しき穴や通路がとおっている。その穴と、壁に挟まれた青空から白い陽光と水しぶきが絶えず降り注ぐので、狭くとも明るい光に満ちた美しい秘密の小路だった。風と水が穏やかな日には、静止した水面に周囲の遺跡が映ったりする。水の下にまた別の世界があるようで、そういうときカナロアは長いあいだ一人で足元の鏡面世界を眺めたりした。
 南の入り江へたどりつくと、路はふいに開ける。両側の岩壁が扇状に広がり、眩しく白熱した太陽の光が一気に訪問者の眼を焼くのだ。視界が回復する前に、風が正面から吹いてくる。強く鮮やかな潮の香り。空よりもいっそう青い海に、手招きするようなさざ波を眼にすると、カナロアはいつも一直線に走っていって、カーブを描いて海に飛び込んだ。
 ときには危険なルドロスたちが入り江に寝そべっていることもあるが、カナロアがやってくると、彼らは気分の良い休息の座をモガの主に明け渡す。心配せずとも、ルドロスたちは他にも日光浴できる場所を知っているから、カナロアも遠慮はしなかった。草食竜のエピオスも、カナロアを眼にすると距離を取る。けれど入り江から姿を消すことはせず、ひと泳ぎして岩場に寝転がったカナロアを、興味深そうに遠くから見ていることが多かった。
 村のために、エピオスを狩猟する日もある。そういうときはエピオスにもわかるらしく、さっさと逃げてしまい、カナロアも一苦労なのだが、こちらに狩るつもりがないとわかるときはのんびり海草を食んでいたりした。
 狩猟のときとそうでないときの区別がつけられるように、カナロアは森で振る舞っている。本当は不意打ちのほうが狩りの成功率は高く、動物たちのなかにも、そういう狩りをする肉食竜はいる。
 以前、一頭のジャギィが、ケルビの前で奇妙な仕草をしているのを見たことがある。そのジャギィは異様な狂乱状態で、むちゃくちゃに飛んだり跳ねたり、のたうちまわったりしていた。普段なら肉食竜の姿を見かけただけで逃げるケルビも、ジャギィの異常な行動が理解できなかったのか、釘づけで、竜が徐々に距離を詰めていることに気付いていなかった。ほとんど手を伸ばせば届く位置まで近づいたとき、突然ジャギィはケルビのほうを向き、ひと咬みで獲物を仕留めた。そして何事もなかったように巣へと帰っていった。木陰で見ていたカナロアは本当に感心したものだ。獲物の油断をさそう、見事な狩りだった。
 だから南の入り江で、休憩とみせかけてエピオスを狩る、ということもカナロアにはできたのだが、今までやったことはない。これからも、するつもりはない。それを続ければ、エピオスはルドロス同様、カナロアの姿を見ただけで逃げるようになってしまうかもしれない。それはそれで狩りにくいし、少し寂しかった。
 ――人間は奇妙な生き物だ。
 岩に腰掛け、足を海に濡らしながらカナロアは思った。
 ただの食糧として狩っている竜たち、言葉もなく、感情もわからず、どんなふうに世界を認識しているのかまったくわからない者たちを相手に、親しみを覚えたりする。勝手な親しみだと思う。エピオスにとって、カナロアは天敵だ。彼らはカナロアを当然好かない。
 けれど時どき好奇心の旺盛なやつがいて、まるで肝試しのようにカナロアにちょっかいを出す若い個体や、波間から興味深そうにずっとこちらを眺めているものがいる。そういう竜と眼が合うと、なにか心が通じたような気がして、カナロアは不思議と嬉しくなるのだ。
 ――だが、どんな心が通じたというんだろう。
 同じ生き物としての連帯感だろうか。同じ島に生きるもの、同じ時を生きるもの。それとも、おれがここにいて、おまえがここにいる、互いの存在を確かめあった安心感だろうか。
 ――おれは孤独ではない、と?
 おれは虚構ではない。現実か幻かもわからないこの世界において、他者の魂に触れることで、おれは、おれが確かにここにいると信じられる、と。
 ――そうだとしたら、本当に勝手だな。
 カナロアは足を蹴りあげ、飛沫をとばした。すぐそばにいた小魚が驚いて散る。
 竜は、そんなことは思っていないだろう。過酷な自然のなかで、自分の存在が嘘か本当かなどと悩む暇はない。必要もない。そこまで自然は甘くない。考えている間に、捕食者に喰われるからだ。
「甘ちゃんなのは、おれか」
 気落ちして、カナロアは腰をあげた。その動きに反応したかのように、波間からエピオスの頭がひょっこり現れ、カナロアと眼をあわせた。
「なあ。おまえは何を考えてる?」
呼びかけると、エピオスは黒く濡れた瞳でじっとカナロアを見つめ、しばらくして波の下に消えた。
スポンサーサイト


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。