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MH掌編:鑑定人

MH掌編、キリンに増して地味な話。




MH掌編  鑑定人

「ハンターさん、ここはギルド職員以外は立ち入り禁止だよ」
 老人はなるべく穏やかに告げたが、青年はますます身を乗り出してきた。
「わかってる。でも大事なことなんだ」
「すぐに警備が飛んでくる。狩猟許可証を剥奪される前に帰んなさい」
「爺さん、おれは教えてほしいだけだ。おれが納めた狩猟素材の鑑定額、いくらになった?」
「素材は、いつ納めたね?」
「一昨日だ。だから――」
「それならもう手続きは終わっているはずだ。明日には報酬金を渡せるだろう」
「そうか。でも終わってるなら今わかるよな? いくらだ」
「ハンターさん。知ってのとおり、ギルドには規則がある。明日を待ちなさい」
「待てるくらいならおれは今ここに来てねえよ」
 固めた拳が卓を叩く。積み重ねてあった竜の牙の山が崩れ、老人はすこし沈黙し、部屋の扉をちらと見やった。警備員はまだ来ない。
「……ハンターさん、名前は。何を狩ったね」
「イーオスの群れ。ドスもいた」
「ちょっと待って――ああ、これかな。報酬金は……、依頼成功料と素材料含めて、五百」
「五百だって。それっぽっちか」
「…………」
「そんなはした金じゃ見合わない。そんな狩りじゃなかった。もっと高くならないのか」
「ギルドの鑑定は公正に行われているよ。きちんと最近の相場に合わせて……」
「だけどよ」
 そこまでだ、と鋭い声がして、青年がびくりと振り返った。背の高いギルドガードが大股に歩み寄り、ハンターの肩をつかんで卓から荒っぽく引きはがす。
「けがはありませんか」
 大丈夫の返答をすると警備員は軽く頷き、すでに青年の武器を奪い取っている。
 老人は、ほっと安堵のため息をはいた。腕をさすりながら、警備員に引き立てられていく若いハンターの背を見送る。
 しかし部屋を出るきわ、青年がちらりと見せた横顔に、老人は胸に浮かびかけていた動揺と静かな怒りをふっと冷ましてしまった。
 扉のところに、事の成り行きを見守っていた受付嬢の白っぽい小さな顔がある。彼女は出ていく二人を恐ろしげに避けてから、老人を気遣って歩み寄った。
「おじいちゃん、ごめんなさい。あたしのせいだわ。集会所であの人を止められなくて。脅されたりしませんでした?」
「うん、わたしは大丈夫だよ。気にしなくていい。仕方がないよ、なんだか彼はとても必死なようすだった」
「やっぱり、クレームか何かです?」
「文句は文句だったけれど……、よくある手合いとは違うようだったね。なんだろう」
 あいまいな物言いに受付嬢は首を傾げたが、老爺が思いのほか冷静に仕事に戻ったので、安心して集会所のカウンターへと帰っていった。


 ハンターたちが狩猟や採集で獲得してきた、素材の価値を鑑定するのが、ハンターズギルド職員である老爺の仕事だった。
 品物自体が依頼目的なら、それらは依頼主へ渡されるが、鑑定自体は行われ、依頼内容の妥当性や狩人の仕事の精度を維持・評価する指標となる。依頼がモンスター討伐なら、得られた狩猟成果の価格を判断し、狩人から買い上げる。もちろん狩人の希望で、現金ではなく素材そのものを返却することも多いが、獲得品全体価格の一部を徴収するのは変わりないので、鑑定は必ず行われた。ギルド運営費の多くは、こうした狩人たちからの、いわば納税で賄われている。鑑定は重要な仕事だった。
 三十年来、老人は小型の鳥竜種素材を専門としていた。ランポスやゲネポスや、イーオスの皮、鱗、爪、肉、内臓……そんなものを見尽くしている。小型鳥竜は種類も個体数も多く、ハンターの依頼として一般的だ。今日も複数の鑑定があり、若いハンターの急な訪問があったあとも、老人は手際よく仕事をこなした。
 獲物の解体は狩人たちが自分でこなす。鑑定室に運びこまれるまでに品物は仕分けされ、目録の書類がつくが、記されるのは類別番号や狩猟者名、モンスターの種類と数くらいのものだ。紙よりも実際の鑑定品に残った傷跡のほうが、狩猟のあらましや狩った者について、老人に雄弁に語りかけた。
 手練ベテランの狩ったドスランポスは、首の付け根に大剣の傷があるだけの、きれいな優良品だった。これが初心者だとめったやたらに傷つけるから、素材の市場価値は低くなる。双剣士の狩ったゲネポスは爪も皮も切り刻まれて、無傷の箇所を細切れに揃えるしかなく、せいぜい小物入れや鎧の隙間の埋め合わせに使うしかない。狩猟笛の奏者は、どうやら無精者だったらしい。せっかく取り出したイーオスの内臓が破れ、漏れた毒液が脂や肉、骨など他の素材をだめにしていた。かの鳥竜の毒袋は、竜自身の皮で作った袋で密封しないと、こうした悲劇が起こるのだ。ランポスの群れ討伐の品は、依頼内容から想定する量の半分にも満たなかった。めざましい切れ味の太刀筋なのに、素材の状態はひどく悪く、死後につけられた傷が多いから、激しやすいか陰険な太刀使いかもしれない。逆に、ていねいな解体にも関わらず、ライトガンナーのドスギアノスは右後脚がまる一本欠けていた。信仰心のあるハンターが狩り場に獲物の一部を捧げ、自然や精霊に感謝したのだ――。
 長い時をかけて、老人は、素材の訴える声に対して聞き役に徹するようになった。老人にも言葉はあるが、彼が声を張り上げて何か言う時代は過ぎ去っており、表舞台を退くまでに、彼の呟きにすら人びとが注意を向けるほど大人物にはなれなかった。日々、彼はただ黙々と仕事をこなし、素材と向き合った。
 今日も終日、独りだけの静かな物思いをしながら鑑定にいそしみ、なんだか手元が暗いなと思って顔を上げると、窓の外の日が暮れかけていた。
 急ぎの依頼はなく、仕事は押していない。老人は、誰も待つ者のない自宅の居間をしばし思い浮かべてから、億劫そうに帰り仕度をはじめた。
 ペン先を拭い、インク瓶の蓋をしめる。書類の束をまとめ、紐を通し、明日のためきれいに整頓する。最後に手燭の灯をつまんで消そうとしたとき、ふと昼間の騒動を思い出した。
 ――一昨日だと言っていたなあ……。
 鑑定価格に不満を抱く狩人は、当然いる。これまでも何度かトラブルはあった。しかし、あの青年はなんだったのだろう……警備に引き立てられていくとき、最後に見えた彼の横顔は、奇妙にも涙を流していたのだ。
 鑑定書の本紙は提出済みだが、写しは棚に保管してある。探し出すのは手間ではなかった。頬づえをついて眺めた内容は、紙一枚にも満たない簡素さだった。
 イーオス六頭、ドスイーオス一頭。竜鱗には小枝で掻いたような浅い創傷と、狙いの定まらぬ散弾の穴ばかり。そのほか何度も転倒したような細かな傷が全体にあり、かなりの苦戦がにおっていた。腕に見合わない獲物に手を出した、そんな印象だった。
 ――緊急に金の要る事情でも、あったのかな……。
 結局、泣くほどの理由は見つけられず、老人は結論付けて部屋を後にする。けれど廊下を歩く途中、集会所カウンターへと開いた扉から、あのハンターの酔った声が聞こえた。
 ――単純な、イーオス狩猟のはずだった。ドスもいたが、おれたちも新人じゃない。あと少しで罠にかけるところだった。それがあの地震のせいで……。突然、土煙で真っ暗だ。土砂崩れ。どうして、ちょうどあの時に? ドスも埋まったが相棒も埋まった。あいつを掘り出してやるのに半日もかかったんだ。引っ張りだしたときには冷たくなってた。ハンターが死んでも、依頼人もギルドも何もしてくれない。相棒の家族に金をやりたくても、報酬はお定まりのぶんだけだ。五百。ほんの五百だと? それがあいつの命の値段? どんな顔してあいつの親に会えっていうんだ……。
 湿った静寂を破り、うるせえぞ、と茶々がある。
 ――おまえ以外は祝い酒飲んでるんだ、愚痴りたいなら外で飲め。おまえらが悪いんだよ、狩りをなめてたんだろう。狩り場ではなんでもありだ。誰も警告なんざしてくれない。がきみたいに他人をアテにして、準備不足にも気づかないほど馬鹿だったから死んだのさ……。
 激烈な言葉の応酬があり、乱闘が始まった。給仕ネコの悲鳴と物の壊れる音、咎める声と罵り、囃したてる野次が交錯し、老人の背後から警備員が首をふりふり飛んでいく。
 騒音を遠く聞きながら、老人は廊下に立ちつくして考えこんだ。


 翌日。顔に大きな青あざをつくり、集会所のカウンターで狩猟報酬を受け取った青年は、手渡された美しい小さな玉を食い入るように見つめていた。
 受付嬢が微笑んで言った。
「先日の件で、鑑定士さんが調べ直してくれたんです。皮の腫瘍できものに包まれていたそうですよ」
「……これは、鳥竜玉?」
「いいえ、鑑定書によると紅玉ですね。記録は修正済みです。ただ報酬の受け取り方法が未確認だったため、今お渡しできる報酬金額は先日の通りなのですが……。どうしましょう、こちらで売却しますか? それともこのまま素材としてお渡しします?」
「たしか、すごく高価なものだったよな」
「はい。竜の体内でも稀にしか生成されないものですから。武器防具の材料にもなるそうですよ」
「そうか……、でも……。もしかすると、あいつの両親が欲しがるかもしれないから……。おれ、このまま受け取ります」
「承知しました。それでは書類にサインを」
 そそくさとペンを走らせ、青年は報酬の入った小袋と玉を受け取る。
 赤くなった目で受付嬢に礼を言い、頭を上げたとき、彼はカウンター奥の扉の先をはっと見つめた。再度、無言で頭を下げた。
 集会所を去る青年を見送ってから、受付嬢はカウンターを他の娘に任せて奥の廊下へ引っ込んだ。腰を曲げて仕事部屋へ戻る老人に追いつき、尋ねた。
「本当によかったんですか? あの紅玉、大切な思い出の品だったんでしょう?」
「わたしがハンターだった頃、雌火竜の尾から出てきたものさ。まあ、あれが思い出のすべてではないし、老い先短い身だからね」
「やあね。そう言う人にかぎって長生きするんですから」
「じゅうぶん生きのびたよ。わたしは運が良かったほうだ。自然は容赦ないからねえ」
 微笑みながら言った老人に、受付嬢はけげんな表情を向ける。
「不親切だし、無関心なものだよ。わたしたちが母なる大地と呼ぶものはね。奪うときには理由もなく命を奪う。人の都合など考えもしない」
「だからって、あなたが責任を負う必要はないのに」
「うん。しかしね、人には優しさが必要だよ。ここは街で、自然のなかじゃない。わたしには与えるチャンスがあった……」
「きっと、ギルドの保障をもっと手厚くするべきなんだわ」
 若い受付嬢は生真面目な表情で言い、鑑定室の扉をあけた。
 掃除の必要性を吟味する目つきで彼女が先立つうしろで、老人はちょっと立ち止まり、部屋中ところせましと溢れたいろいろの品物を眺めた。
 巻かれた竜皮、紐でくくられた太い骨、袋に詰め込まれた小さい骨、縞模様の美しい鱗に青白い竜の頭、黒い鉤爪、牙――これらは武器や道具になり、乗り物や家の建材になり、人びとの生活を豊かにする。すべて大自然のありがたい恵みだ。住む場所や食べ物を与え、美しい景色で心癒し、人びとが必要なものを自然はなんでも恵んでくれる。しかし、だからといって、それは優しさでも慈しみでもないのだ。
 扉の横に大きな麻袋が置かれている。ゲネポスの頭が袋の口から天井を睨み上げていた。あのオレンジ色の毒牙に噛まれれば、麻痺した獲物は生きながらはらわたを食われる苦痛を味わって死ぬ。自然が本当に慈悲深いなら、なぜそれほど残酷な仕打ちを許すのか? 自然に悪意はない。けれども善意もない。ただ、あるがままなだけなのだ。真実、ひとを思いやれるのは自然ではない……。
 アイルーたちがにゃあにゃあ言い、新たな鑑定素材を運びこんできた。
 老人はやれやれと腰を叩いて仕事椅子にすわり、胸ポケットから老眼鏡を取り出した。受付嬢は品物を置く場所をてきぱきと指図して、ついでに散らかった部屋のなかを老人が歩きやすいよう少しだけ片付ける。
「お茶を淹れてきますね」彼女はにっこり笑った。「ポッケ村の友達から、質のいい雪山草のお茶をもらったの。それと、おじいちゃんの好きな甘いお菓子も」
「ああ、それはすてきだ。ありがとう」
 老人は心底うれしげにこたえ、手を振る受付嬢を穏やかに見送る。
 やがて小さな竜牙を指でつまむと、使いなれたルーペをのぞき、いつものように傷を調べはじめた。


(おわり)



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コメント

No title
日常の中に人情あり。

そんな舞台裏の風景。素材の鑑定人といえばコチラの世界で言えば農協の選定人みたいなものだろうと、そう考えたらぐっと身近な存在に。なにぶん天然素材であって、その良し悪しで製品の質が左右されるので、地味ですが工房では重宝されているかと思われ。いいところに目をつけたなぁと思う反面、やられたなぁという相反する思いも沸き上がったお話でした。ならもっとサクサク書けよと、己に自己嫌悪(爆w

書けば書くほど狩猟シーンからかけ離れていって、気がつけばモンスターすら出てこないこともあるという拙作ですが(ギャフン、結局は狩猟生活に携わっているその風景やら人間模様に興味があるんだよねと、無理やり納得させております。銀貨さんのときどき投下される掌編はけっこう好みで、ぼーと海を眺めていたりとか、草地に寝転んで雲を眺めているような気分を味わっております。いいよね。こういうちっちゃい話。関わった人にだけ何かが起こるような、ないような。長々とやる話ではないですが、掌編ならではのホッコリ感。

まさか紅玉飲み込んだドスイーオスがいたとは。
爺さん、私の成功報酬にも色つけてくれろ(ダメ人間
雷玉でいいよ!よ!

そんなこんなで励みにしつつ、こっちも『狩人遊戯』の第二幕をぽちぽちと。
野郎二人が雨宿りしつつ。
お嬢にたかられつつ。
酒場で物思いにふけるという、この上なく地味路線を展開中。
どうしてこうなった?w
  • 2014-08-16│18:33 |
  • ロッソ・チネリ URL│
  • [edit]
Re: No title
最近ようやくまとめ方を憶えまして、小話も書けるようになりました。やれやれ。
言われてみると静かめな品ばかりになってますねw
戦闘ものの熱いやつは長編でわりとやっていて、劇的展開以外の話も書けるようになりたいと思ってはいたものの……熱く烈しいので短いのも楽しそう。
その路線のネタはMH二次では今ストック無いので、ちょっと頭に留めておきます。
相手のモンスターは何がいいかな……w

自分なぞ下手したら風景や漫才ばかり描写する勢いですしおすし。
ときどき、ある風景を書きたいがために物語を無理矢理くっつけているような気さえします……そして物語を書いていると無駄にくどい風景描写は邪魔なので結局切る。
かなしいw
まあ、書きたいものを書きましょうw

うう、自分もわんこ玉だけ出ないのですよ……。
雌火竜の紅玉もP2Gからずっとセンサー起動。なぜです女王!

狩人遊戯の第二幕、樹海でしたっけ?
オールドマン楽しみですw パンツは太陽に焙られてじりじりしているw
  • 2014-08-17│12:35 |
  • 銀貨 URL│
  • [edit]
No title
パンツことジェシはまつげのハンターとなって活躍中ですw
「MH4のストーリーをサイドから追う」というコンセプトのため、ジェシはこのままナグリ村に村に向かってしまいますが^^; ロッソのバックボーンを掘り下げたらそっちがかなり重たくなったので、ジェシをはじめ同人諸氏のキャラクター達はその補完という形に落ち着きそうです。まあお嬢ことコウはともすればロッソよりも特別待遇になっておりますが。まあそこは桃色ということで勘弁しておくれよ、とw
4Gが出る前には第三幕の執筆に取りかかっておきたいなぁ(遠い目
  • 2014-08-17│20:09 |
  • ロッソ・チネリ URL│
  • [edit]
Re: No title
そうか、もうまつげかw
秋には4Gですからねえ。桃色氏はどうやら記憶喪失らしい?ので、楽しみ楽しみ^^
  • 2014-08-18│00:45 |
  • 銀貨 URL│
  • [edit]

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